本編
「よし、じゃあ、掘り起こすぞ」
サトシの言葉に、俺とマサキは頷く。
土曜日の21時。
校庭の隅とはいえ、こんな時間におっさん3人が集まっているのはかなり怪しい。
いや、どちらかというと、誰にも見られないようにこの時間にしたのだ。
とはいえ、通報されても面倒なので、さっさとスコップで地面を掘り起こす。
「ホントにここだっけ?」
30分も掘り続けるがなかなか見つからず、マサキが息を切らせながら言う。
「うーん。タツヤのメモだと、ここのはずなんだけどな」
なんせ、埋めたのは30年も前だ。
タツヤ以外に、場所を覚えているやつなんていないだろう。
そもそも、埋めたことすら忘れていたくらいだ。
さらに30分ほど掘り返す。
すると――。
コツンと、スコップに土ではない感触がする。
「あった! あったぞ!」
俺が叫ぶと、2人が駆け寄って来る。
「懐かしいな」
「俺、全然、記憶にねーわ」
掘り出したアルミの箱を見ながら、2人が感慨深げに言う。
タイムカプセル。
小学校を卒業するときに30年後も変わらず友達でいようという誓いを立てた。
その証のために、30年後に5人で集まって、掘り返そうと約束したのだ。
高校卒業くらいまでは、互いに違う学校に進学しても、5人で頻繁に集まっていた。
だが、大学に入る頃には年に1回、就職する頃には全く会うこともなくなってしまう。
仕事に追われる毎日が続き、休みなんて寝て過ごしていた。
そして、なんのために仕事しているのか、いや、なんのために生きているのか、さえ考えなくなった頃、一本の連絡が入ってきた。
ケイタが死んだ。
7年ぶりに聞いた、親友の名前は訃報の知らせだった。
事故死だったらしい。
そして、7年ぶりに、ケイタの通夜で4人が集まる。
その日は、ケイタの横で、4人で泣きながら飲み明かした。
その日をきっかけに、また4人で集まるようになったが、その2年後に、今度はタツヤの訃報が届いた。
タツヤは自殺だった。
どうして、と思う反面、タツヤならやりかねないと思った。
タツヤは誰よりも先を見通す人間だった。
俺たち4人は随分とタツヤに助けられた。
だけど、タツヤは前面に出るタイプではなく、裏で支えてくれる奴だった。
誰よりも先が見えるやつだったからこそ、自分にしか見えないものに苦しんだんだろう。
小学校の頃の俺たちは、5人の友情が途切れることなんて考えもしていなかった。
だから、タツヤがタイムカプセルを埋めようと言い出した時は、正直、意味がわからなかった。
でも、きっとタツヤはあの頃から、大人になれば友情を維持するのは難しいと気付いていたんだろう。
そして、葬儀のとき、タツヤの母親から、タイムカプセルの場所が書かれた紙が遺書と一緒に置いてあったと言って渡された。
それでこうして夜に小学校の校庭に集まって箱を掘り出したというわけだった。
「開けてみようぜ」
サトシに言われて、俺は頷く。
そして、目印のために蓋と箱の間に貼ってあったシールを剥がす。
蓋を開けてみると、そこには5枚の紙が入っていた。
それぞれが30年後の自分に書いた手紙だ。
俺はサトシとマサキに、それぞれの手紙を渡し、自分のも手に取って開いてみる。
そこには未来の予想というか願望が書かれていた。
凄いお金持ちになっているだの、可愛い人と結婚しているだの、読んでいて恥ずかしくなるくらいだ。
サトシとマサキも同様に、すぐに手紙を閉じてポケットに入れてしまった。
残っているのはケイタとタツヤの2枚の手紙だ。
「墓に添えて、あいつにも恥ずかしい思いをさせてやろうぜ」
マサキがそう言うので、俺とサトシは同意した。
だが、タツヤの手紙の裏側には『みんなへ』と書かれていた。
どうやらタツヤは自分宛てではなく、他のみんなへの手紙を書いたみたいだ。
それならばと、タツヤの手紙を開いて読む。
そこには俺たち3人への言葉が綴ってある。
俺には仕事が面白くなかったら転職という方法もあるみたいなことが書いてあった。
サトシには子供に冷たくされても、それはただの反抗期だというようなことを、マサキには食べ過ぎはよくない、もっと健康に気遣ってと書かれている。
本当に驚いた。
文章自体は小学生らしく、ちょっと稚拙な感じだったが、今の俺たちに当てはまりそうなことが書かれている。
どれだけ先を見通してたんだ、お前は。
最後の最後まで、いや、死んでからも3人を支えるなんて。
それよりも、もっと自分に目を向けてほしかった。
もっといろいろと話したかった。
だから、改めて誓う。
俺たちの友情はこれからも変わらないと。
終わり。
■解説
語り部たちは『5人』でタイムカプセルを埋めている。
だが、タツヤの手紙には『3人宛』の言葉しか綴られていない。
つまり、タツヤは『ケイタがその場にいない』と知っていたことになる。
一体、小学生のタツヤには何が見えていたのだろうか?

