意味が分かると怖い話 解説付き Part651~660

意味が分かると怖い話

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マトリョーシカ

その村では女性の平均寿命が極端に短かった。
大体は25から40歳の間で亡くなっている。
男性の平均寿命は一般とは変わらず80歳前後だ。
 
特にその村では風土病などもなく、かといって女性だけが亡くなるような要因は見当たらない。
事故や病気でもなく、死んでしまうのだ。
だが、村人たちはそのことについて、誰しもが原因を追究しようとするのはもちろん、話題にすることもなかった。
 
また、村は閉鎖的なので、村の外の人間が調べに来ることもない。
 
A子の母親も30歳で亡くなっているため、父親が男手一つで育てている。
女性の平均寿命が短いこの村では、そういう家族が多い。
というより、ほとんどの家族がそうなっている。
 
そんなあるとき、A子は父親にこう尋ねた。
 
「女の人が早く死んじゃうなら、村の人たちがいなくなっちゃうんじゃないの?」
 
そのA子の問いに、父親はニコリとほほ笑んで、あることを話した。
それはこの村に古くからある言い伝えだ。
 
この村には昔から、ある人形が作られている。
それは、大きな人形を作り、その中にその人形よりも小さい人形を入れ、また、その人形の中に小さい人形を入れていくという方式の人形だ。
 
それは中から次々と小さな人形が出てくる様子は子宝に恵まれる象徴とされるのだという。
現に、その人形を作り続けている間、一度も子供の人数が少なくなったことはないと、父親は得意げに言う。
 
A子はその人形を見てみたいと父親に言うが、時期にならないと見せてもらえないらしい。
 
そして、それから10年後。
A子は家の蔵で、あるものを見つけた。
 
それは人間のミイラだった。
しかも、そのミイラには見覚えがある。
 
そして、A子は思い出した。
それは写真で見た、母と祖母だった。
 
A子は父親にどういうことかと聞くと、父親はそのミイラは前に話した人形だと言った。
なんでも、祖母の人形の中に母の人形を入れるものらしい。
 
A子はその話を聞いて、村の女性の平均寿命が短い理由がわかった。
 
終わり。

■解説

この村は、子供を産んだ女性を人形にしていた。
つまり、A子は子供を産んだのちは人形にされてしまう。

 

アンドロイド

今では一家に一台、アンドロイドがあるのが普通になった。
もちろん、うちでもアンドロイドを置いてある。
 
そんな状態だからか、各社はよりよいアンドロイドを作ることに躍起になっているようだ。
まあ、消費者からしたらいいことなんだろうけど。
 
様々なことができるものや、バッテリーが長時間もつものなど、多種多様な種類のアンドロイドが出ている。
 
その中でも今、トレンドなのがどれだけ人間に近づけることができているか、というものだ。
外見はもちろん、最新のAIを搭載しているためか、会話がとても流暢らしい。
そして、なんといっても、今まで実現できていなかった、感情を持つことができるようになったらしい。
 
怒りや悲しみ、楽しさなどは当然として、愛などの感情を持ち、嫉妬さえするのだという。
そんなアンドロイドが今、大人気らしい。
 
俺はあまり流行には敏感じゃないが、家にあるアンドロイドも結構古い型なので、そろそろ買い替えようと思い、思い切って最新のアンドロイドを買った。
 
買う前まではあまり興味がなかったけど、やはり最新型は凄い。
本当に人間みたいだ。
 
一人暮らしの俺にとって、アンドロイドはいい家族となった。
毎日、アンドロイドと過ごす中で、ドンドンと相手が機械であることが曖昧になってきた。
そして、そんな俺の思いを反映してか、アンドロイドの方も、妙に、俺に干渉するようになってくる。
 
昨日なんかは、帰りが遅くなったことに対して、理由を延々と問い詰められた。
これが、嫉妬という感情なのだろう。
最初はなんとなく可愛いと思っていたのだが、なんだか、次第に重くなってきた。
 
