暗殺者
男は孤児だった。
すぐに政府に引き取られ、暗殺者として育てられた。
政府の命令で、様々な人間を屠った。
他国の要人や、反政府の人間、女性や子供など関係なく、男は殺した。
指令の紙に書かれた人物であれば、誰だろうと殺す。
そう、育てられていた。
しかし、男に良心がないわけではなかった。
殺しの後は心が重く、眠れない日が続いた。
いや、男がゆっくりと眠れた日などない。
そして、ついに男の心に限界が訪れた。
体も衰え、一発で仕留められないことも多くなっている。
男は政府に引退したいと申し出た。
政府は男を説得しようとしたが、男の意思は固かった。
政府は折れて、男の引退を認めることにした。
最後に、1つだけ仕事をして欲しいと、政府は男に指令の紙を渡した。
男は指令の紙に書かれていた男を殺して、暗殺者人生に幕を下ろした。
そして、その日、男は初めて安らかな眠りについた。
終わり。
解説
政府が最後に渡した紙には、暗殺者の男の名前が書かれていた。
男は自殺し、暗殺者人生を終わらせ、安らかな眠りについた。
一人暮らし
少女は母親と二人暮らしだった。
シングルマザーで、母親は少女を大切に育ててきた。
しかし、少女から見ると母親は口うるさく、煩わしいと感じている。
高校に入る際、少女は母親に一人暮らしをしたいと願い出た。
母親は了承しなかった。
少女は母親に甘やかされて育てられたせいか、頼りない性格だった。
すべてを母親任せで、我慢することを知らない。
そんな少女が一人暮らしなんか絶対に無理だと、母親は考えていた。
少女は母親を説得しようとするが、毎日、母親と喧嘩になってしまう。
少女は説教する母親を黙殺し、半強制的に一人暮らしに漕ぎつけた。
一人暮らしを始めた次の日。
少女は小さな袋がたくさん入った、ゴミ袋をゴミステーションに捨てた。
すると、隣人からこう言われた。
「ミサちゃん、今日は資源ごみの日よ」
少女はゴミ袋を持って帰った。
「ゴミの日。ちゃんと調べないとな」
とりあえず、少女はお腹が減ったので、冷蔵庫を開いた。
終わり。
解説
隣人が少女の名前を知っているということは、少女は引っ越していないということになる。
それなのに、「一人暮らし」になったということは母親がいなくなったということになる。
つまり、少女は母親を殺し、ゴミとして捨てようとした。
散歩
天気のいい休日。
スマホを見ながらブラブラと歩いていると、ふと肩がぶつかってしまった。
慌てて「すみません」と謝ると、女性も振り返って「ごめんなさい」と頭を下げた。
「気を付けないとね!」
「そうね」
「あ、赤だよ! 止まらないと」
「ありがとう」
僕にぶつかったのは、どうやら親子みたいで母親と女の子が手を繋いで歩いていた。
女の子は張り切っているのか、色々と母親に話しかけている。
「青になったよ、行こう!」
「そこ、段差あるよ!」
「あ、こっち! 左だよー!」
僕はその親子を見て、微笑ましく思う。
新しく弟か妹が生まれるんだろうか?
姪っ子も弟が生まれる前、あんな感じで張り切っていた。
お姉ちゃんになるからと。
その日の夜。
突然、男性が家に尋ねてきた。
一人でふらふらと歩いている女性を見なかったかと聞かれた。
なんでも、行方不明らしい。
その女性は全盲で、杖も家にあったので遠くまでいけるはずがないのだという。
僕は「ごめんなさい。見てません」というと、男性は肩を落として「そうですか。失礼しました」と言い、今度は隣のインターフォンを押して、同じことを隣人に聞いていた。
行方不明なんて物騒だなと思いながらも、気に留めることはなかった。
そして、次の休日。
散歩でブラブラと歩いていると、またあの親子を見かけた。
子供が母親の手を引いて歩いている。
相変わらず元気な女の子だな。
けど……あの子のお母さんってあんな顔だっけ?
