意味が分かると怖い話 解説付き Part1~10

意味が分かると怖い話

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地縛霊

学生ってさ、お金がないもんでしょ?

いくら親に仕送りしてもらってるって言っても、結構、生活がカツカツなんだよね。

まあ、バイトでもすれば、いいんだろうけど、やっぱ、面倒くさいし。

となれば、やることは一つ。

出費を削減することだ。

そこで思いついたのは、家賃が激安のところに引っ越すというもの。

で、偶然、ビックリするくらい安い所を見つけた。

前のところと比べて、2万も安いんだよ。

学生の身分からすると、月2万円浮くのは、かなり嬉しい。

だけどさ、そういうところって、あれなんだよね。

そう、事故物件。

俺が借りた部屋は、かなりヤバいらしくて、何人も亡くなってるらしい。

でもさ、幽霊なんて結局は気持ちの持ちようでしょ?

気にしなければいいんだからさ。

それに近くの人に聞いてみたんだけど、部屋に出るっていう幽霊が、住む人によって違うっていうんだ。

ある人は、髪の長い若い女っていてて、その後は、中年の男、その次は子供だってさ。

うーん。これはもう、嘘以外ないでしょ。

そんなにコロコロ変わるわけないじゃん。

ってことで、俺は気にせずに生活してたってわけ。

まあ、そりゃ、時々、変な音がしたり、物の場所が変わってたりしたけど、無視してたんだ。

別に物凄い害があるわけじゃないし。

でもさ、それが段々、無視できなくなってきたんだよ。

変な音も、眠れないくらいうるさくなってきたし、物が無くなったり、買った覚えのない物が出てきたり。

寝てるときに上から物が落ちてきたときは、正直、死ぬかと思ったね。

だから、あるとき、友達の知り合いに霊能力者がいるっていうから、格安で見て貰ったんだよね。

そしたら、やっぱり、地縛霊がいるんだって。

その人がいうには、なんか特殊な地縛霊らしくて、誰かを身代わりにするまで、その場に縛られて、成仏ができないらしい。

だから、この部屋に住んでる俺を、あっちに誘おうとしてるって話。

さすがに安い料金じゃ、除霊まではしてくれなかったけど、霊から身を守る方法は教えてもらった。

それをすれば、しばらくは大丈夫だから、その間に新しい部屋を探しなさい、だってさ。

でもさ、それをやれば大丈夫なら、引っ越す必要はないんじゃね?

とにかく、俺はその夜、さっそく、その方法をやってみることにする。

まずは、体を清めるってことで、体に塩を塗り込んでからシャワーで流す。

で、次に……って、あ、バスタオルねーや。

とりあえず、ハンドタオルでささっと拭いて、と。

次は部屋の中央に日本酒と盛り塩を置く。

最後に部屋を真っ暗にして、祈ればいい。

簡単だ。

だけど、テレビが付けっぱなしだった。

だからリモコンを探したんだけど、見当たらない。

ちょっと、イラっとして、テレビのコンセントを引き抜いてやった。

そしたらさ、いきなり、バチンって音がして、部屋の中が真っ暗になったんだよね。

多分、ブレーカーが落ちたんだと思う。

まあ、真っ暗にしなきゃならないからちょうどよかった。

で、幽霊に、手出しするなって祈ったんだ。

そしたらさ、ビックリするくらい止んだわけ。

変な音もしないし、物が無くなったりもしなくなった。

いや、ホント、快適。

もっと早くやればよかった。

……って、思ってたらさ。

再開したわけ。

今度はさ、ハッキリと姿も見せてくんの。

俺くらいの年の男。

はー、面倒くせえ。

また、あの除霊をやらないとなぁ。

終わり。

解説

主人公の男は除霊をやる際に、濡れた(塩を含んだ)手で、コンセントを触った際に、感電死している。

部屋が真っ暗になったのは、意識が飛んだから。

また、一時的に幽霊が出なくなったのは、主人公の男をあの世に引き込んだ為、元々いた幽霊は成仏したから。

再度、出て来た幽霊の正体は、主人公の男の部屋に新たに契約した住人。

近所の人たちが言っていた、幽霊の目撃情報が違うのは、地縛霊が入れ替わっているためである。

 

