【洒落怖】楳山惠一(うめやまけいいち)という男

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入院をきっかけに、不思議なことが起こるようになった。

いや、起こるというよりは思い出すようになったと言った方がいいかな。
普通に過ごしてたら、不意に「あ、これ前にあったな」と思うことがある。

デジャヴじゃん。

まあ、そう思うよね。
俺も最初はそう思ったんだ。

けどさ、まったく行ったことのない場所で、絶対に俺がやらないような行動を「前にやった」と感じるなんて変じゃない?

友達に相談したらさ、デジャヴっていうのは大概は夢で見たことと似たようなものを見たときに感じるらしい。
だから、行ったことのない場所や俺がやらないようなことをしても、デジャヴを感じても別に変じゃないという話だ。

そう説明されれば、納得できる。
だから、気にしないようにした。

でも、そうもいかなくなった。

というのも、性格が変わったと言われることが多くなったのだ。

なんか怒りっぽくなって、物にあたるようになったらしい。
確かに、そう言われればちょっとしたことでイライラすることが多くなったような気がする。

あとは何より、好みが変わった。

前はジャンクフードなんて好きじゃなかったのに、最近は毎日のように食べたくなる。
この前なんて、3食全部ハンバーガーにしたくらいだ。

しかも、前は運動が好きだったのに、今は外に出ることすら億劫と思うくらい。

そのせいで、太ってきてヤバい。

あとは、知らない人がやたらリアルで夢に見る。
会ったこともない人なのに、懐かしいというか、昔から知っているような感覚。

夢だから、そういう不思議な感覚でもあり得るのかもしれないけど、そういうのを頻繁に見るのは正直、不気味になってくる。

しかも、俺のことを「けいいち」とか言うんだ。

もちろん、俺の名前は全然違う。
でも、夢の中の俺は「けいいち」と呼ばれても普通に返事をするし、自分のことだと認識している。

さすがにこれをデジャヴというのには違和感がある。

そんなとき、違う友達が、こんなことを言った。

「それって記憶転移じゃないか」

記憶転移って言うのは臓器移植によって、臓器提供者、つまりはドナーの記憶や性格、趣味、嗜好、習慣の一部が、臓器受給者に移ってしまうという現象らしい。

そう言われてみるとなるほどと思う。
確かに合っていることが多い。

性格や趣味、食べ物の好みの変化や、知らない記憶を夢に見ることだって、それで説明がつく。

すると友達は面白がり、「調べてみようぜ」と言い出した。

俺はできるだけ、夢の内容を詳しく友達に話した。
そして、何より「けいいち」という名前が大きなヒントになった。

『楳山惠一』

俺が入院している時期に、亡くなった人だ。
調べてみると、事故で脳死状態になり、本人の希望でドナーとなっている。

俺と友達はその人の友人だと嘘をついて、楳山惠一の両親に会って話を聞いた。

すると、ビックリするくらい当てはまった。

楳山惠一は怒りやすくて、すぐに物にあたる癖があり、ハンバーガーが何よりの好物だったらしい。
そして何より運動嫌いで、なかなか家から出なかったようだ。

その日はたまたま、好きなフィギュアを買いに行ったときに事故に遭ったということだった。

両親に話を聞いた帰り道、友達は満足そうに「やっぱりこういう不思議なことってあるものなんだな」と言った。
しきりに友達は「調べてよかったな」と自分で頷いている。

でも、俺はそうは思わない。
というより、調べるべきじゃなかったと心底後悔している。

友達が盛り上がっているのに水を差しちゃマズイと思って、話を合わせたのがダメだった。

はっきり言えばよかったんだ。

「俺、臓器移植なんてしてない」って。