終わり。
解説
女の子は人さらいのメンバーの一員。
女性を連れ出す役目。
最初、語り部が会った女性は「語り部と肩がぶつかって」いる。
そして、女の子が話している内容は、目が見えない人を誘導しているようなものばかりだ。
つまり、子供が誘拐犯の一員だとは思わないという心理的な隙をついた犯罪だと言える。
ハロウィンの夜
私にはすごく仲のいい、親友がいる。
どこに行くのも、何をするにもいつも一緒の友達。
そんな友達が最近はノイローゼ気味になっている。
なんでも、誰かにずっと見られている感じがするらしい。
しかも、その視線には恨みがこもっているのだという。
私は何度も気のせいだよと言ってみたが、絶対にそんなんじゃないと言い張っている。
精神的に弱っていく親友を放っておけなくて、私は気晴らしにハロウィンに参加しようと誘った。
仮装して人たちが街に溢れる、アレだ。
最初は嫌がっていた親友だったが、被り物で誰だかわからないようにすれば大丈夫と言うと渋々了解してくれた。
一か月前から仮装の準備を進める。
ジャックオーランタンと髑髏のお化けの仮装。
時間をかけたおかげか、結構、クォリティが高いものになった。
完成した時は親友と抱き合って喜んだ。
そして、ハロウィン当日。
仮装をしようとすると、突然、親友が仮装を変わってほしいと言ってきた。
理由はよくわからなかったけど、親友がそうしたいのならと、私は彼女と仮装を交換した。
街につくと、早すぎたせいか、あまり人がいなかった。
それでも、一度帰るのは面倒くさいし、仮装したまま時間を潰そうということになった。
ハロウィンということもあり、仮装したままでお店に入っても店員になにか言われることもなく、逆にノリのいい店員は、トリックオアトリートと言って、お菓子をくれたりする人もいた。
親友も楽しんでいるみたいで、元気にはしゃいでいた。
だけど、そんなとき。
歩いていると、いきなり前を歩いていた女の子が、親友をナイフで突き刺した。
私が悲鳴を上げると、すぐに刺した女は取り押さえられた。
救急車が来て、親友を乗せる。
もちろん、私もそれに付き添った。
青ざめる親友の手を握りしめながら、私は「本当に狙われてたんだ」と、ハロウィンに誘ったことを後悔した。
終わり。
解説
ずっと狙われていたのは、親友ではなく、いつも一緒にいた語り部の方だった。
心霊スポット
夏と言えばホラー。
ホラーと言えば、心霊スポット。
その日、俺たちは浮かれていた。
久しぶりに高校の頃に仲良かった友達が集まったってことで、飲み会をしたのだ。
居酒屋が閉まって、さてどうするかといった話になった時、一人がいきなり「心霊スポットに行こう」と言い出したのだ。
酔っぱらっていたこともあり、一人を除いて全員が「行こう」となった。
たった一人、反対したのは酒が飲めないT。
俺らが酒を飲んでいた横で、ずっとソフトドリンクを飲んでいた。
それでも他の4人に押し切られる形で、Tは渋々OKした。
心霊スポットに向かう車中でも、Tは「やっぱり運転させられると思ったよ!」と愚痴ばかり言っていた。
ノリで心霊スポットに行こうと言い出しただけで、全員がそういうのに詳しいわけじゃない。
だから、実際、どこに行こうってなったときに、結局、ググって調べて近場のスポットに行くことにした。
Yがさらに詳しく調べたらしく、そこは結構、ガチで霊の目撃情報も多いらしい。
到着すると、そこは廃墟というか、火事で燃えた一軒家だった。
恐る恐る入ってみると、当時の火事が凄まじかったのか、壁も燃え尽きてるため、どこが何の部屋かわからないくらいのありさまだった。
家の酷いありさまと不気味な雰囲気により、俺達の酔いもさめてきていた。
俺が「一回りしたら帰ろうぜ」と言うと、みんな、それに同意した。
ゆっくりと家の中を歩いて行く。
「子供部屋だって。火事の時、ここに子供がいたのかな?」
ぽつりとSがつぶやく。
色々なものが散乱しているため、何度も転びそうになりながら、進んで行く。
「ここの書斎で火事が起こったんだ」
誰に言われるまでもなく、みんなが手を合わせた。
「よし、帰ろうぜ」
俺が言うとみんなが頷き、車へと戻る。
帰りはみんな無言だった。
TはYやS、俺を家まで送り届けて、自分の家に帰って行った。
せっかく楽しかった時間が微妙な感じで終わってしまった。
俺は二度と心霊スポットなんか行くなんて言わないぞと心に決めた。
終わり。
解説
心霊スポットの家は火事で、『どこが何の部屋かわからないくらい』になっていたのに、途中、『子供部屋』や『書斎』の場所がわかったのはおかしい。
実は霊が紛れ込んでいて、説明していたのかもしれない。
また、『他の4人に押し切られる形で、Tは渋々OKした』とあるので、最初は語り部も含めて『5人』いたはずである。
しかし、帰った際、Tは語り部、Y、Sの3人しか送り届けていない。
ということは車には4人しか乗っていなかったことになる。
つまり、1人、心霊スポットで消えている。
ある富豪の我儘
ある男がいる。