安全なマンション

今の世の中、個人情報というのはとても重要視される。

俺も以前、個人データが洩れて、ストーカー被害に遭ってかなり大変な思いをした。

顔も知らない人間に付きまとわれるというのは、本当に怖かった。

だから、セキュリティー面がしっかりとしたマンションを選んだんだ。

そのマンションはかなり徹底されていて、住人同士でさえも、個人的なことがわからないようにしてある。

住人同士が集まるなんてこともしないし、顔を合わせても雑談どころか挨拶もしない人が多い。
郵便物に関しても、しっかりとボックスには鍵がかかっているし、何が届いたかも、外からは絶対に見えないようにしてある。
それに、エレベーターでさえも、外からはどこに停まったかもわからないようにしてある。
つまり、その住人がどこの階に住んでいるかも、極力わからないように工夫しているというわけだ。
それに、このマンションには入っている人が少ないのか、エレベーターで一緒になることもほとんどない。

他の人からは、逆に怖いだの、仲がギクシャクしそうと嫌な顔をする人も多い。

けど、このマンションに来るってことは、俺と同じように、他の住人と関わりたくない人ということなのだから、これはこれでいいと思う。

実際、俺も、快適に暮らせている。

このマンションに来てから数ヶ月が経った頃のことだ。

俺は毎朝8時に、出勤ために8階からエレベーターに乗り、1階まで降りるのだが、5階から乗る女の人と一緒になるということが多くなった。

最初は挨拶もしなかったが、何回か顔を合わせることで、挨拶くらいはするようになっていた。

まあ、相手が若くて美人っていうのもあったんだけどね。

それからは、毎朝、彼女と顔を合わせることが少しだけ楽しみになっていた。
…挨拶以外は特に会話もしないのだけど。

あわよくば、帰りのときも一緒にならないかな、と期待したけれど、俺は帰宅の時間がかなりバラバラだったから、一緒になることはなかった。

そんなある日の水曜日。

俺の会社には未だに、ノー残業デーというのが残っていて、水曜日だけは早く帰れる。

いつもすぐに家に帰っていたが、その日は何となく、外食をしてから帰った。

マンションについて、郵便物を取ろうとボックスを開けるとそこには異常な光景が広がっていた。 ボックス内の物が黒焦げになっていたのだ。

すぐに警察と消防を呼んで、検証をしてもらったところ、俺宛に送られた郵便物に、時限式の小型の爆発物が入っていたらしい。

もし、外食せずにそのまま帰っていたら、確実に爆発に巻き込まれていただろう。

その爆発で死ぬことはなかっただろうが、下手をすれば火事になる可能性があったそうだ。

誰かに恨まれているのだろうかと悩みながら寝て、次の日のこと。

朝、エレベーターであの女の人に会った。

いつも通り、挨拶をした後、彼女はこう言った。

「昨日は大丈夫でした? 8階でボヤ騒ぎがあったんですよね?」

俺はすぐに引っ越す決意を固めた。

終わり。

解説

女はいつも、「5階から乗る」ことと、「帰りは一度も一緒になったことはない」ことから、主人公がどこの階に住んでいるかがわからないはず。

(朝は1階のボタンしか押されていないから、主人公がどの階から乗ったかはわからない)

また「ボヤ騒ぎがあった」と言っているのに、「8階で」と言っていることから、警察や消防が来た時には、そこにはいなかったことがわかる。

それなのに、ボヤになるようなことがあったと知っているということは、彼女が郵便物を送ったことになる。

さらに、時限式というところから、水曜だけはノー残業デーで早く帰ることも知っていたということになる。

つまりは、その女は男が引っ越すきっかけとなったストーカーである可能性もある。

(女とエレベーターで会うようになったのは、男が引っ越してから数ヶ月後ということからも、女が『後から』マンションに来たということも考えられる)

 

シェアハウス

私は今、二人暮らしをしている。

って言っても、その人とは別に恋人同士でもなんでもない。
私はその人に恋愛感情をもってないし、あっちも私にそんな感情をもってないだろう。
まあ、もたれても困ってしまうんだけど。

