意味が分かると怖い話 解説付き Part581~590

意味が分かると怖い話

〈意味が分かると怖い話一覧へ〉

〈Part571~580へ〉   〈Part591~600へ〉

排水溝

俺には5年付き合っている彼女がいる。
結婚を考えていることもあり、二人で話し合って同棲することにした。
 
彼女は俺に勿体ないくらい良い女だ。
結婚にも何の不安もなかった。
 
ただ、やっぱり一緒に暮らしてみないとわからないこともある。
 
というのも、二人で暮らすということで引っ越しをしたのだが、排水溝がよく詰まるのだ。
原因は髪の毛。
 
彼女は腰まで髪を伸ばしているのだが、その髪の毛が排水溝に溜まって詰まってしまう。
 
こんな小さなことで何を言ってるんだと思うかもしれないが、ほぼ毎日、排水溝を掃除するのは結構、キツイ。
 
ちなみに俺はボウズ頭なので、俺の髪の毛が混じっていることはないから、100パーセント彼女のだ。
そして、俺は彼女が抜け毛で悩まないように、毎朝、シャワーを浴びる前に掃除している。
 
別にこれで別れようとまでは思わない。
ただ、これが続くと考えると結構、気も滅入る。
 
もちろん、今日の朝も掃除してきた。
 
だいぶ慣れてはきたけど、やっぱり面倒くさい。
それで、ちょっと会社の同僚に相談してみたら、掃除は交代にすればという助言をもらった。
確かに、交代なら少しは負担も軽減されるかもしれない。
 
さっそく俺はその日の夜に彼女に相談しようと思ったのだが、間が悪く、彼女は今日、友達の家に泊まるのだそうだ。
 
久しぶりに一人の夜。
寂しいような気もするけど、解放感もある。
ついつい、夜更かししてしまった。
 
次の日の朝も、危うく寝坊するところだった。
最近はいつも、彼女に起こして貰っていたから、完全に油断した。
 
慌ててシャワーを浴びると、排水溝が詰まってしまった。
もう時間がない。
仕方ないから掃除は帰ってからしよう。
 
俺は急いで身支度をして、会社へと向かった。
 
終わり。

■解説

前の日の朝に、語り部は排水溝を掃除したと言っている。
そして、その日は彼女がいないはずなので、排水溝は詰まらないはずである。
そもそも、毎日、排水溝が詰まるほど髪の毛が抜けるというのは明らかに異常である。
もしかすると、その髪は彼女のモノではなく、人ざるモノが家に住んでいるのかもしれない。

 

秘湯

男は不治の病にかかってた。
100万人に1人という奇病だ。
その病気の人が少ないということもあり、研究も進んでいない。
そのため、男が完治する確率はほぼ0だった。
 
それでも男は諦めず、様々なことを試した。
漢方はもちろん、民間療法もすがる思いで試していく。
 
だが、どれも効果はなかった。
 
男は次第に生きたいという思いよりも、病気による苦しさの方が上回り始める。
 
そんな絶望の中、男はある秘湯についての噂を耳にした。
 
その温泉に浸かれば、どんな病気に犯されていても楽になれるのだという。
 
男は最初、今まで散々、そのような噂を聞いていたために怪しんでいた。
だが、その温泉に浸かったことで楽になれたという話は、病気の家族からも本当だと聞くことができた。
 
どちらにしても、このままでは単に死を待つしかない。
なので、男は最後の希望ということで、その秘湯に浸かりに行くことにした。
 
その温泉に到着する。
温泉特有の強い硫黄のような臭いがするが、別段変わったところはない。
それでも男は温泉に浸かってみた。
 
ゆっくりと浸かること30分。
男は温泉の効果により、楽になることができたのだった。
 
終わり。

■解説

秘湯に浸かることで楽になるとは書かれているが、治るとは書かれていない。
そして、その温泉は硫黄の臭いがすると語り部は言っている。
これは硫化水素だと考えられ、濃度が濃いと人体に有害なガスである。
つまり、男は硫化水素中毒により死亡し、『楽』になったのだった。

