〈前の話へ:画面の明るさを上げると、映ってはいけないものも見えますよ〉
これは話したくなかったんだけど、酒の勢いってことで。
だから、あんまり本気にしないでくれると嬉しい。
もしかしたら……いや、たぶん、俺の勘違いだと思うし。
大した話でもないんだ。
本当に。
期待してたらごめん。
って、前置きが長くなったかな。
じゃあ、話すよ。
今の会社の一つ前にいた会社の先輩なんだけど、ちょっと変わった趣味を持ってたんだ。
いや、趣味っていうよりは、こだわりっていうのかな。
それは事故物件に住むってことなんだ。
昔……いや、今もよく聞くけど、いるよね、そういう芸人。
それを素でやってるんだよ。
別にそれで配信してるとか、SNSで書き込んでるとかはしてない。
で、割と頻繁に引っ越すんだよね。
早い時なんか、3ヶ月くらいで移動してたかな。
いや、別に本当に幽霊が出たから引っ越したってわけじゃなくて、単純に飽きやすいからなんだってさ。
それでまた、どこからか事故物件を探してきて、移るって感じかな。
俺は仕事とかで先輩に世話になってたからさ、よく引っ越しの手伝いとかしてたんだよね。
手伝ったときは飲みに連れてってくれるっていうのもあって、割と抵抗はなかったかな。
中にはいるよね。休日に仕事関係の人と会うのを嫌がる人。
それは人それぞれの考え方だから否定はしないけどね。
それで、3回目のときの引っ越しの手伝いの時だったかな。
ふと、先輩に聞いてみたんだよ。
「オカルト好きなんですか?」って。
そしたら、先輩はきょとんとしてた。
何言ってんだって感じで。
だから俺は「事故物件に住んでるのは、オカルトが好きだからじゃないんですか?」って聞いたんだよ。
そしたら、先輩は笑ってた。
先輩曰く、単に家賃が安いから借りてるんだって。
オカルトは逆にキライなくらいだって言ってたよ。
俺からしたら、キライなのによく事故物件なんかに住むなって思うけどね。
そのときはそれで話が終わったんだけどさ。
それから4ヵ月後くらいしたころかな。
先輩が今のところが飽きたって言い出したんだよ。
そろそろ次の場所に移りたいって。
俺は心の中でまたか、って思ったよ。
それで話の流れで、「今度はどんな場所がいいんですか?」って聞いたんだ。
そしたら、先輩が決まってないから探すのを手伝ってくれって言うんだよ。
手伝うって、物件を調べるとかかなって思ったら、単にドライブみたいな感じだった。
マンションとか、アパートとか、一軒家とか車で見て回るんだよ。
それで、このへんいいな、とか、ここはコンビニがないからダメだとか。
何日か、ドライブに付き合ったときだったんだけど、先輩があるマンションの前に車を止めたんだ。
そして、そのマンションを見上げて言ったんだ。
ここ良さそうだって。
そしてその次の週末、さっそく引っ越しの手伝いに呼ばれたんだ。
それで俺はいつも通りに先輩の引っ越しを手伝った。
もちろん、先輩が良さそうって言ったマンションだよ。
引っ越し先は。
……わかった?
この話に違和感があるの。
そう。
そうなんだよ。
偶然、そのマンションの部屋が空いてたのかもしれない。
偶然。偶然ね。
でもさ、先輩は『事故物件にしか住まない』んだ。
後で調べたら、先輩が入った部屋は事故物件だったよ。
しかもね、『事故物件になった』のが、先輩が良さそうって言った『次の日』だったんだ。
もしかしたらさ、こういう偶然もあるかもしれないって思ったんだよ。
だから、俺はちょっと調べてみたんだ。
今まで先輩が住んでた部屋のことを。
今、考えればやめればよかったと後悔してるよ。
全部ね、先輩が引っ越す数日前に『事故物件になってた』んだ。
え?
先輩が殺してたんじゃないかって?
いや、さすがにないでしょ。
そんなことしてたらもう捕まってるって。
それに、そこに住みたいってだけで、しかも、安く住みたいってだけで、人を殺すなんて馬鹿げてる。
だからさ、俺は考えた。
これは偶然なんだって。
先輩は物凄い幸運な人なんだって。
君もそう思った方がいいかもね。
