意味が分かると怖い話 解説付き Part11~20

意味が分かると怖い話

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ロールバック

俺はしがないサラリーマン。
 
今、繁忙期で物凄く忙しい。
昼休みさえ、まともに取れない。
サンドウィッチを片手に、マウスを操作するほど。
 
休日出勤もザラだ。
もう2週間以上、休みを取ってない。
このままでは過労死してしまう。
 
そんな俺にも密かな楽しみがある。
誰にも言えない、バレてはいけない、ささやかな楽しみ。
 
それはエロ画像収集。
仕事の合間に、収集して、ディスクトップ上に保存していく。
なんで、ディスクトップなんて、危険な場所に保存しているかというと、バレるかもしれないからというドキドキ感も味わうため。
 
数秒、画面を見られたら終わり。
そんな極限の中、仕事をしていると、神経が研ぎ澄まされて集中できるのだ。
で、繁忙期が終われば、USBに入れて持って帰る。
ここまでが1セットだ。
この楽しみがあるおかげで、俺はこの繁忙期を乗り越えられるし、ストレスで精神を病むこともない。
 
まあ、既に病んでいるから、こんなことをしていると言われても、否定はできないが。
 
今は繁忙期の末期。ディスクトップ画面いっぱいに、画像が並んでいる。
そろそろ、USBに入れていかないと考えていたときだった。
 
不意に、踏んではいけないサイトに入ってしまった。
そこでウィルス付きのファイルを落としてしまったのだ。
色々と対応してみたのだが、俺の知識ではどうしようもない。
 
ヤバい。
こんなことが会社にバレたら……非常にマズい。
 
追い詰められた俺は、最後の切り札をきることにした。
 
それはシステム管理部に知り合いがいるので、その人に相談するということだ。
その人は女性で、実は密かに思いを寄せてたりする。
 
とにかく、このまま渡すのはヤバいから、ディスクトップの画像を全部消す。
ウィルスにやられていても、何とか、全部消すことができた。
 
そして、パソコンを彼女のところへ持って行く。
感染した理由を聞かれたが、調べものをしている中で、変なサイトを踏んでしまったと、苦しいながらも誤魔化すことができた。
 
彼女は、会社には内緒で対処してくれると言ってくれた。
ホント、助かった。
ますます、彼女のことを好きになったくらいだ。
 
数時間後。
その人は俺の席にパソコンを持ってきてくれた。
 
データが壊されて修復するのは難しいから、昨日の状態までロールバックしたとのこと。
つまり、今日やった作業は無駄になってしまったわけだ。
 
彼女はごめんねと謝ってきたが、元々は俺のやらかしだったのだから、気にしないでと言っておいた。
 
今度、お礼として彼女に何か奢ろうと考えながら、俺はパソコンを起動した。

終わり。

解説

昨日の状態までロールバックされたということは、エロ画像がディスクトップいっぱいに貼られている状態に戻っているということ。
当然ながら、思いを寄せていた女性に、その状態を見られたということになる。
この後、語り部の恋は絶望的となったはずである。

 

youtuber

俺はユーチューバーをやっている。

まあ、底辺もいいとこなんだけど。

 

大学のときに就活を失敗して、2年くらいずっとニートしてたんだけど、親の「そろそろ働け」っていうオーラがヤバい。

夜に、親父が追い出すとかなんとか母ちゃんと話しているのも聞いた。

 

かといって、今更、会社に行って働ける気がしない。

フリーランスってやつだと、家からでも仕事ができるみたいなんだけど、特別な技術なんて持ってないから無理。

 

だから、なんの取り柄もない俺ができる、ユーチューバーを選んだってわけ。

今やなりたい職業の上位にいるくらいだから、立派な職業だ。

 

で、やってみたんだけど、大爆死。

3ヶ月毎日更新したのに、再生数は1桁がザラ。

収益化すらできない状態。

 

マジでふざけんな。

こんなに努力してるのに、報われないとか、世の中、絶対に間違ってる。

クソ面白くもないやつらが、登録者100万とかいってるのに、おかしいだろ。

俺の方が絶対に面白いはずなのに。

 

とは言え、文句を言ってても仕方ない。

そこで、俺は色々と自分の動画を分析してみる。

やってみると、確かに俺の動画はパンチが弱い。

つまり、地味なんだ。

そこで、今、流行ってるものをやってみることにした。

 

早食いとか、コーラから泡が溢れるやつとか、色々。

 

再生数が少しは上がったけど、3桁はいかない。

しかも、コメントには「そのネタ古い」なんて書かれる始末。

 

クソ! もっと過激なことをやらないと!

