妻とは3年前に駆け落ちして籍を入れた。
貧乏ながらも、妻とは愛の溢れる生活を続けていた。
そんなあるとき、妻が一枚のチラシを持ってきた。
それは賃貸を紹介するものだった。
そこに書いていたのは1LDKで月々1万円というものだ。
それを見て、俺は「安い」というよりも「安すぎて怪しい」と思った。
なぜなら、相場の5分の1だったからだ。
でも、妻は既に入居を申し込んだのだと言う。
それがあまりにも嬉しそうに言うものだから、俺は反対できず、結局、そこに入居が決まり、引っ越すことになった。
引っ越してみたら安い理由が分かった。
それは何より、古いということだ。
築20年。
風呂とトイレが一緒なのはもちろん、洗面台も古臭い。
なにより台所の水道から、お湯が出ないのにはビックリした。
自分が見つけてきたからか、妻は得意げで、文句一つ言わなかった。
でも、正直、家賃が安くなったおかげで、生活が楽になったというのもある。
今までだったら、切り詰めいた食事も、月に一回は外食ができるようになった。
住めば都とはよく言ったものだ。
3ヶ月もすると、俺もこの家に慣れてきた。
と、思っていたのも束の間。
異変は突然起きた。
朝起きて、鏡を見ると首に痣があるのを見つけた。
何だろうと思って、妻に「なんだと思う?」と聞いたら、キョトンとされてしまった。
妻に「痣なんてない」と言われたのだ。
俺にしか見えないんだろうか?
それが凄く不気味で怖い。
仮に俺にしか見えないにしても、どうしても気になってしまう。
今は幸い冬だから、なるべく首が見えない服を着て、出社している。
そして、その日から異変が続いた。
首の痣が日に日に濃くなっていく。
さらにその痣が、手の形になっていった。
そのせいか寝起きが悪く、体が重い。
仕事中もぼんやりすることが多くなって、同僚にもよく注意されるようになった。
一体、何が起こっているんだろう。
まったくわからない。
これが続いたせいか、ついには記憶障害まで発生し始めた。
起きてから、会社に着くまでの記憶がないというのが、度々出てくる。
俺のその様子を見てか、妻は心配して、一緒に精神科に付き添ってくれた。
俺は頭がボーっとしているので、妻が医者に説明してくれる。
医者からは鬱と診断され、抗うつ剤と睡眠薬をもらった。
睡眠は取れていると思ったが、医者が出してくれたのだから、ちゃんと飲むことにする。
でも、薬を飲むようになってから、ぐっすり寝れていたのが、夜に目を覚ますようになった。
目を覚ますと言っても、ぼんやりと起きるという感じだ。
目を覚ますのだが、物凄く眠い。
そのせいか、体は全く動かない。
まるで金縛りだ。
そして、俺はぼんやりとした視界の中で見た。
何かが俺の首を絞めているのを。
いくら家が古いと言っても戸締りはしっかりしているし、隣には妻が寝ている。
妻や俺に気付かれずに、俺の首を絞めるなんてことは不可能だ。
ただ、それで俺はようやくあることを思い出した。
なぜ、この家の家賃がこんなに安いのか、ということだ。
いくら古いからと言って、月1万円はおかしい。
そう思って、ネットで調べてみる。
俺は画面を見て、凍りついた。
それは、この部屋が事故物件だったということだ。
なんでも、前の住人が首を吊って自殺している。
俺はそれを見て、納得した。
つまり、幽霊が夜な夜な、俺の首を絞めていたということだ。
俺がそのことを妻に話すと、妻はすぐに霊能力者を呼んでくれた。
なんでも、その界隈では有名な人らしい。
その人は部屋に入るなり、部屋に地縛霊が憑いていることを指摘した。
俺は何も言ってないのに、夜な夜な首を絞められることや、隠していたのに首に手の痕が残っていることさえも見破った。
俺たちにとってはかなり手痛い出費だったが、妻は俺の命には代えられないと言って、お祓いの料金を払ってお祓いしてもらおうと言ってくれる。
そして、その霊能力者はお祓いをして、「これでもう大丈夫」と言ってくれた。
それを聞き、俺は安心し、妻もすごく喜んでくれる。
だが、その日の夜。
俺はまた夜中に虚ろな状態で目が覚める。
また、誰かが俺にまたがって首を絞めていた。
俺は高額なお祓いの料金を祓った手前、妻にはこのことは話せないでいる。
それからも、毎日のように、俺は幽霊に首を絞められ続けている。
きっと、今日も締められるのだろう。
俺は夜になると憂鬱になる。
寝るのが怖い。