俺が女の子と一緒にいるだけで不機嫌になり、睨んでくる。
その目には憎しみが宿っているようにさえ思えてきた。
 
こうなってくると危険な状態らしく、放置しておくと取り返しのつかないことになるらしい。
数年前には、持ち主がアンドロイドの手にかかって死亡する事例もあったみたいだ。
 
ただ、そんなときに限って、仕事が忙しく、帰りが遅い。
なかなか設定のリセットするのが億劫になってしまい、放置してしまった。
 
そんなある夜、仕事から帰ったら、アンドロイドが包丁を持って立っていた。
なんでも、仕事で帰りが遅いことに憤慨しているようだ。
 
包丁を持って、いきなり襲い掛かってくるアンドロイド。
 
俺は必死になって部屋に立てこもり、急いでアンドロイドの説明書を開く。
その中に、緊急手段という項目があった。
それは、ある命令をすると、アンドロイドが自爆するというものだ。
 
ただ、それは本当に最終手段で、危険かつアンドロイドが木っ端みじんになるらしい。
だが、今はアンドロイドに殺されそうになっている。
後先を考えている場合じゃない。
 
そう考えていると、ドアが壊され、アンドロイドが部屋に入ってきた。
 
包丁を俺に突き刺そうと迫るのを、なんとか手で止める。
 
そして、俺はアンドロイドに自爆の命令をした。
 
終わり。

■解説

アンドロイドの自爆は木っ端みじんになるほどの破壊力があるということになる。
それを、語り部は至近距離で行ってしまった。
つまり、語り部も無事では済まないことになる。

 

寄生虫

世界中を混乱に陥れた感染症が落ち着きある中、今度は有害な寄生虫が広がりつつあった。
 
その寄生虫に感染すると、今のところ、致死率は100パーセントで治療方法も見つかっていない。
また、感染した自覚症状も全くなく、ある日突然、腹から成虫が飛び出してくるのだそうだ。
現在のところ、何が原因でこの寄生虫に感染するかわかっていないため、世界中の人々が感染症のときよりも混乱に陥っている。
 
当然、俺も毎日びくびくして過ごしているのだが、外に出ないわけにもいかないし、何も食べないわけにもいかない。
ただ、ひたすら感染していないことを祈るばかりだ。
 
だが、最近、お腹がチクチクと痛む。
もしかしたらと不安になっていたときだった。
政府が幼虫を見つける方法を見つけ、全ての国民に対して無償で検査を実施するという発表があった。
 
俺はすぐにその検査を受けた。
検査の結果は寄生虫の幼虫は体の中にはいないというものだった。
 
俺はホッと一安心した。
けど、腹痛は激しくなる一方だ。
明日、病院で診てもらおう。
 
終わり。

■解説

語り部の中に、幼虫はいない。
だが、既に成虫になっているため、見つけられなかったのかもしれない。

 

冷蔵庫

念願の業務用冷蔵庫を買った。
結構高くて、スペースをかなりとるけど本当に買ってよかった。
 
業務用だから、本当にたくさん物が入る。
今までぎゅうぎゅうに詰め込んでいたのに、それが嘘のように収納できる。
 
ただ、贅沢を言えば野菜室とかはいらないし、その分、冷凍室をもう少し広めにあるとよかった。
でも、まあ、これで満足している。
 
だって、これなら2人、いや3人分はいけるからね。
本当に広くて便利だ。
 
私は少食だから、消費するのが遅いんだよね。
でも、この冷蔵庫があれば、消費ペースに間に合うと思う。
 
それにしても、まだまだスペースが空いている。
なんだか、そのスペースが勿体ないなぁ。
 
あ、そうだ。
A子を呼ぼう。
 
ふふふ。
ようやくA子を家に呼べると考えると、なんだか嬉しくなってくる。
 
さてと。
そうと決まれば、さっそく準備しなくっちゃね。
 
終わり。

■解説

語り部は少食と言っている。
食べるのが少ないのに、業務用を買うのはおかしい。
また、野菜室はいらないと言っているのと、冷凍室が大きい方がいいとも言っている。
さらに、スペースが空いているということは食材が少ないということである。
そんな中で人を招くのは変である。
つまり、語り部は冷蔵庫に「人」を入れているのである。
次のターゲットはA子ということになる。