とにかく、私が転がり込むようにして、二人暮らしの生活が始まった。
私たちの生活は平凡そのもので、毎日が同じように過ぎていく。 

朝。
6時にアラームが鳴り始める。
もちろん、それは相手がセットしたアラームだ。
彼の朝は早いのだ。

そのアラームの音で、上の部屋の私の方が先に起きてしまうのだけど、私がアラームを消したり、彼を起こしたりなんてことはしない。
それはルール違反だ。

だから、彼が起きてアラームを消してくれるのをジッと待つしかない。
時々、彼がなかなか起きてくれなくて、イライラするけど、そこは我慢。
私は文句が言える立場ではないのだ。

なぜなら、私は家賃を払っていないから。
まあ、払えないといった方が正しいのだけれども。
 

とにかく、私は我儘が言える立場ではないので、我慢するところは我慢しないといけない。
部屋だって、私の方が随分と狭い。
人なんか呼べないほどだ。
……呼ぶ友達なんていないけどね
 

彼が家を出たら、ようやく私の時間。
下へと降り、テレビを付け、掃除を始める。

あ、もちろん、軽くだよ。
あんまり綺麗にし過ぎてもマズいから。
よく、部屋が汚い人が言うでしょ。
汚く見えるけど、それは自分が使いやすいように配置してあるだけ、だって。
彼もそのタイプみたい。
だから、気付かないところや、ずっと掃除していないところを重点的にやっていく。

いやー、この前、排水溝周りを見た時は、ビックリしたよね。
今までよく詰まらなかったな、って感じ。

だから、ピカピカにしてあげたんだ。
……彼は気づいてなかったけどね。

それが終わったら、朝食。
冷蔵庫を開けて、中を見る。
それなりに物が入っているけど、彼はあまり、料理をしない。
いや、仕事が忙しくて出来ないって言った方がいいのかな。
料理自体は好きみたいで、休みの日には食材を買っている。

でも、それが使われることはあまりない。
ほとんどを腐らせてしまう始末だ。

本当は私が作ってあげればいいんだけど…。
そんなことをすれば、何を言われるかわからない。
男からしたら、好きでもない女に作ってもらうのは嫌だよね。
ホント、男って面倒くさい。
 
ササっと朝食を作って食べて、食器を洗って元に戻す。
うん。完璧。

 
さてと、そろそろ、出かけようかな。

私は働いていないって言っても、ニートってわけじゃない。
日雇いのバイトとか、ちょっとしたお手伝いなんかをして、お金を稼いでいるのだ。
……まあ、自慢するほどの金額じゃないけれど。

そんなこんなで、今日も一日、平穏に過ぎていく。
こんな毎日がずっと続くのかなって思ってた矢先のことだった。
その平穏はあっさりと崩されることになる。

彼が引っ越しすることになったのだ。

急な転勤。
家じゃ、そんなこと言ってなかったのになあ。

なので、突然、彼とはお別れすることになった。
恋愛感情をもってなかったことが、不幸中の幸い。
とはいえ、寂しさはあるけどね。

だけど、彼は全く、そんな感じは出していない。
まあ、当然なんだけどね。

彼がいなくなった部屋の中は、かなり広く感じる。
やっぱり寂しくもあるけど、開放感もある。
 
なんか、部屋の主になったみたいで、結構嬉しい。
でも、今のままじゃ、ちょっと不便だなあ。

なーんて考えているときだった。
突如、部屋に人が入ってきた。

――そして、私は警察に捕まった。

終わり。

解説

主人公の女は侵入者。
部屋に住む男にバレないように、天井裏で息をひそめて暮らしていた。
だから、掃除も食事もバレないようにしていた。
最後は、部屋の中でくつろいでいたら、部屋を見に来た不動産の人と遭遇して、通報されてしまったのだ。

 

双子の誕生会

私は昔からよくイジメられていた。

 

歩くのがうるさいとか、先生に可愛がられてるとか、なんか気持ち悪いとか、ほとんど言いがかりみたいな理由で。

 

それで色々と意地悪された。

教科書や机に落書きされるのは別にいいんだけど、上靴とか連絡帳を隠されるのは正直、困った。

 

