この話は、墓の下まで持って行こうと思っていたんだ。
どんなに親しい人でも、恋人でも、子供でも、絶対に言えない話。
言ってしまえば、全員が俺のことを軽蔑するだろう。
逆の立場だったとしたら、俺はそいつを罵倒して、縁を切ると思う。
だから、誰にも話すつもりはなかった。
でも、この前、衝撃的なことがあってから、俺は物凄く悩んだ末、ここに記すことにする。
これは告白というより、意見を聞きたいという思いが強いんだと思う。
これは一体、どういうことなのか。
もしかしたら、俺は既に狂っていて、本当は精神病院のベッドの上で寝てる、なんてオチなのかもしれない。
そうだとしたら、その方が救いがあるのだけど。
では、俺の告白、というよりは罪を聞いて欲しい。
俺は小学2年生の時、親父が事故で亡くなり、母親の親、つまり祖父の家に転がり込むことになった。
祖父の家はかなり田舎にあり、学校も、小学校と中学校が一つになった、一校しかなかった。
もちろん、学年にクラスは一つしかない、というより1年生から3年生までが一つのクラスだった。
俺は結構、都会に住んでたということもあって、クラスの人たちからはやっかまれていて、嫌われていた。
というより、はっきりに言うと、イジメられていた。
物を隠されるのは当たり前で、椅子や上履きの中に画びょうを仕掛けられたりはまだいい方で、陰で殴られたりしていた。
先生たちは知ってたと思う。
でも、いつも先生は他の子の味方だった。
俺がイジメられていても見て見ぬふり。
イジメられていると言っても、俺が悪いと言われる始末だ。
母親にも相談してみたが、気にするなと言われた。
当時は何でだろうと不思議だったけど、今考えれば母親も母親で、職場でアタリが厳しかったんだと思う。
俺に構っている場合でもなかっただろうし、俺をイジメていた親に文句を言いに行けば、今度は自分が職場でイジメられると恐れたんじゃないだろうか。
そんな俺の唯一の味方だったのが、祖父だった。
祖父はいつも酒を飲んでいて、顔が赤かったが、俺の話を真剣に聞いてくれたし、俺の話に憤慨してくれた。
俺の味方がいる、ということで、救われた気がした。
祖父がいたからこそ、俺は悪夢の1年を乗り切れることができたと思う。
祖父には感謝してもしきれない。
ただ、正直に言うと俺は祖父のことを好きではなかった。
いや、好きじゃなかったというと語弊がある。
祖父のことが怖かったと言った方が正しいと思う。
祖父は戦争を経験していて、よく戦争の話をしてくれた。
――とても、楽しそうに。
戦争に行っていた人は、そのときの記憶がフラッシュバックして、トラウマになるという話をよく聞く。
だが、祖父はその逆だった。
戦いで人を撃ったときの快感が、未だに忘れられないと言っていた。
帰って来てから、シカや熊なんかを撃ってみたが、やはり人を撃ったときの快感とは比べ物にならなかったらしい。
だけど、戦いが終わった今、銃で人を撃つわけにはいかない。
だから、いつもお酒を飲んで、気を紛らせていたみたいだ。
そんなあるときだった。
俺はクラスのガキ大将に、階段から突き落とされて、腕の骨を折った。
それなのに先生や母親、祖母は何もしてはくれなかった。
だが、唯一、祖父だけが怒りを露わにしてくれた。
そして、祖父はこう言った。
「もう我慢できん。やっちまおう」
祖父はそのガキ大将のことを調べ上げた。
いつ、どこに行くか、どこかで一人になるかを。
確か、3日くらいしてからだと思う。
祖父は、そのガキ大将が水曜日に、山の奥に一人で行くことを調べ上げた。
次の週の水曜日。
祖父はしまっていた銃を取り出し、俺を連れて山へと入った。
しばらくすると、祖父の言う通り、そのガキ大将が山に入ってくる。
祖父は狙いを定め、そのガキ大将を撃った。
一発で命中した。
ガキ大将の頭が撃ち抜かれ、その場に倒れる。
祖父は物凄く興奮していた。
今まで見たことのないほどの笑顔だった。
そして祖父は、秘密の場所へと運んで、そこにガキ大将を埋めた。
祖父はニコリと笑って「内緒だぞ」と言った。
次の日、ガキ大将は行方不明になったとして大騒ぎになった。
駐在さんも出てきて、村の人のほぼ全員で探していたが、見つかることはなかった。
それから2ヶ月後。
母親は、違う場所で仕事を見つけ、その村から俺を連れて出ていった。
新しい土地ではイジメられることはなく、俺は普通の学校生活を送ることができた。
その頃には祖父のことは忘れていた。
いや、忘れようとしていたんだと思う。
小学生としては重すぎる記憶を、無意識に消そうとしていたんだろう。
それから20年が経たった。
祖母が亡くなったと連絡が入り、葬儀に参加するため、その村へと再び行くことになる。
葬儀の喪主は母親だった。
そのとき、俺は祖父じゃないのかと思った。
なぜなら、俺は祖父の葬儀に出た記憶がなかったからだ。
だから、生きていると思い込んでいた。
だけど、祖母の家の壁には、祖父の遺影が飾ってあった。
その遺影を、最初に見たとき、俺は祖父だとわからなかった。
なぜなら、その遺影の写真は、祖父の若い頃のものだったからだ。
だから、母親に「なんで、古い写真を使ってるの? 普通、最近の写真を使うものじゃないの?」と聞いた。
祖母の遺影は、亡くなる1ヶ月前の写真だったというのもある。
すると母親は不思議そうに首を傾げた。
「おじいちゃんの写真はこれしか残ってないんだから、しょうがないでしょ」
軍服姿の祖父の遺影。
きっと、戦地に行く前に撮ったものだと思う。
でも、帰ってきてから1枚も写真を撮らなかったんだろうか。
祖母の写真は、結構あるのに。
そのことも母親に聞くと、今度は信じられないような顔で俺を見た。
「何言ってるの。おじいちゃん、戦地から帰ってきてないわよ。戦地で亡くなったの」
頭が真っ白になった。
そんなわけない。
だって、小学校の頃、ずっと祖父と遊んでいたのに。
それから俺は色々と調べた。
すると、確かに記録では祖父は戦地に行ったまま、帰ってきていないことになっていた。
そうすると、小学校の頃の記憶が間違っていたんだろうか。
イジメが辛すぎて、変な記憶を作り出したのかもしれない。
だとすると、あのガキ大将を撃ったというのは、捏造された記憶なのかもしれない。
俺は罪を犯していなかった。
そんな望みを持って、俺は記憶の片隅に残っていた、『秘密の場所』へ行き、その場所を掘り起こした。
そしたら、子供の白骨死体が出てきた。