その男は莫大な富を築き、世界の半分を手に入れたと噂されるほどだ。
欲しいものをすべて手に入れてきた男は順風満々の人生を送っていた。
しかし、ある日。
男は肝臓の病気にかかった。
医師からは余命は長くても3年と言われてしまう。
男は財力を使い、ドナーを探したが一向に見つからない。
お金を使い、裏から手をまわしても見たが、それでもダメだった。
ただ悪戯に時間が過ぎていくことに焦りを感じた男は政府に干渉して、ある法案を決定させた。
その法案とは、選ばれた人間は強制的に臓器移植のドナーにされるというものだ。
つまり、一人が犠牲になることで、多数の人間を救うという仕組みになる。
もちろん、国民のほとんどは反発したが、男は財力にものを言わせて無理やり可決させた。
その法案を成立させるために、男は財産のほとんどを使った。
だが、生き延びれるなら安いものだと男は思う。
あとは自分に適合するドナーが現れるのを待つだけ。
そして、ついに男の順番がやってきた。
男は絶望し、政府はこの法案を撤廃した。
終わり。
解説
男はドナー側として選ばれ、臓器を提供することになった。
また、男は財産のほとんどを失っていたため、ドナー側として選ばれることを阻止することができなかった。
そして、この男は周りから相当恨みを買っていたため、ドナー側として選ばれてしまった。
一流レストランの料理長
料理人の男は世界中を旅して、ありとあらゆる動物の肉を食べた。
そして、どんな肉でも、一口食べればなんの動物のどこの部位かまでを当てることができる。
男はまさに肉のプロフェッショナルだった。
その腕を買われ、男は三ツ星レストランの料理長としてスカウトされた。
男が料理長になってから、さらにお店の名前も有名となり、連日、男の肉料理を食べるために人々が殺到した。
しかし、男は自分が出す肉料理に満足していなかった。
そんなある日。
男の元に、ある業者がやってきた。
他の店には出していない、特別な肉を持ってきたのだという。
最初、法外な値段を提示され、男は鼻で笑って断ろうとした。
だが、その肉を一口食べ、懐かしい味に考えが変わった。
男はその業者にあるだけ買うと約束し、その業者との取引が決まった。
業者から仕入れた肉料理を出すようになってからは、さらに来店する客の数が倍増した。
世界中から予約が殺到し、半年先まで予定が埋まるほどだった。
それから2年後。
あるニュースが世界中で有名になった。
それはある犯罪組織が警察に捕まり、解体されたというニュースだ。
その組織は子供を誘拐していたのだが、その人数に世界が驚愕した。
それから1ヶ月後。
男の店のメニューから特別な肉料理が消えた。
終わり。
解説
男が取引していた業者は犯罪組織のメンバー。
そして、仕入れていたのは子供の肉だった。
さらに、男は一口食べて、その肉が「人間の子供の肉」だったことがわかっていた。
ということは、男は以前、人間の子供の肉を食べたということになる。
一体、男はどこで人間の子供の肉を食べたのだろうか。
近所のおばあちゃん
アパートの近くに、近所でも有名な気さくなおばあちゃんがいる。
僕は小さい頃、おばあちゃん子だったこともあり、そのおばあちゃんとは結構、仲がいい。
時々、家に遊びに行ったりもするくらいの仲だ。
だが、そのおばあちゃんは90歳を越えたこともあり、時々、体調を崩すことがある。
看病に行くと言ったこともあったが、「それは悪いよ」と断られた。
そして、体調不良が続いたのか、1週間ほどめっきりおばあちゃんの姿を見なくなった。
家に押し掛けようかと思ったが、一度、看病を断られている。
だから、僕はドアの郵便受けに、手紙を入れた。
買って来て欲しいものがあったり、何かあるなら返事がほしいって。
すると、次の日、ドアの郵便受けに手紙が挟まっていた。
それはおばあちゃんからの返事だった。
心配かけてごめん、すぐによくなると書かれている。
それからは文通のように、おばあちゃんとの手紙のやり取りが続いた。
文章は短く、世間話のようなことばかりだが、僕にとってはそれでも嬉しかった。
そんなやりとりを3ヶ月ほど続けたときだった。
突然、おばあちゃんからの返事が途切れたのだ。
僕の出す手紙に返事がない。
僕は嫌な予感がして、すぐに警察に連絡をした。
ドアを開けて中に入ると、そこには白骨化したおばあちゃんの遺体があった。
とても悔しかった。
手紙が途切れた時にすぐに連絡していれば、と。
だけど警察の人は、年が年だし、寿命だよ。君のせいじゃないと言ってくれた。
そして、その証拠にと言って、テーブルの手紙を渡してくれた。
そこにはおばあちゃんの字で、「ありがとう。楽しかったよ」と書かれていた。
僕もおばあちゃんと会えて、とても楽しかったよ。
僕は手を合わせて、おばあちゃんの冥福を祈った。
終わり。
解説
おばあちゃんの遺体は『白骨化』していたということは、少なくとも死後3日以上は経っているはずである。
では、その期間、語り部の手紙を受け取っていたのは誰なのか?