 

闇鍋

最近は景気が悪く、暗いニュースばかりが連日放送されている。
直接、自分に関係なくてもなんだか落ち込んでくる。
 
周りも同じように、なんか暗い感じがする。
 
休みの日も家でゲームや、ゴロゴロして終わってしまう。
このままじゃ、どんどん気が滅入ってくる。
 
友達と遊びに行こうと思っても、お金がない。
 
どうしたものかと考えていると、友達の一人が鍋をやろうと言ってきた。
確かに一人だと鍋はやらない。
寒い日も続いているから、鍋も美味しく感じるだろう。
 
だが、その友達はどうせ鍋をやるなら、楽しもうと言い出した。
 
何を言い出したかと思えば、その友達は闇鍋をやってみたいらしい。
 
闇鍋なんてよく聞くが、実際にやった人なんてほとんどいないだろう。
 
前だったら絶対にやろうなんて思わなかったはずだ。
でも、今はとにかく、何かやりたいという思いだった。
たとえ、どんなくだらないことでも。
 
なので、俺は闇鍋をやることを了承し、他にも友達を誘った。
みんな、退屈していたのか、俺の誘いに喜んできてくれた。
 
それぞれ用意した食材を持って、家にやってくる。
順番に、用意した食材を入れていく。
 
まずはビールで乾杯した後、電気を消す。
 
ルールはもちろん、一度掴んだ食材は食べ切ること。
 
何が入っているかわからない。
さすがに食べ物以外を入れることは禁止にしているが、鍋に合わない食材だってある。
 
俺だって、いたずら心で茄子を入れたりしている。
 
順番に箸を鍋に突っ込み、掴んだものを食べていく。
その都度、悲鳴のような声が聞こえてくる。
 
くだらないが、なんだかワクワクしてきた。
 
俺も順番が来て、恐る恐る箸を鍋に入れる。
怖さ半分、好奇心半分。
 
そして、箸で何かを掴む。
 
ゆっくりと口の中に入れる。
 
シャリ。
 
鍋には合わない触感だ。
 
うげっ!
 
俺が掴んだのはどうやらスイカだったらしい。
 
まさか、フルーツを入れてくるとは思わなかった。
けど、一度掴んだものは食べ切るのがルール。
俺は何とかスイカを飲み込んだ。
 
後味は最悪だ。
 
こういうときはガンガン飲んで、テンションを上げるしかない。
 
終わり。

■解説

語り部は鍋を食べる前にビールで乾杯している。
ビールとスイカの食べ合わせは最悪で、組み合わせると脱水症状になる恐れがある。
利尿作用によりビールが進み、急性アルコール中毒になる危険性もある。

 

復活スキル

異世界転生。
少し前に、ラノベ界隈で流行ったジャンルだ。
 
異世界転生ものの特徴としては、転生する際に強力なスキルを与えられ、転生先の世界で最強状態でスタートできるというものらしい。
俺はあまりラノベを読んだりはしないが、そんな俺でも内容を知っているくらい、流行ったのだ。
 
とはいえ、そんなものは創作の世界だけの話だ。
人は死ねば終わり。
そんなのは子供だって知っていることだ。 
もちろん、俺もそう思っていた。
 
しかし――。
 
俺は28歳の頃、泥酔した男が運転する車に突っ込まれて、即死した。
 
死ねば意識が途切れるものだと思っていたのだが、俺の意識が続いていた。
真っ白い世界の中に、ぽつんと俺だけが取り残されている。
そんな中、現れたのが禍々しい姿をした悪魔だった。
こんなときは、普通、天使や女神じゃないのかと思ったが、そんなのはどうでもよかった。
 
呆然とする俺に、その悪魔がこう言った。
 
お前を助けてやる、と。
 
なんでも、俺の祖先が悪魔と契約をして、子孫が絶えないようにお願いしたのだという。
俺は一人っ子で、結婚をしていない。
もちろん、子供もいない。
なので、ここで俺が死んでしまうと契約が果たせないのだそうだ。
 