……でも、何も思いつかない。

 

そんなとき、ある情報が入ってきた。

登録者数が数千のユーチューバーの、ある動画がかなりバズったというのだ。

 

再生数は300万回以上。

 

そのユーチューバーはもう、3年くらい毎日投稿していたが、鳴かず飛ばずだったみたいだ。

その動画で一気に上まで駆け上がったわけ。

 

動画は世間ではかなり批判されたみたいだ。

なんか、テレビのニュースにもなったらしい。

それを気に病んでか、そのユーチューバーはその動画以降、1回も動画をアップしていない。

 

チャンスだ。

俺はそう思った。

 

批判されたとしても、バズれば勝ち。

言いたいやつには言わせておけばいい。

 

だから俺はその動画をパクることにした。

幸い、それをマネした奴はまだいないらしいし。

 

どうやら、その動画では、道具とかそういうのは必要ないらしい。

重要なのは場所、みたいだ。

 

概要欄に場所が載っていたので、行き方を調べていると、そのユーチューバーのチャンネルが消されるかもしれないという情報が入ってきた。

 

ますます、急がないとならない。

でも、もし、そのチャンネルが消されれば、その動画と同じことをやってるのは俺だけということになる。

そうなれば、俺の動画も300万回再生されるかもしれない。

 

俺はとにかく急いだ。

1日近くかけて、その場所に辿り着いた。

いやー、かなり苦労した。

まあ、これだけ苦労したんだから、報われるべきだよな。

 

さてと、苦労したと言っても、ここからが本番。

動画と同じことをしなくてはならない。

 

よし、やるか!

 

俺はそのとき、初めて動画を再生した。

 

終わり。

解説

バズったユーチューバーは、多くの人から批判されたこと、その動画以降一度も動画をアップしていないこと、動画を撮った場所が「苦労しないと行けない場所」ということから、かなり危険なことをして、「死んでしまった」と考えられる。

これは、「他に真似をしている人がいない」ということからも、その可能性が高い。

そして、語り部は、「実際にその動画を見ずに」やろうとしている。

現地で、動画を再生しながら「真似る」ということは、結末はバズったユーチューバーと同じになることは想像に難くない。

 

ドローン

ようやく、念願のドローンを買った。

 

最新の、ドローンとVRが連動しているやつだ。

ドローンの目線で見れるから、本当に飛んでる感覚が得られるって触れ込みで、今、大人気になっている。

なので、手に入れるのに相当、苦労した。

 

さっそく、VRの機器とドローンを同期させて、飛ばしてみる。

 

おおー! 本当に飛んでるみたいだ。

 

俺はその新しい感覚に、ドはまりして、ドローンを飛ばして遊ぶ日々が続く。

最近は白昼堂々と赤いコートを着た通り魔が出るというニュースがやっていたので、犯人がいないかななんて、軽い気持ちで見回っていたりもしていた。

まあ、見つかるわけもなかったけど。

 

そんなある日、俺は物凄いものを発見する。

……物凄いものというより、物凄いスポットだ。

 

俺のアパートから少し離れたマンション。

その10階に住む、美人のお姉さんが18時になると、着替えをするのだ。

微妙にカーテンが開いてるおかげで、隙間から覗ける。

まさに、ドローンだからこそ、見れるってわけ。

 

着替えるのを見られるのは毎日じゃないけど、一週間のうち、3日くらいの頻度だ。

規則性はないみたいだから、俺は毎日、決まって18時になるとマンションへドローンを飛ばした。

 

……今日はいないみたいだ。

 

ちょっとガッカリして、自分の部屋の方へドローンを戻す。

すると、赤いコートを着た、あのお姉さんの姿を見つけた。

 

そういえば、あの部屋の中以外でお姉さんを見るのは初めてかも。

散歩かな?

明日は着替えが見れるといいな。

 

そう思いながら、俺はドローンを回収するために、部屋の窓を開けた。

 

終わり。

解説

お姉さんを見てから、すぐに窓を開けたということから、お姉さんは語り部のかなり近くにいることになる。

そして、窓を開けて、ドローンを回収したというところから、お姉さんに部屋の場所も見られたことになる。

そして、「白昼堂々と赤いコートを着て通り魔」をしているのはお姉さんで、返り血を浴びたお姉さんが着替えていた、ということも考えられる。

さらに、もし、お姉さんがドローンに嗅ぎまわられていると思っていたとすると、この後、語り部の元にお姉さんがやってくることになる。

 

