本編
誰にだって、好きな匂いというのがあるのではないだろうか。
例えば、ラベンダーとかバラの匂いとか。
香水や入浴剤にこだわる人だって多いだろう。
それが、俺の場合、好きな匂いがちょっと変わっているだけだ。
俺の好きな匂いはずばり、人の匂いだ。
と言っても、汗や石鹸、シャンプーの匂いなんかじゃない。
純粋に体臭が好きなのだ。
もちろん、どの人の体臭でもいいわけじゃない。
ちゃんと好きな匂いというものがある。
それは言葉で表現するのは難しいけど、俺からしたら独特な匂いなのだ。
人それぞれ、匂いは違う。
同じ匂いの人なんかいない。
指紋が同じ人がいないように。
匂いフェチの俺からすると、一番優先されるのは体臭だ。
逆に言うと体臭から、その人を好きになることも多い。
というより、今まで好きになった人は、全部、体臭からだ。
今、俺には好きな人がいる。
同じ会社で、隣の席の人だ。
最初は仕事をしている間はずっとその人の匂いを嗅げるから最高と思っていたけど、逆に匂いに気を取られて集中できないこともある。
本当に好きな匂いだ。
今まで会ったどんな人よりも好きな匂い。
この人の匂いなら、一日中、嗅いでいたいくらいだ。
ある日、我慢ができなくなって、その人に告白した。
案の定、やんわりと断られてしまったけど。
でも、それは仕方ないことだ。
俺が好きだからと言って、向こうも俺のことを好きになるとは限らないから。
だから、匂いを嗅げるだけ、幸せだと考えるようにした。
最近は忙しくて、6時間くらいしか嗅げないけど。
いや、実際は起きてるときだけだから、1、2時間くらいか。
それでも最近は匂いが薄くなってきたというか、変わってきた。
また好きな匂いがする人に巡り合えるといいんだけどな。
終わり。
■解説
語り部が言っている体臭は、香水や石鹸などの匂いではない。
ということは、本人しか出せない匂いになる。
そして、「最近は忙しくて、6時間くらいしか嗅げない」「嗅げるのは起きているとき」と言っていることから、会社ではなく、「自宅」で嗅いでいる可能性が高い。
さらに、「最近は匂いが変わってきた」と言っている。
つまり、語り部は好きな人を殺し、家に置いておき、その匂いを嗅いでいた。
そして、死体が腐って来たので、匂いが変わってきたのである。