ということで、俺は生き返ることとなった。
その際、悪魔は俺に『復活スキル』を付与してきた。
 
それは、今回のように事故で死んでしまった時に数時間前に戻り自動的にやり直すことができるというものだ。
 
確かにこれは便利だった。
このスキルのおかげで不慮の事故で死ぬことはなくなった。
乗り物による事故も回避できるし、通り魔に刺されたとしても大丈夫だ。
 
なにより、この復活スキルを駆使すれば金儲けだってできる。
例えば、競馬やパチンコなどのかけ事でも、負ければ自分で命を絶ってやり直せばいい。
このおかげで俺は莫大な財産をえることができた。
 
本当に便利なスキルを貰ったものだ。
 
さすがに異世界に転生することはなかったが、現代でも最強を堪能できるようになった。
悪魔様様だな。
 
終わり。

■解説

死んだ際に数時間戻るので、事故や自ら命を絶った際には役に立つスキルである。
しかし、病死や老衰の場合はどうだろうか?
数時間戻ったところでどうにもならない。
つまり、語り部は死ぬことができず、永久に死に続けることになる。

 

死後硬直

あれは3年前くらいだったかな。
 
ブラック会社で働いていて、精神的に病んだことで会社を辞めた。
で、療養するために実家に帰っていたんだよね。
 
実家は結構田舎で、一番近いコンビニが徒歩で20分もかかる。
しかも、コンビニはこの一店しかないくらい過疎ったところだ。
 
その頃は親が妙に優しく、ずっとゲームをやっていても文句一つ言われなかった。
まあ、今では早く働けと圧が凄いんだけどね。
 
おっと、話がそれちゃったな。
 
あの日は、深夜にゲームをやっていたら、妙に小腹が減ってきて何か食べたくなったんだ。
キッチンや冷蔵庫を色々と見たんだけど、食べたいものがなかった。
徒歩で20分かけてコンビニに行くかどうか迷ったんだけど、朝までゲームをするつもりだったから、コンビニに行くことに決めた。
あの頃はまだお金もたくさんあったしね。
 
それで、深夜だったけどコンビニに向かって歩いていたんだ。
そのときは初夏で、夜は涼しくて、ちょっとした散歩みたいで気持ちよかったなぁ。
近くに川があって、そのせせらぎも聞こえてきて、ちょっとテンションが上がってきてた。
その当時は買い物に行こうと決めてよかったと思ったんだ。
今では、さっさと寝ておけばよかったと後悔してるんだけどね。
 
15分くらい歩いたころだったかな。
遠くでコンビニの光が見えてきた頃だったと思う。
コンビニの方から一人の男の人が買い物袋を持ってやってきたんだ。
 
大体、40歳くらいの痩せた男だったのを覚えている。
妙に青白くて、最初は幽霊じゃないかって思ったくらいだからね。
 
時間が時間だし、ちょっとビビって立ち止まっていると、その男が目の前で立ち止まったんだ。
あれはすげービビったね。
深夜に歩いていたら、知らない男が目の前で立ち止まるんだよ。
誰だって、ビビるでしょ。
 