 

溺れる男

青年は1人用のゴムボートに乗り、釣りを楽しんでいた。
 
しかし、釣りに夢中で、サメが出る地域に来てしまっていた。
青年はそのことに気付き、慌てて戻ろうとする。
 
だが、そのとき、溺れている男を見つけた。
助けてくれと叫ぶ男。
 
青年が男を助けようと近づくと、青年は男に捕まれて逆に海に落ちてしまった。
その直後、青年はサメに食われてしまい、残った男はボートに乗ることで助かった。
 
青年はサメに噛まれて死んでしまったが、海上保安庁によりなんとか遺体は回収された。
 
その遺体を調べると、なぜかサメの歯とは別の、ナイフで刺されたような傷跡があった。
 
終わり。

■解説

男は1人用のボートに乗ることと、サメが迫っているのをやり過ごすために、持っていたナイフで青年を刺し、その血によってサメをおびき寄せた。
全ては自分が助かるために、助けに来た青年を犠牲にしたのである。

 

おまじない

私は小学生のときから、ずっとTくんのことが好きだった。
それは親友のK子にも伝えていたし、相談にも乗ってくれていた。
 
それなのに、高校に入ったら、A子が「私も好きになっちゃった」だって。
 
本当にふざけてる。
 
A子は私よりも可愛いし、勉強もできて、運動神経も抜群。
私がA子に勝てるところなんてない。
このままじゃ、A子に取られてしまう。
 
焦り、悩んでいた時だった。
私は図書室で、ある本を見つけた。
それはおまじないが書かれていた本で、「恋敵に違う人を好きにさせるおまじない」というものがった。
 
これだ!
 
私は必死になって、そのおまじないをやった。
条件は色々と厳しかったけど、私はちゃんとやり遂げた。
 
きっとA子は違う人を好きになるだろう。
 
これでKくんは私のものだ。
 
終わり。

■解説

語り部は最初、Tくんが好きだと言っている。
しかし、最後はKくんのことを好きになっている。
つまり、語り部は誰かに「おまじない」をかけられてしまっている。

 

手相占い

その女優はかなりの童顔だった。
小さい頃から2、3歳は下に見られ、40代になった今でも、20歳前半にしか見えない。
 
そのため、プロフィール欄にも10歳若い年齢にしている。
 
元々、演技力もあり、社交的で性格もよく、私生活でもスクープなどなく、いつも人気のトップ10入りを果たしていた。
 
その人気は衰えることなく続いている。
 
そんな中、物凄く当たるという手相占いをする占い師の元へ行った。
 
この先もずっと人気でいられるかを尋ねると、占い師はさっそく女優のプロフィールと手相を見始める。
 
そして、占い師はにこやかに「あと10年は人気が続くでしょう」と太鼓判を押した。
ただ、そのあとに気になることを言う。
 
「ですが、今からちょうど10年後。あなたは事故に巻き込まれて、顔に大きな傷を負い、引退することになるでしょう」
 
そう言われて、唖然とする女優に占い師は続けて、こう言った。
 
「ちょうど10年後の今日です。その日は外出せずに、ずっと家にいてください。そうすれば、その運命は避けられるでしょう。いいですか? 10年後、忘れずにですよ」
 
女優は頷いて、ありとあらゆるものに、書いておこうと考える。
 
逆に言うとあと10年は人気が保証されたわけだと思い、少しだけ心が軽くなった。
 
そして、その女優はお礼を言って、占いの店から出たのだった。
 
終わり。

■解説

この女優はプロフィールでも10歳若く書いている。
そして、占い師はプロフィールを見て、助言を出している。
つまり、事故に遭うのは10年後ではなく、今日である。
この後、女優は事故に遭い、顔を怪我して引退する可能性が高い。

 