けど、私もやられっぱなしというわけじゃない。

しっかりと仕返しはする。

私は人よりも耳が良いみたいで、教室の端にいても、全員の話していることを聞き取れるんだよね。

だから、悪口とか、誰が誰を好きとかっていう話を聞き取って、本人にバラしたりして、友人関係を壊すなんてこともやってたんだ。

 

……今、考えると結構、悪質だよね。

でも、私も同じくらい意地悪されたから、おあいこってことで。

 

だけど、今回は完全にこれが裏目に出た。

クラスメイトの葵が、そんな私に目を付けてイジメ始めたのだ。

 

これがかなり悪質で、今までは意地悪で済む程度だったんだけど、怪我をするくらい。

しかも、周りには自分がやったってバレないようにするのが上手い。

仕返ししようにも隙を出さないし、ホントに困る。

 

そんな中、私を庇ってくれる人もいた。

違うクラスの朱莉ちゃん。

葵とは双子で、親でも見分けが付かないくらいそっくりらしい。

今まで見分けられた人がいないんだってさ。

まあ、私からしたら、全然違うでしょって感じなんだけどね。

 

とにかく、葵と朱莉ちゃんは双子でも、性格は真逆。

朱莉ちゃんは本当に優しくて、いつも私の味方をしてくれる。

ホント、天使って、朱莉ちゃんみたいな子を言うんだと思う。

 

そんなとき、葵と朱莉ちゃんの誕生日会を開くってことで、家に呼ばれた。

最近の葵は本当に調子に乗ってて、手が付けられないほどだ。

だから、私はちょっとした悪戯をすることにした。

 

「誕生日会で葵に不幸が訪れる」

 

そんな手紙を出してやったの。

葵はこんなのはただの悪戯だって強がってるけど、ずっと朱莉ちゃんの近くにいるから、大分、ビビッているみたい。

そっくりな朱莉ちゃんと一緒にいれば、相手が見分けがつかないはずだから、大丈夫だって思ってるんだろうね。

 

ざまあみろ。

これで少しは懲りたか、って思ったときだった。

 

急にバンと音がしたと思ったら、みんなが叫び始めた。

物凄い混乱ぶりだ。

 

それから5分後。

今度はさっきよりも凄い悲鳴が聞こえてくる。

阿鼻叫喚ってやつ。

なんと、葵が包丁で刺されていたみたい。

 

すぐに警察が来て、葵の両親や誕生会に参加している人たちからの事情聴取を始める。

 

そして、警察は私を容疑者として逮捕した。

 

調べたところ、葵になにか目印みたいなものを付けられてた痕跡がなかった。

だから、『停電で暗闇の中』、葵を特定して刺せる人間は『盲目』の私しかいない、だって。

うん。いい推理だね。

私が、葵と朱莉ちゃんを判別できることは、みんな知ってたし。

私が警察だったら、きっと同じことを考えたと思う。

 

でもね、私は数日後に釈放されたんだ。

 

なぜなら、真犯人が見つかったから。

 

え? 誰が犯人か、って?

いるじゃない。

私以外で見分けることができる人が。

――もう一人だけ。

 

終わり。

解説

犯人は朱莉。

親でも見分けがつかないくらいそっくりな双子でも、本人にはどっちが葵かがわかる。

 

空き巣

最近、空き巣が減っているらしい。

なんでかっていうと、例のアレが流行ったせいでテレワークが進んだからっぽい。

 

そもそも留守の家が少なくなれば、空き巣も減るのは当たり前ってことだね。

まあ、俺はテレワークができない仕事だから、家は留守になっちゃうんだけど。

 

だけど、空き巣の方も色々と新しいやり方を練り始める。

オレオレ詐欺も、どんどん巧妙化していくようにね。

だから、空き巣の方法もアップデートしていかなきゃって話だ。

本当に、世知辛い世の中だね。

 

で、その空き巣の新しいやり方っていうのが、配達員に化けるというものらしい。

つまり、実際にその家のインターフォンを押して、留守かどうかを確認するのだ。

 

数少ない留守の家から確実に空き巣をするための方法ってわけだね。

普段は出社してても、その日に限ってはテレワークする、なんてこともあるからさ。

空き巣からしたら、厄介ってわけだ。

 