ビックリして固まってたら、その男が話しかけてきたんだ。
 
〇〇の場所はどっちですか?って。
 
話していると、どうやらその男は妻の実家に帰省していて、コンビニに行ったところで帰り道がわからないとのことだった。
 
こっちは地元だってことで、この辺の地理には詳しかった。
だから、あっちの方です、と指を指して説明したんだ。
すると男はお礼を言って、歩いていった。
 
幽霊じゃなかったとはいえ、一気にテンションが下がった。
さっさと買い物だけして帰ろうと思って、10分くらいで買い物を終わらせた。
 
足早に帰ろうとしたときだった。
急にバシャバシャという音がした。
 
近くにあった川からの音だって、すぐにわかった。
その川も小川じゃなく、結構、水位がある川で、昔はよくその川に入って遊んでたこともあった。
 
どう考えても魚の類いじゃない。
なにか大きな動物が川でもがいているような音だ。
 
嫌な予感がしつつも、そのまま素通りすることはできない。
 
覚悟を決して川へ向かった。
すると、予想通り、誰かが川で溺れていた。
 
そう。
さっきの男だった。
 
両手を広げて、その手を振っている。
 
本当はすぐに川に飛び込んで助けに行くべきだったのかもしれない。
だけど、そのときは飛び込む気にはなれなかった。
 
だからすぐに警察に電話して、来てもらった。
 
電話してから10分で警察が来てくれた。
ただ、その頃には音が止んでいた。
 
引き上げられたときには男は既に亡くなっていた。
警察の話では、手を広げていたのは死後硬直で固まっていたからだったそうだ。
 
警察に、すぐに飛び込めなくてすいませんというと、逆にそういうときは二次災害の可能性があるから飛び込まない方がいいと言っていた。
 
それに、飛び込んだときには既に亡くなっていたはずだから、飛び込まなくてよかったよとも言っていた。
 
ホント、飛び込まなくてよかったよ。
 
ただ、今でも、あのときの顔が妙にハッキリと頭に残っている。
なんで、あのとき、コンビニに行ったんだろう。
空腹なんて我慢して寝ればよかったよ。
 
終わり。

■解説

死後硬直は死亡してから2時間ほど経ってから始まる。
さらに手の先まで固まるのは8時間ほどかかる。
だが、語り部が男に会ってから、川で男を見つけるまでは1時間も経っていないはずである。
では、語り部が話していた男は一体、なんだったのだろうか。

 

閉じこもり

男は殺人鬼に狙われていた。
なぜ狙われているかは思い当たらない。
だが、狙われているのは確かだった。
 
なぜなら、ナイフを持った覆面をした人間が自分に向かってきたからだ。
殺意を持って向かってきていることはすぐにわかった。
 
男は命からがら逃げて、自宅に閉じこもった。
 
すぐに家の中の窓に板を打ち付け、家に入ってこないようにする。
なんとか、全ての窓に板を打ち付け終わり、安堵する男。
 
しかし、男はあることを思い出して青ざめた。
 
なんと、玄関のドアの鍵を掛け忘れていたのだ。
 
慌てて、玄関に向かう男。
すると、玄関のドアの鍵はかかっていた。
 
男はもう一度、安堵の息を吐いた。
 
終わり。

■解説

もしかすると、覆面の人間は既に男の家の中に入っていて、鍵を掛けたのかもしれない。
窓は全て板で塞いでいる男には逃げ場がなくなってしまっていることになる。

 

ケチャップ

僕の妹はケチャップが好きだ。
なんにでもかけて食べる。
卵焼きはもちろん、サラダやお味噌汁なんかにも入れて飲んでいる。
 
最初はお父さんやお母さんが止めるように言ったけど、妹は全然やめることはなかった。
それどころか、夜にこっそりと起きて、冷蔵庫からケチャップを取り出して吸うくらいだ。
 
マヨネーズなんかは、よく聞くけど、ケチャップはあんまり聞かない。
 
あるとき、僕は妹に、なんでそんなにケチャップが好きなんだと聞いた。
すると妹は口を尖らせて、こう言った。
 
「ケチャップはしょっぱすぎるからあんまり好きじゃないんだ。でも、しょうがないからケチャップで我慢してるんだよ」
 
僕は正直、妹が何を言っているかわからなかった。
 
そんなある日。
僕と妹が一緒に学校に行っているときだった。
いつも見かける野良猫が、珍しく腹を上にして寝ていた。
 
僕は今度こそ撫ぜられるかもしれないと思って、猫の腹を触った。
すると、猫はビックリしたのか、飛び起きて、僕の手を引っ掻いた。
 
思ったよりも深く引っ掛かれたせいで、僕の手からは血が出てきた。
それを見ていた妹が心配そうに僕の顔を見てくる。
 
僕は妹を心配させないように、「ケチャップだよ、ケチャップ」という冗談を言った。
すると、妹は笑って、僕の手の血をペロリと舐めてくれた。
そのおかげで、なんだか痛みも和らいでくる。
 
