■本編
年末といえば忘年会だ。
会社の人たちとの忘年会は苦痛だが、友達との飲み会はまさしく今年一年の嫌なことを忘れるのにいい機会だと思う。
俺は人見知りで恋人はもちろん、友達も一人もいない。
休みもずっと一人で過ごしている。
そんな俺でも、年末にいつも忘年会を開く相手がいるのだ。
年に1回だけ会うんだが、その仲は20年以上変わらない。
そして、今日はそいつとの忘年会がある。
いつもの店に行くと、店員がやってくる。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
「はい」
「カウンターへどうぞ」
店員に案内されてカウンター席に座り、俺はいつも通りの注文をする。
「カシスオレンジ」
「相変わらず、カシスオレンジが好きだな」
横を向くと、あいつがいた。
どうやら、もう先に来ていたようだ。
俺たちは乾杯をして、今年1年の愚痴を言い合う。
やっぱり、話すことは重要だ。
聞いてもらえるだけで、随分とストレス解消になる。
楽しい場だと、お酒も進む。
いつもついつい飲み過ぎてしまうが、1年に1度なんだから大目に見て欲しい。
「お客様。閉店の時間ですよ」
店員に声をかけられ、俺を起き上がる。
どうやら、カウンターで突っ伏して寝てしまったようだ。
周りを見ると他に客はもういない。
もちろん、あいつの姿もない。
帰る前に一言くらい声をかけてくれればいいのに。
……なんて、無理な話か。
俺は会計を済ませて、店を出た。
終わり。
■解説
語り部は友達が一人もいないと言っている。
なのに、忘年会をしている相手がいるのは、どういうことだろうか。
そして、店に来た時、語り部は店員に一人か?と聞かれて、肯定している。
普通であれば、待ち合わせしているというのではないだろうか。
つまり、「そいつ」とは語り部が作り出した、イマジナリーフレンドかもしれない。