スクワット

男はある事故がきっかけで、部屋に閉じこもるようになった。
いつも部屋でゲームや動画を見て過ごし、下手をすると部屋から一歩も出ない日もあるくらいだ。
 
男の母親は事故のことで同情し、そのことについては特に何も言わなかった。
それどころか、毎食、男の部屋にご飯を持って行き、なにかあれば世話をするくらいだ。
 
そんな状態であったため、男は今の状況を特に悪いとは思っていなかった。
 
だが、そんなある日のこと。
男はある女性に恋をした。
 
窓の外から、彼女が通るのをただ見るだけの日々。
そんなもどかしさが、男の意識を変えた。
 
このままじゃいけない。
そう思い、男は一念発起する。
 
男はまず、ダイエットから始めることにした。
部屋から出ずに、食べたいものを好きなだけ食べる毎日のせいで、男はかなりの巨漢になっていたのだ。
 
痩せれば世界が変わる。
 
ある動画を見て、男は感銘を受けた。
その動画を撮っている人も、自分と同じようか、それ以上に太っていた。
それを努力によって、痩せたさまは男をとても勇気づけた。
 
男はその人の動画を酔狂し、動画の内容を何でも真似した。
食事制限をしたことで、体重も落ちてきたのだ。
 
そろそろ、運動を始めようと思い、その人が出している運動の動画を見た。
 
すると動画の中では「痩せるのに一番いい運動はスクワットだ」と言っている。
足の筋肉は大きく、そこを鍛えれば普段の生活でも、消費カロリーが増えるのだそうだ。
 
その説明を聞いて、男はなるほどと納得した。
 
そして、男はその日から、腕立て伏せをするようになった。
 
終わり。

■解説

男は動画の人のことを酔狂して、なんでも真似ていたのに、なぜスクワットはしなかったのか。
なぜなら、男は事故で足を失っていたため、したくてもできなかったからである。

 

心中

僕らは愛し合っていた。
彼女がいれば、僕は他になにもいらない。
それは結婚して10年経った今でも、子供が生まれてからも変わらなかった。
 
もちろん、子供は可愛い。
たが、子供か彼女かを選ぶことになれば、僕は迷わず彼女を選ぶだろう。
彼女を失うくらいなら、僕の命を投げ出したっていい。
きっとそれは永遠に変わらない。
 
そして、僕は毎年、結婚記念日には彼女が好きなワインを買って帰る。
それを結婚式の日に買った、僕のイニシャルと彼女のイニシャルが入った、おそろいのグラスで飲むことにしているのだ。
 
一年で一番幸せな時間。
来年も同じように過ごせることを願って、僕はワインを飲み干すのだ。
 
だけど、そんな幸せは、突然、消え去ろうとしていた。
 
彼女の事業が失敗し、多額の借金が出来てしまったのだ。
 
そのことで、彼女は僕に何度も何度も謝ってきた。
もう、どうしようもないほどの多額の借金。
 
すると、彼女が「一緒に死のう」と言った。
みじめな生活をするくらいなら、死んだほうがマシだと言う彼女に、僕は拒否することなく頷いた。
どうせ、彼女が死ぬのなら、僕は生きていけない。
 