学校についたら、僕はすぐに保健室に行って傷の処置をしてもらった。
 
そして、不思議なことに妹はそれからケチャップを舐めることはなくなった。
お父さんやお母さんも喜んでいる。
もちろん、僕もだ。
 
でも、そういえば最近、あの猫の姿を見なくなったな。
 
終わり。

■解説

語り部の妹はケチャップはしょっぱいから、あまり好きではないような発言をしている。
我慢して舐めているということから、そもそも、ケチャップに固執しているわけではなかった。
それは「なにか」の代わりにケチャップを舐めていたのだと考えられる。
なので、その「なにか」があればケチャップは舐めないようになったということである。
そのきっかけは、語り部の「血」である。
そして、最近、猫の姿を見ないと言っている。
もしかすると、語り部の妹はケチャップの代わりに、猫の血を舐めているのかもしれない。

 

私の子供たち

Tさんには子供が3人いる。
3人目の出産の際に、賃貸では狭く感じて夫と話し合って引っ越すことにした。
 
Tさんの夫は順調に昇進しているし、どうせ引っ越すならと中古の一軒家を買うことにしたのだった。
 
中古とはいえ、築3年ほどで内装は綺麗で広く、Tさんたちは大満足だった。
一番上の子供もまだ小学1年生だから一部屋はいらないが、あと数年もすれば絶対に自分だけの部屋が欲しいと言い出すので、今の内から子供部屋が3つ確保できるのはよかった。
 
生まれたばかりの子供も、夜泣きが酷いときはTさんと夫は別々で寝るということもでき、Tさんは本当に一軒家を買ってよかったと思っていた。
 
しかし、引っ越してから3ヶ月が経った頃だった。
家の中にはTさんと一番下の子供しかいないのに、どこからか子供の笑い声が聞こえることが頻繁に起こる。
 
最初は気のせいだと思っていたが、今度は勝手にドアが開いたり、戸棚の戸が開いたりなど、どう考えても気のせいではあり得ないことが起こるようになった。
 
もちろん、夫に相談したが、それでもやはり気のせいじゃないかと取り合ってくれない。
今のところは危険なことはないが、何かあってからでは遅いとTさんは心配していた。
しかし、だからといって何か出来るわけでもない。
夫に、買った家を手放して、引っ越そうなんて言えるわけがなかった。
 
Tさんはお寺に行って相談したり、お札を貰って来たり、部屋に塩を置いたりなど、色々と試してみたが効果はない。
相変わらず、子供の笑い声やドアが勝手に開いたり、物が移動していたりと不気味なことが続く。
 
それと同時に、一番下の子供が大声で泣くことが増えてきていた。
あやしても、おしめを替えても、ミルクをあげても、全然泣き止まない。
このままではノイローゼになってしまう。
Tさんは段々と精神的に追い込まれていく。
 
そこでTさんは夫に内緒で、霊能者に頼んで除霊してもらおうと考え始める。
しかし、騙されそうで怖いと、躊躇もしていた。
 
そんなある日のことだった。
夜、子供たち3人とTさんが並んで寝ていると、突然、バンと勢いよくドアが開いた。
 
最初、Tさんは残業で遅くなった夫が帰ってきたのかと思った。
だが、Tさんの夫は、みんなが寝ているのに、大きな音を立てるような人ではない。
一番上の子供か、二番目の子供がトイレにでも行ってたのかなと思い、眠い目を開く。
 
