本編
先月、私が住んでいるマンションで火事があった。
その火事は火の勢いよりも、煙が物凄くて、ほとんどの人が一酸化炭素中毒で亡くなった。
私は偶然、部屋にいなかったから巻き込まれなかったけど、もしいたとしたら危なかったかもしれない。
火事は5階で起きて、私は6階に住んでいたから、きっと煙とか火は凄かったんだと思う。
それは帰って来てからの部屋に充満する焦げた臭いからも想像できる。
当然だけど、マンションにいる人たちのほとんどは既に引っ越している。
私も引っ越したいと思っているけど、忙しいのと、面倒くさいというのがあり、結局、未だにこの部屋に住んでいるという状況だ。
未だに住んでるのなんて、私を含めて5人もいないんじゃないだろうか。
しかも6階には、もう私しか住んでいない。
静かなのはいいんだけど、やっぱり夜になると同じ階に誰もいないのはちょっと怖い。
すぐ下の階だと人も亡くなってるしね。
もちろん、サイトを見ると事故物件になってる。
とはいえ、私が住んでる6階にはあまり被害はなかったけど、5階は結構酷い部屋が多いって聞いた。
リホームしないと住めないみたいだけど、オーナーはそもそもマンションを取り壊そうかと悩んでるらしい。
私としてはまだ住んでるんだから、取り壊してほしくないけど、オーナーからしたら5人くらいのために残しておくのも逆に損になるだろう。
そう考えると、早めに住む場所を探し始めておいた方がよいのかもしれない。
でも、すぐには無理だ。
仕事でそれどころじゃない。
今日も終電にギリギリで乗り込んで、マンションに帰ってくる頃には既に深夜の12時を過ぎている。
そんな中、ほとんど住んでいないマンションのエレベータに乗るのはちょっと怖い。
入るときは防犯のために最上階を選んだけど、今は2階くらいにしておけばよかっと思う。
2階くらいなら階段で行けるし。
さすがに仕事終わりに6階まで階段で登る元気はない。
エレベーターに乗り、6階のボタンを押す。
ゆっくりとエレベーターが上っていく。
すると5階でエレベーターが止まった。
一気に冷汗が噴き出す。
私は5階なんて押してない。
もちろん、ボタンも光ってなかった。
ということはエレベーターが勝手に止まったということだ。
火災があって、人が亡くなった5階に。
絶対に幽霊だ。
そう思って、ドアが開く前からひたすら『閉』ボタンを連打する。
緊張する中、ドアが開く。
すると、そこには若い男の人が立っていて、エレベーターに乗り込んできた。
「こんばんわ」
爽やかな笑顔であいさつされ、私の緊張は一気に緩んだ。
「こんばんわ」
私も挨拶すると、男の人がエレベーターに乗り込む。
そしてエレベーターは6階に停まった。
私はエレベーターを降りて自分の部屋へと向かう。
本当に幽霊じゃなくてよかった。
終わり。
■解説
6階は語り部しか住んでいないはずである。
そして、語り部は自分が住んでいるのは最上階だと言っている。
それなのに、若い男は5階で、『上』へ向かうエレベーターに乗り込んでいるのはおかしい。
若い男は幽霊ではないが、語り部を狙っているのかもしれない。