僕たちは、せめて子供が困らないようにと、二人で生命保険をかけた。
これで借金を返せるように、と。
 
そして、僕らは服毒自殺を選ぶことにした。
毒が入ったカプセルを2つ用意する。
その毒を、結婚記念日にワインを飲むグラスで飲むことにした。
 
このグラスで飲む、最後はワインではなく、毒を飲むための水というのがなんとも皮肉なのだが。
 
僕と彼女が毒を手に取った時だった。
ちょうど、子供が学校から帰ってきた。
 
慌てて、彼女が玄関に向かう。
そして、おばあちゃんのところに行くように話すはずだ。
 
僕はもう一度、目の前のグラスを見る。
 
あ、僕と彼女のグラスが逆になっている。
僕の目の前に置いてあるグラスには、彼女のイニシャルがついている。
 
危ない危ない。
 
最後なのだから、ちゃんとしないと。
僕は、彼女のグラスと交換した。
 
すると、彼女が戻ってきた。
今度こそ、お互いがカプセルを口に含み、一気に水で飲み干す。
 
胃の中が熱く、痛みが走る。
 
同時に、僕の意識は遠のいていく。
彼女も苦しそうにもがいている。
 
すぐに、あっちで会おう。
 
そう考えていると目の前が真っ暗になった。
 
 
気が付くと、僕は病院のベッドの上にいた。
 
僕は死ななかった。
なんでも、僕が飲んだ水のおかげだったらしい。
どういうことかと考えていると、警察がやってくる。
 
どうやら、僕には彼女を殺した疑いがかかっているらしい。
 
冗談じゃない。
僕が彼女を殺すわけなんてない。
 
僕は必死に心中だと話すが、警察は信じてくれなかった。
 
ああ。もういい。
疲れた。
 
どうせ、彼女がいない今、僕が生きている意味なんてなにもない。
 
だから、僕は真夜中の病室を抜け出し、屋上から飛び降りる。
 
ごめんね。
少し遅くなったけど、すぐ行くから。
 
終わり。

■解説

なぜ、語り部は毒で死ななかったのか。
そして、なぜ、警察に殺人だと疑われたのか。
それは、語り部が飲んだ水に、解毒剤が入っていたからである。
さらに、語り部は毒を飲む前に、彼女のグラスと入れ替えていた。
ということは、本来、解毒剤が入った水は彼女が飲むはずだったのである。
心中と見せかけて、彼女は語り部を殺そうとしていた。
つまり、語り部は彼女を愛していたが、彼女は語り部を借金のために殺すくらいにしか愛していなかったと言える。

 

ワイヤレスイヤホン

高いワイヤレスイヤホンを買った。
すごく耳に馴染むし、ビックリするほど軽い。
時々、イヤホンを外し忘れるくらいだ。
 
そして、俺はそのイヤホンで怪談を聞くのが趣味になった。
直接、耳に響いてくるような感じがして、臨場感が楽しめるのだ。
 
今日も帰りの電車で、怪談を聞きながらスマホでゲームをする。
すると、いきなり、肩を叩かれた。
なんだと思って振り返ると、中年の男が顔をしかめて、耳を指差している。
どうやら、音漏れがして煩かったようだ。
 
仕方なく、俺はイヤホンを外してカバンに入れる。
音量を下げればいいかと思ったけど、それでもまだうるさいとか言われたら面倒だ。
 
駅を降り、夜道を歩く。
なんだか、急にお腹が減ってきた。
家に帰れば、カップラーメンがあるが、なんだかドカ食いしたくなってきた。
 
俺は少々遠回りになるが、コンビニに寄って、色々と買い込む。
弁当にジュース、ホットスナックにお菓子。
そして、お酒。
 
勢いで買ってしまったが、今日はまだ木曜日だ。
明日も会社がある。
酒は明日にしておこう。
 
なんて考えていると、急に後ろから「殺してやる」という女の声が聞こえた。
 
慌てて後ろを振り返るが、誰もいない。
 
気のせいかと思い、歩いていると、また「無視するな」とか、「呪ってやる」とか聞こえてくる。
 
俺は怖くなって、走り出す。
やっぱり、コンビニなんかに行かないで、真っすぐ帰ればよかった。
 
走っている間、ずっと、耳元で囁くような女の声がする。
 
なんだよ。呪われるようなことなんてしてないぞ。
 
体力の限界が来たところで、ちょうど家に到着する。
恐怖で震える手で必死に鍵を開けて、すぐに家の中に入る。
 
するとまた、耳元でお帰りなさいと聞こえた。
 
ああ。完璧に呪われている。
 
さすがにこの時間から、除霊をしてくれるところなんてないだろうな、と思いながらスマホを取り出す。
すると、スマホの画面が再生の画面になっていた。
 
そう。ずっと、怪談を再生していたのだ。
 
なんだよ。怪談か。
 
俺はホッとして、停止ボタンを押した。
 
終わり。

■解説

語り部は途中でイヤホンを外している。
なので、耳元で声が聞こえるのはおかしい。
つまり、語り部の耳元で囁いていたのは、本当の幽霊なのかもしれない。