しかし、子供は3人ともぐっすりと寝ていた。
それならやっぱり夫が、酔っぱらって帰ってきたのだと思い、起き上がった。
 
だが、ドアの付近に立っていたのは夫でも子供たちでもなかった。
 
青白い顔をした、5歳くらいの子供だった。
古いパジャマをきた男の子で、髪はぐしゃぐしゃの状態。
首にはなにか紐で絞められたような跡もある。
 
Tさんはすぐにその子供がこの世の者じゃないことと、今までの不可解なできごとはこの子供がしたことだと感付いた。
 
その男の子はヒタヒタとTさんの元へ歩いてくる。
そして、その男の子はTさんにこう言った。
 
「僕も、一緒にいい?」
 
Tさんは全身に悪寒が走った。
ここで追い返さないと大変なことになる。
 
そう直感したTさんは、こう返した。
 
「ダメよ。私の子供たちは3人だけなんだから」
 
すると男の子は落ち込んだように肩を落とし、ヒタヒタと歩いて部屋から出て行ってしまった。
何とか追い返すことができ、安堵するTさん。
 
しかし、その数日後。
Tさんの一番下の子供が死んでしまった。
その首には紐で絞められたような跡が残っていたのだという。
 
終わり。

■解説

Tさんは「私の子供たちは3人だけ」だからダメだと言った。
それなら、1人減れば、男の子は一緒にいてくれると考えた。
つまり、男の子がTさんの子供の一人の命を奪い、3人目になろうとした。

 

臭い

私は昔から特殊な臭いを感じ取れることがある。
それは人の死の臭いだ。
 
どの臭いにも似ていない、鼻の奥をツンと刺激する強い臭い。
その臭いがすると、その人は大体1ヶ月後くらいには亡くなってしまう。
 
私の変わっているところは病気などで市が近い人だけじゃなく、事故や自殺、他殺で亡くなる人の臭いもわかることだ。
どんなに元気そうな人でも、その人からその臭いがすると、1ヶ月後には亡くなってしまう。
 
一時期はなんとか阻止できないか、なんてことを頑張ってみたが、それは運命なのか阻止に成功したことはない。
だから、今ではその臭いがしても放っておくことにしている。
 
だけど、この3週間の間、全くその臭いがしない。
毎日電車に乗る私は1週間の間で少なくても3回くらいはその臭いがする。
それが3週間しないということは初めてだ。
 
もしかしたら、その臭いを嗅ぐ能力が消えたのかもしれない。
 
終わり。

■解説

人は自分から出る臭いには鈍感になる。
つまり、語り部は自分から死の臭いがすることによって、その臭いに鈍感になった。
語り部は近くに亡くなるかもしれない。

 

ドリンクバー

俺はいつも学校帰りに行きつけのファミレスに寄って、友達と夜までだべるのが日課だ。
 
そのファミレスはあまり客がいないし、騒いでも怒られない。
そして、なにより良いのが、ドリンクバーがとても安い。
100円で飲み放題だ。
 
その日もいつも通りにファミレスに寄って、ドリンクバーでドリンクを飲んで夜までだべっていた。
だけど、その日の夜に、物凄い下痢になった。
 
次の日に学校に行くと、一緒にファミレスに行った奴が腹痛で学校を休んでいた。
 
それで俺はピンと来た。
あのファミレスのせいだと。
 
案の定、そのファミレスに行くと、ドリンクバーの機械のところに「クリーニング中のため、しばらくはドリンクバーを休止させていただきます」と書かれていた。
 
やっぱり、機械の中に菌とかが繁殖したんだ。
 
俺はすぐにファミレスの店長を呼び出して、腹痛のことを話し、慰謝料を貰おうとした。
しかし、店長はこう言った。
 
「昨日、ドリンクバーは一件も出てないですけど」
 
終わり。

■解説

語り部はドリンクバーが安いと言ったが、頼んだとは言っていない。
つまり、語り部はいつもドリンクバーを頼まずに勝手にドリンクを飲んでいたことになる。

 

〈Part571~580へ〉   〈Part591~600へ〉