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ジンコツスープ

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本編

ある人気ラーメン店の閉店後に、1人の男が訪ねてきた。
その男は店主の友人で、ラーメン店の成功を激励しにやってきたのだという。

「いやー、久しぶり。まさか、お前がラーメン屋を始めるなんて思ってなかったよ」
「学生の頃はラーメンなんてくだらないって思ってたんだけどさ、社会人になってから激ハマリしたんだよ」
「それで自分でラーメン屋を始めたってわけか」
「そういうこと」
「凝り性のお前らしいよ。それでさ、お前んとこのスープ、変わった味がするな」
「お? わかるか?」
「わかるよ。それが人気の秘訣なんだろ? でさ、あれ、どうやって作ってるんだ?」
「企業秘密だって。いくらお前でも話せるわけねーだろ」
「頼むよ。誰にも言わないからさ」
「うーん……」
「頼むよ。親友だろ?」
「都合のいい親友だな。……はあ。わかったよ。これからいうことは独り言だからな。お前が盗み聞きしてたってことで」
「わかった。絶対に誰にも言わない」
「うちのスープ、トンコツスープって言ってるけど、違うんだよね。実はジンコツを使ってるんだよ」
「……は? ジンコツ? ジンコツって人の骨のことか?」
「ラーメン作りの修行をするために、俺、世界中を旅したんだよ。それで、アマゾンのジャングルに行った時だった。俺はある部族に会ったんだ」
「部族……?」
「それは人食いの部族でさ。俺も食べられそうになったんだけど、ちょうど、ダイヤを持っててさ」
「ダイヤって、ダイヤモンドか」
「そしたら、それが妙に気に入ったみたいでさ、俺は特別に食べられずに済んだってわけ」
「……それと、人骨と、どんな関係があるんだ?」
「その部族は人を食べるんだ。だからさ、骨なんかもいっぱいあるわけ」
「……お前、まさか」
「その部族の人に頼んだら、持って行っていいって言われたんだよ」
「いや、ちょっと待てよ……」
「で、豚とか牛とかの骨と一緒に、持って帰ってきたわけ。まあ、空港でも一本一本、何の骨かは調べられないし」
「……」
「いや、でも、ホント苦労したよ。ジンコツの臭みを消すのにさ。意外とクセがあるんだぞ、人間の骨ってさ」
「お前、マジで洒落にならねえって」
「……なーんて、ビビった?」
「え?」
「冗談だよ、冗談。今の独り言は冗談。まさか、本気にしたのか?」
「だ、だよな? いくらなんでも、それはないよな」
「ないない。ありえないって」
「ビックリするから、そういう笑えない冗談はやめろって」
「ごめんごめん。おっと、そろそろ、仕込みの支度しないと」
「俺も帰るよ。邪魔したな」
「ああ」
「じゃあな、また来るよ」
「いや、それは無理かも」
「へ? なんで?」
「実はさ、さっきの独り言なんだけど、あの中で一つだけ、本当のことがあるんだよ」
「え? ……あ、わかった。修行で世界中を旅したところだな?」
「違うよ」
「じゃあ、どこだよ」
「ああ。それはな……」
 
店主はそう言って、持っていた包丁を振り上げた。
 
終わり。

■解説

独り言の中の真実は「ジンコツスープ」であること。
ラーメン屋の店主は部族から骨をもらい受けたのではなく、自分で調達していた。
そして、店主は男の「また来る」という言葉に「無理」と言っている。
つまり、男はこの後、スープの材料にされてしまう。

 

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