本編
今日は年に一回の墓参りの日だ。
10年間、欠かさずに来ていることに我ながら感心する。
墓参りが済むと、友人の一人が久しぶりに温泉宿にでも泊まりに行かないかと提案してきた。
俺たち4人は、今となっては全員が妻子持ち。
俺は毎年来ているが、他の3人も来て全員が集まれることはなかなかない。
俺は妻に電話して、なんとか了承を貰う。
他のみんなも時間が取れたようだった。
さっそく4人が泊まれる宿を手配する。
4人で電車移動するというのも、昔を思い出せて懐かしい。
俺は携帯を取り出して、カメラを起動させる。
昔なんかは、わざわざ使い捨てカメラを買って、写真を撮ったものだ。
しかも、写真を撮ったらそれをメールで送れるんだから、今は本当に便利になった。
俺は「はい、チーズ」といきなり叫んで、シャッターを切る。
不意打ちで撮ったから、変な顔のやつがいるかなと思ってデータを見た。
すると、意外なことに4人全員がこっちを見て笑顔で写っている。
なんだ、面白くないな。
だが、その写真を改めて見て、俺たちは温泉に行くのをやめた。
終わり
解説
その場にいたのは全員で4人である。
そして、語り部はカメラを構えて、撮った側なので写真には写っていないはず。
それなのに、『4人』がこっちを見て笑顔で写っているのはおかしい。
つまり、写真には、既に死んでいる友人が写っていたのである。
それを見て、語り部たちはすぐに次の駅で降り、温泉宿には行かずに家に帰った。