(「僕の手紙への返事が途切れた」と言っていることから、受け取ってはいることになる)
空の上
お母さんは空の上にいる。
幼い頃から、少年はずっとそう聞かされていた。
父親は母親がいなくなってからは、仕事に没頭するようになり、少年を顧みなくなった。
少年は引っ込み思案ということもあり、学校ではイジメられ、家では一人で過ごすことが多かった。
絶望と孤独に苛まれた少年は、母への想いが強くなっていく。
そして、少年は決断する。
母に会いに行くことを。
少年はどうやったら母親に会えるかは、おぼろげに理解していた。
なので、町の一番高い建物の屋上へと向かった。
少年は空へ向かって飛んだ。
最初は少年の予想に反して、体が地面に向かって落ちていく。
だが、目の前が真っ暗になった後は、少年の体は軽くなり、上へ上へと昇っていった。
そして、空の上へと、少年は辿り着いた。
だがそこには、少年の母親はいなかった。
終わり。
解説
少年は自殺したので、地獄に落ちてしまった。
秘密
俺には職場にずっと憧れの先輩がいる。
先輩は美人で仕事が出来て、いつも部下のことを庇ってくれる。
部署のみんなも先輩を慕っている。
その先輩がいるからこそ、俺はどんなに仕事が忙しくても、2ヶ月休みがなくても耐えることができた。
俺はこの先もずっと、先輩と働いていけると思っていた。
先輩も、たとえ結婚したとしても仕事を続けると言っていた。
だから、一緒に働き続けることができると思っていた。
しかし、俺は見つけてしまった。
先輩が横領しているのを。
会社にはもちろん、部署のみんなに見つからないように先輩を呼び出す。
そして、先輩に横領の証拠を見せて、会社に自白するように説得した。
すると先輩は今回が初めてだったこと、実はほとんどの金額はこっそりと返していること、実際に取ったのは20万ほどだったことを聞いた。
先輩はその20万もすぐに会社に返すから、このことは秘密にして欲しいと言われた。
疑う理由が見当たらなかった。
先輩には今まで何度も何度も助けてもらった。
恩返しと言うと語弊があるかもしれないが、俺は先輩を信じることにした。
それから3ヶ月、何事もなく過ぎていった。
だが、突然、先輩が会社を辞めた。
俺はもちろん、部署の誰にも言わず、知っていたのは先輩の上司だけだった。
いきなりのことで、部署のみんなは戸惑った。
しばらくの間、仕事場は混乱していた。
だが、俺は何となくわかっていた。
おそらく、先輩は横領をしてしまったという事実に押しつぶされてしまったのだ。
先輩は人一倍、責任感が強い人だった。
だから、たとえお金を返したところで、罪悪感を拭えなかったのだろう。
だからこそ、誰にも言わずに辞めていったのだ。
最後まで責任感が強かった先輩に、俺は改めて尊敬し、一緒に仕事ができたことを光栄に思った。
次の日。
俺の家に、警察が訪ねてきた。
終わり。
解説
先輩は語り部の男に、横領の罪を擦り付けた。
横領自体も初めてではなく、お金を返したのも嘘だと考えられる。
(語り部は実際に金を返したところを見たわけでもないし、今回は初めてだという証拠も見ていない)