〈前の話へ:休憩室の「座ってはいけない椅子」〉 〈次の話へ:誰も降りない終点〉
私は趣味で靴を集めている。
とは言っても、ブランド品を買って飾るとかのコレクションするわけじゃなくて、全部履くために集めている。
集めているなんて言ったけど、単にデザインが気に入ったらすぐ買っちゃうだけなんだけどね。
しかも、全部履くつもりで買うから、あんまり靴箱には入れない。
いちいち出すがの面倒だからね。
それにその日の気分で選ぶから、出しておいた方が都合がいいのだ。
だからいつも玄関には靴がびっしり並んでいる。
友達なんかが家に遊びに来ると、靴を置く場所がないって文句を言われる。
友達にはだらしないって言われるけど、心外だ。
ちゃんと並べてるし、置く場所を決めてある。
つまり私にとってはこれがベストの状態なのだ。
なので、散らかっているように見えても、私にとってはちゃんと靴が定位置に並んでいるということ。
だからね。
すぐわかるんだ。
違う靴があったら。
あれは6ヶ月前の話。
その日も普通に、会社から帰って来て、ドアを開けて玄関に入った。
そして、入った瞬間に気付いたの。
私の靴じゃないものがある。
私はすぐに部屋から出て、警察を呼んだ。
だって、私は一人暮らしだし、家族も友達も家にくる予定はなかったから。
しかも、平日の22時だ。
そんな時間に私に黙って家に来るわけがない。
そもそも、家の鍵は私しか持っていない。
ということは、誰かが窓から家に侵入したのかもしれないと思ったから、警察を呼んだのだ。
警察はすぐに来てくれて、家の中をくまなく調べてくれた。
でも、家には誰もいなかった。
それどころか、戸締りもしっかりしてあったし、侵入された形跡がなかったのだ。
警察からは気のせいじゃないかって言われた。
大体、侵入者が玄関に靴を置いておくのも変だと指摘された。
それでも、玄関にあるのは私の靴じゃない。
友達が忘れて行ったわけでもない。
それに靴を忘れていくなんてあるわけがない。
当然、私はその、誰のものかわからない靴を捨てた。
当たり前だけど、履く気にはなれない。
とにかく、その件は終わったと、自分の中で無理やり納得させた。
でも、また同じことが起こった。
私の靴じゃないのが、玄関に置いてある。
すぐに警察を呼ぼうと思ったけど、また気のせいとか言われるのは嫌だったから、恐る恐る家の中に入った。
やっぱり誰もいなかった。
窓も全部内側から鍵がかかっているし、玄関の鍵もちゃんと閉められていた。
念入りに家の中を調べてみたけど、誰かが隠れているなんてことはなかった。
そもそも隠れる場所なんてないし。
だからまた、その靴を捨てた。
そしたらまた靴があって、それが3回くらい続いた。
それで引っ越しをしたんだけど、引っ越した先でも同じことが起こる。
わざわざ引っ越しまでしたのに、って思うと段々腹が立ってきた。
だから私はもう気にしないことにしたの。
別に侵入された形跡もないし、物が減ったりするわけでもない。
ただ単に玄関に知らない靴が増えるだけ。
増えたら捨てる、その繰り返しをすればいい。
そう思ってたんだけどね。
今度は状況が変わった。
靴が増えなくなったの。
いいことだと思うでしょ?
でも、違うの。
今度はね、靴が減ったの。
私の靴が1足、無くなったんだよね。
まさか盗まれた?
なんて思ったら違った。
次の日、靴が戻ってきてた。
そして、何日かしたら、また違う靴な無くなって、また戻ってくる。
つまり、誰かが私の靴を履いて出て行って、戻ってきているような感じだ。
でも、家の中には誰もいない。
侵入されたわけでもない。
最初は戻ってきた靴は不気味だから捨ててたけど、そしたらまた違う靴が無くなる。
これだと靴がドンドン無くなってしまう。
だから、もう放っておくことにした。
今日もまた、誰かが私の靴を履いて出かけている。