インターフォンを押して、誰も出て来なければ、その家は留守だから、そのまま空き巣に入る。

もし、住人が出てきても、でたらめの配送品を見せれば、「それは家じゃありませんよ」と言われるから、怪しまれることはない。

それは周りの住人にとっても同様だ。

今のご時世、配達員が近所にいても、誰も怪しんだりしないからね。

俺もよく、ネットで買い物するし。

 

いやー、色々と考えるもんだね。

今は、いつ、どうやって、誰に騙されるか分からない世の中。

俺も十分、気を付けよう。

 

なんてことを、仕事しながら考えているときだった。

不意に、インターフォンの音が部屋に鳴り響く。

 

あ、もしかして……。

 

俺はそっと、ドアに近づいて、のぞき穴からドアの前の人物を見る。

案の定、配達員だ。

よくよく見ると、その制服は正規のものとは微妙に違う。

偽物ってことだ。

つまり、こいつが、あの噂の空き巣犯なんだろう。

 

よし! ラッキー!

 

俺はすぐに外に出て、警察に通報した。

終わり。

解説

語り部の男も空き巣氾。

空き巣をしているところに、噂の空き巣がやってきたということ。

また、空き巣は当然ながら、「テレワークができない仕事」となる。

それなのに「仕事中にインターフォンが鳴った」ということは、空き巣をしている最中ということになる。

語り部の男は、通報することで、自分の空き巣の罪をその空き巣氾になすりつけられると考え、ラッキーと思った。

また、逮捕させることで、同業者を減らすことができ、自分の取り分も増えると考えている。

 

彼女との思い出

俺は学生の頃、結婚を約束した人がいた。

 

その子のことは本当に好きで、お互い、成人を迎えたら結婚すると疑いもしなかった。

周りにも公認のカップルみたいな感じで、弄られることもないくらい、自然に付き合っていた。

 

そんなある日。

彼女が死んだ。

 

目撃者によると、階段から足を滑らせて落ちたのだという。

 

ショックだった。

まるで、自分の半身を失ったような感覚だった。

 

彼女がこの世を去って4年。

あれから正直、自分がどう生きてきたのか覚えていない。

ただ単に生きていただけ。

俺の魂は彼女と一緒に死んでしまったのだとさえ思っていた。

 

それでもいい。

いっそ、彼女の元へ行こうと何度も考えた。

そんな生活の中で様々な人と出会いもあったが、心を動かされることはなかった。

 

きっと俺はこのまま、誰のことを愛すこともなく、彼女を想ったまま最後を遂げるのだろう。

そう信じていた。

 

そんな抜け殻のような俺は、ある女性と出会った。

彼女は献身的に、俺に尽くしてくれた。

どんなに拒絶しても、俺に優しく接してくれる。

 

俺は彼女に、好きだった人のことは話していない。

それなのに、俺の心の傷を探ることなく、普通に隣にいてくれる。

 

いつしか、彼女が俺の隣にいることが自然なことになった。

いつの間にか、笑うことがある自分に気づいた。

彼女と一緒なら、俺はこの先も、前を向いて歩いて行けるのではないのだろうか。

 

もう心に区切りを付けよう。

今度は彼女を幸せにしよう。

 

そう、心に誓い、俺は彼女に告白した。

すると彼女は5年の恋がようやく実った、とほほ笑んだ。

 

全部話そう。

亡くなった、かつての俺の半身であった彼女のお墓の前で。

 

彼女が亡くなって、初めての墓参り。

少し、気持ちが複雑に騒めく中、彼女のお墓を探す。

そんなとき、隣を歩く彼女がこういった。

 

「あ、ありましたよ。ここです」

 

俺は彼女との結婚を破棄し、一生一人で生きていこうと決意した。

 

終わり。

解説

語り部は今の彼女に、昔に亡くなった彼女の話をしていない。

なのに、今の彼女は「墓を見つけることができた」のはなぜか?

