本編
その峠道に、一人で深夜2時に車で通ると幽霊が乗ってくるという噂があった。
それは結構有名で、割と人が来ていたらしい。
一時期はよく動画配信者も頻繁に来ていたようだが、数ヵ月もするとブームは去り、今では誰も寄り付かなくなっているのだという。
もちろん、その噂のことは知っていたし、いくら幽霊を信じていない俺でも怖いものは怖い。
そもそも深夜の2時に峠道を通るなんて、心霊スポットじゃなくても来たいとは思わない。
それに外灯もほとんどないから、普通に危険だ。
免許を取って1年も経っていない俺からすれば尚更来るのを避けるべきだろう。
気にしないようにしようと思っても、どうしてもチラチラとバックミラーで後部座席を見てしまう。
カーブが多い道で、返って危険なのに、見るのをやめられない。
すると、助手席の彼女が「ビビりすぎ」と吹き出して笑った。
そして、すぐに口を尖らせる。
「いいから、ちゃんと前見て運転して。事故ったらどうするのさ」
彼女のその言葉で、俺の緊張は一気に解けた。
それからは彼女と会話しながら前を見て運転する。
そうしているうちに、気付いたら峠道を抜けていた。
怖いどころか楽しいひと時だった。
また来ようと思う。
終わり。
■解説
噂は『一人で』深夜2時に車で通ると幽霊が『乗ってくる』というものである。
もし、二人だったとしたら、語り部は何度も後部座席を確認するほど怖がらないはず。
つまり、助手席の彼女が幽霊。
彼女の幽霊が助手席に乗り込んできたので、語り部はまた来ようと思ったのである。
