本編
私が使っている電車の路線に、名物的な駅員がいる。
その駅員は『占い師』って呼ばれていて、知る人ぞ知るというくらいの有名人だ。
その駅員は改札を通るときに、『遅延証明書』を渡してくるときがある。
別に電車遅延になっているわけじゃないのにだ。
なんだろうと思って、よく見てみると未来の日付になっている。
そして、凄いことに、その日付、時間に電車遅延が本当に起こるというものだ。
さらにもっと凄いのが、『その人間が、その遅延する電車に乗る』かどうかも予測している。
つまり、その路線を使っている全員に遅延証明書を渡すのではなく、電車遅延で影響がある人にだけ渡しているというわけだ。
私も、遅延証明書を渡され、帰りが遅くなるなって思って、よく見てみると時間が昼間になっていて、そんな時間には乗らないよと思った。
だけど、仕事の関係で、急遽、他社でのミーティングが入って移動することになった。
その電車が、まさしく電車遅延したのである。
あるとき、私はその店員に、「どうして未来のことがわかるんですか?」と興味本位で聞いたことがあった。
だけど、本人はきょとんとした顔で「何の話ですか?」と返されてしまった。
どうやら本人にはその自覚がないらしく、まるで夢遊病のように無意識でやっているようだった。
本当はもっと深堀して調べてみたかったが、そのことがきっかけで、『遅延証明書』を出さなくなったら本末転倒だと思い、諦めた。
私一人の興味で、他の人の楽しみを奪うわけにはいかない。
中にはその『遅延証明書』を集めているマニアもいるくらいだ。
そんなある日のこと。
出社のために電車に乗っていると、乗り継ぎ先で電車遅延が起こっていた。
そのときは未来の『遅延証明書』は貰っていなかったので、おかしいなと思った。
でも、ちょうど、『占い師』の駅員が出勤じゃなかったんだろうと、思っていた。
休んでいれば、渡しようがないので、しょうがない。
そして、電車は完全に運休となり、振替輸送として、バスが出ることになり、それに乗ることにした。
駅の改札のところでは、駅員が通る人たちに『遅延証明書』を渡している。
私も受け取ろうと思い、列に並んだ。
すると、その『遅延証明書』を渡していたのが、あの『占い師』の駅員だった。
なんだ、いるじゃんと思って、並んでいると、『占い師』の駅員は私の顔を見ると『遅延証明書』を引っ込めた。
私は遅延証明書を貰うと手を出すが、結局、渡してくれなかった。
不満に思いながらも、バスに乗ると、その乗客たちもどうやら遅延証明書を貰えなかったようで、文句を言っていた。
未来の遅延証明書を渡してくれるのはいいけど、ちゃんと現実の遅延証明書も渡してほしいんだけどな。
終わり。
■解説
『占い師』と呼ばれる駅員は、『電車遅延の影響がある人間』に『遅延証明書』を渡している。
だが、語り部は今回、『遅延証明書』を渡してもらえなかった。
さらに、その『バス』に乗った乗客にも、『遅延証明書』は渡されていない。
つまり、そのバスに乗った乗客は『電車遅延の影響がない』ということである。
この後、バスは事故に遭い、乗客は死んでしまうことになり、『遅延証明書が必要なくなる』ということになる。