つまり、今の彼女は「昔の彼女の名前を知っていた」ことになる。

また、彼女が亡くなったのは「4年前」で今の彼女は「5年の恋」と言っていることから、彼女が亡くなる前から、語り部の男のことを好きだったことになる。

さらに、亡くなった彼女が亡くなった際に、「目撃者」によると、階段から落ちたと言っていることから、今の彼女が階段から突き落としたという可能性もある。

 

精肉店

俺は精肉店を営んでいる。

人件費を浮かせるために家族総出で手伝って貰っているとはいえ、前まではそこそこ繁盛していて、家族4人を食わせていくのに不自由はなかった。

 

けど、例のアレでみんなが巣ごもりを始めるようになってからは、売り上げは激減した。

顔なじみが心配して、時々、買っててくれる程度。

今では肉を仕入れることも厳しい状態になっていて、店を畳もうかとも考えた。

 

そんなとき、友人があるアドバイスをしてくれたのだ。

 

「今どき、ネットを使わないで売り上げを上げようなんて無理だよ」

 

俺は友人のアドバイスに従って、大勝負に出ることにした。

丸々1体を解体して、ネット販売をするという方法だ。

 

いやあ、最初は半信半疑だったよ。

本当に売れるのかって。

 

でも、そんなのは無駄な心配だったよ。

そりゃ、もう、バンバン売れたね。

 

むね、もも、かた、リブ、タン、ヒレなどなど。

口コミがドンドン広がって、ひっきりなしに注文が入った。

 

解体作業も大忙し。

本当、一人で店を回すのはキツイよ。

まあ、嬉しい悲鳴ってやつだよね。

 

そんな中、ある一通の注文が来た。

 

「足と手はありますか?」

 

へー。なかなか通だね。

わかっていらっしゃる。

 

次の日、すぐに送った。

さてと、そろそろ肉がなくなってきた。

また、仕入れないと。

 

終わり。

解説

語り部は「丸々1体を仕入れた」と言っているが、「なにを」仕入れたかは語っていない。

豚、牛、鳥の部位には(腕と表現する部位はあるが)「手」はない。

つまり、語り部は豚、牛、鳥以外の「なにか」の肉を売っている。

そして、注文してきた人は、その「なにか」がわかっている上で「手」を注文してきたことになる。

また、始めは「家族総出」で店を手伝っていたが、今では「一人」で店を回している。

さらに、最後にはそろそろ肉がなくなってきたから「仕入れる」と言っている。

 

不良品のゲーム

最近のゲームは凄い。

VRっていう、まるでゲームの世界に入り込んだようなものまで出てきている。

 

CMで見てて、凄い欲しいと思ってたんだけど、最大の問題はお金がないことだ。

バイトを増やそうかと思ったけど、それだとそもそもゲームをやる時間がなくなる。

 

となれば、安く売っているものを買うしかない。

例え、多少壊れていようと、正規品じゃなくても、ゲームさえできればそれでいい。

 

ってことで、さっそく、ネットで購入した。

売ってたのは、物凄い怪しいサイトで、ゲーム機自体も、聞いたことのないような海外の会社が作っているものだ。

それでも、背に腹は代えられない。

とにかく、やれればいいんだ、やれれば。

 

では、念願のVRゲーム、開始!

 

だけどいきなり、バチンと音がして、画面が真っ暗になった。

 

なんだよ、まさか、いきなり壊れたのか?

くそ、せめて今日一日くらい持てよなー。

 

ため息を吐きながら、機器を取り外すと、部屋自体が真っ暗だった。

 

なんだよ。ブレーカーが落ちただけか。

 

俺は手探りゲームの電源を切り、ブレーカーの方へと向かった。

 

終わり。

解説

ブレーカーが落ちたのなら、ゲームの電源も落ちているはずである。

そして、真っ暗な状態でわざわざゲームの電源を切ったということは、BGMは流れていたということが考えられる。

また、ゲームが起動しているのなら、わずかながらも、起動していることを示す、ランプがついているはず。

手探りで、と言っているところから、その小さなランプすら見えていないことになる。

つまり、目の前が真っ暗になったのは、ブレーカーが落ちたのではなく、語り部の目自体が光を失ったと考えることができる。

 

「どう?」

「38度」

「凄く高いじゃない。……ねえ、食欲ある? おかゆ、作ろうか?」

「いいよ。危ないし」

「何言ってるの。いつも料理してるじゃない」

 

彼はしばらく寝込んだ。

病院には頑なに行こうとしなかったから、家で安静にしてても治るのに1週間かかった。

 

――そして。

 

