本編
お母さんは、病気だった兄さんをずっと献身的に看病していた。
兄さんは父さんの前の結婚相手との子供だったけど、母さんは僕と同じように自分の子供だと言って接していたんだ。
いや、もしかしたら僕よりも、兄さんのことを可愛がっていたかもしれない。
病気でいつも寝込んでいた兄さんを昼夜問わずに看病するお母さん。
僕のことを後回しにすることも多かったけど、そんな母さんを誇りに思っている。
血の繋がっていない家族に対して、そこまでできるなんて、本当に凄い。
僕も兄さんのことは、普通の家族として見るようにしていたけど、もしかしたら心の中でどこか隔たりがあったのかもしれない。
病気で、ほとんど寝てばかりの兄さんと接する機会があまりなかったというのもある。
だから、正直に言ってしまうと、兄さんが亡くなったときはそこまで悲しくなかった。
父さんと母さんはずっと塞ぎ込んでいたけど、僕は1ヶ月もすれば兄さんがいない生活に慣れていた。
というより、あまり接していなかったんだから当たり前なのかもしれないけど。
兄さんが亡くなってからは、お母さんは僕を気にかけてくれるようになった。
今まで兄さんに手をかけていた分を、僕にまわしてくれるような感じだ。
それは僕にとって嬉しいことだったし、絶対に口には出さないけど、そういうことで言えば兄さんが亡くなってよかったとさえ思う。
そんなあるとき、僕はキッチンの棚であるノートを見つけた。
開いてみると、中には料理のレシピも載っていたけど、他には見慣れない名前が並んだページがあった。
ヒガンバナ、スズラン、トリカブト、クワズイモ、麻黄、山梔子、附子。
それの調合配分が事細かく書いてある。
それを見て、僕は思い出した。
兄さんは何個も病院を渡り歩いてきたけど、有効的な治療法が見つからず、お母さんは自分で漢方を調合していた。
お母さんは毎日、遅くまで勉強していて、漢方に詳しい先生なんかにも話を聞きに行っていたくらいだ。
お母さんの薬は良く効くという評判で、近所の人たちも貰っていたらしい。
そこまでしていたなんて、本当に兄さんはお母さんに愛されてたんだと思う。
そう考えると、少しだけ兄さんに嫉妬さえ覚える。
さてと。
そろそろ、病院に行く時間だ。
去年から、僕も兄さんと同じような症状が出るようになった。
お医者さんは、遺伝的なものかもと言っていた。
冗談じゃない。
兄さんのように死んでたまるか。
お母さんにまた、この漢方を作ってもらおう。
お母さんの薬を飲めば、きっとよくなるはずだ。
終わり。
■解説
ヒガンバナ、スズラン、トリカブト、クワズイモは漢方薬ではなく、毒草の名前である。
そして、麻黄、山梔子、附子は漢方薬の中でも毒性や副作用のリスクがあるものである。
さらに母親は、漢方の知識があるはずなので、間違ったとは考えにくい。
つまり、語り部の兄は、元々病弱ではなく、母親の毒草によって体が蝕まれていた可能性が高い。
そして、語り部も「兄と同じ症状」が出ている。
もしかすると母親は、語り部のことも殺そうとしているのかもしれない。