「あーあー……」

「声……治らないね」

「……ごめん」

「なんで、あなたが謝るのよ」

 

確かに、彼の声が好きだった。

その声が変わってしまったことは、ちょっとだけ寂しい。

 

でも……。

 

「はい、コーヒー」

「ありがとう」

「うふふ」

「なに?」

「コーヒーカップ、言ったところにしまってくれたのね。ありがとう」

「え? 普通のことじゃないの?」

 

風邪になってから、彼は変わった。

ウィルスと一緒に、毒が消えたみたい。

 

口数が減って、声は低く枯れたような感じになっちゃったけど、私は今の彼の声の方が好き。

 

今は、彼の声だけじゃなくて、彼自身が好きって胸を張って言える。

ふふっ。今はとっても幸せよ。

 

終わり。

解説

語り部は盲目の女性。

コーヒーカップの場所にこだわっているのも、見えないから、定位置にないと探すのが大変だから。

そして、風邪をひく前と風邪を引いた後の男は『別人』。

目が見えないので、入れ替わっていることに気付かなかった。

熱を測ったときに、語り部の女性は自分で見ないで、相手に聞いたところや、「おかゆを作る」と言ったときに、男が「危ない」と言ったのも、語り部が盲目であることから。

 

意図せぬ同居人

よし、準備万端。

俺はチーズに即効性の毒を仕込んだ。

 

 

俺の家には同居人がいる。

 

シェアハウスでも、一緒に住もうと言ったわけでもない。

勝手に住んでいるのだ。

しかも、隠れて。

 

侵入者と言った方がいいのかもしれない。

 

いつからいるのかはわからない。

最初に違和感がしたのは、食べ物が減っている気がしたところだった。

 

3つしかないような物には手を出されないが、いわゆる、たくさんあるような物が微妙に減っている気がしたのだ。

 

例えば、切れてるチーズ。

18枚入りみたいなのが、少しずつ、減っているような感覚。

残り3枚になったときは、一切、手を出さないから、今まで全然気が付かなかった。

 

それに気づいてからは、家を出るときと、帰ってきたときで、微妙に物の配置が変わっているような気もする。

 

そこで、部屋の中に監視カメラを設置してみたのだが、誰かが写ってるなんてことはなかった。

 

でも、必ずいる。

そう確信している。

 

本格的に部屋の中や屋根裏まで調べようかと思ったが、段々と腹が立ってきたのだ。

 

俺が必死に働いている間、こいつは伸び伸びと俺の部屋で過ごし、食べ物を盗んでいる。

そう考えると、どうしても許せなかった。

 

仕事でストレスが溜まっていたせいか、思考は段々過激になる。

 

毒を盛ってやろう。

 

勝手に俺の部屋の中に入って、勝手に物を食って死ぬ。

天井裏にいるネズミに食べさせるつもりだったとか言えば、警察も俺の殺意を証明できないだろう。

 

ということで、俺はチーズに毒を仕込んだ。

チーズは残り6枚。

この数なら1、2枚食べるだろう。

だから、前の2枚に毒を仕込んだ。

 

次の日、俺は仕事に行き、そして帰宅して冷蔵庫を開けた。

 

チーズが1枚減っている。

 

よし、作戦は成功だ。

明日あたりに死体を探して、警察に連絡するか。

 

俺は残っているチーズの一番後ろを手に取って、口に入れた。

 

終わり。

解説

同居人は監視カメラに写ってなかったところから、いつも上から部屋の様子を見ていたことになる。

つまり、カメラの設置場所を把握しているということになる。

当然、語り部がチーズに毒を仕込んでいるところも見ている。

それは、「即効性の毒」を仕込んでいるのに、「チーズが1枚減っている」ことから、同居人はチーズのどこに毒が入っているかを知っていたことになる。

(即効性の毒を食べているのなら、語り部が部屋に入ったときには、倒れている同居人を見つけているはずである)

また、毒が入っていることを知っているのに、あえて、「チーズを1枚食べている」ことで、語り部の油断を誘っている。

長い間、上から語り部のことを観察していた同居者は、どこからチーズを取るかなどの語り部の癖も知っている可能性がある。

チーズを食べた語り部がこの後、どうなったかのは想像に難くない。

 

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