ここにいるよ

俺達は凄く貧乏で、家電も中古のものばかりを使っていた。

 

そんな俺と妻がお金を出し合って、初めて新品で買ったのはエアコンだった。

今まで扇風機で過ごしていた俺達は、エアコンの快適さに手を取り合って喜んだものだ。

 

あまりにも快適なせいで、俺はすぐにエアコンに頼るようになってしまった。

すぐに温度を下げたり、付けたまま寝たり、とにかくズボラだった。

 

 

妻はその都度、温度を調節したり、電源を消したりと調節してくれていた。

俺はずっと、電気代がかかるからと思って、やってくれてるのかと思っていたが、俺の体調を気にしてくれてということだった。

 

もし、電気代を節約するつもりなら、そもそも、エアコンを付けさせなかった、だって。

……確かにそうか。

 

そう考えると、妻の、俺への献身はかなりのものだったと気づく。

食事だって、バランスが考えられていて、しかも、飽きない工夫をしていた。

洗濯だって、掃除だって……生活の全てが、妻の思いやりに包まれていたんだ。

 

こういうのは、本当にわからないものだ。

実際に、自分でやってみないとね。

 

だから、よく夫婦仲が悪いなんて話を聞くけど、一度、家事とか全部やってみたら、と言いたい。

どれだけ自分が恵まれていたか、どれだけ自分が想われていたか、がわかると思う。

お勧めするから、是非、やってみてほしい。

 

話は変わるけど、今は、生活はそれなりに安定している。

極貧生活時代から見ると、給料は2倍以上。

しかも、当時、妻が働いていた分も含めての話だ。

 

今までのことを取り返すように、俺は家電を買い替えた。

冷蔵庫や洗濯機、掃除機。

最新の家電は性能がよくて、随分と楽が出来る。

あの頃、こうやって買うことができれば、生活も随分と楽になったんだろうか?

 

まあ、言ったところで、どうしようもないけど。

 

でも、買い替えられない家電がある。

……そう、エアコンだ。

 

なんていうか、妻との思い出の一品というか、どうしても買い替える気にはならなかった。

ただ、エアコンは使い方を変えなくてもまだまだ現役だ。

今でも快適に使わせて貰っている。

 

朝は起きて、すぐにエアコンのスイッチを入れる。

今日は少し暑いので24度に設定を下げる。

そして、朝食を用意する。

お弁当は、今はさすがに無理だけど、後々は作ろうと思ってる。

 

夕飯も、前はお弁当だったけど、今では材料を買って帰って作っている。

ただ、やっぱり、レパートリーはまだ少ない。

これも、後々は増やしていこう。

 

それにしても、今日は妙に暑いな。

 

俺はエアコンの設定を24度に下げた。

 

終わり。

解説

語り部の男の妻はすでに亡くなっている。

そんな中、死んだ妻に心配をかけないように、ズボラな語り部も、色々と気を使っている。

しかし、エアコンに関しては、使い方を変えていないのに、朝にはエアコンが消えていることや、設定も変わっている。

もしかすると、語り部の妻は、心配で見守り続けているのかもしれない。

 

休日のゲーム

俺は無類のゲーム好きだ。

RPGも好きだけど、やっぱりアクションが一番。

休みの日は寝ずに、ぶっ通しでやることも少なくない。

 

前はTPSにハマっていたけど、最近はレトロなレースゲームなんかに夢中だ。

基本的に、何かを操縦するっていうのが好きなのかもしれない。

 

だからってわけじゃないけど、仕事の為にフォークリフトの免許を取って、乗り回している。

……乗り回しているって言っても、ちゃんと業務で使っているってことだけどね。

配送業者で、倉庫に荷物を運んだり、配送の手配をしたりするって仕事だ。

 

もちろん、フォークリフトは荷物を運ぶのに使うっていうのもあるんだけど、ハシゴ代わりに使うことも多い。

 

倉庫にはたくさんの段数があり、そこから物を取るには普通はハシゴを使わないといけない。

でも、フォークリフトをハシゴ代わりに使うってわけ。

 

当然、見つかったら、危ないって怒られる。

けどさ、現場なんてこんなもん。

やっぱり、楽な方をやっちゃうよね。

 

で、俺はフォークリフトの端に立っている人の掛け声で、「右」とか「上」と指示されて、その通りにフォークリフトを操作するってわけ。

 

最初は指示通りにフォークリフトを動かすのは面白かったが、次第に飽きてきた。

だから、自分の中で、もう一つ難易度を上げた。

それは、目をつぶって、指示だけでフォークリフトを操作するって方法だ。

 

倉庫の段の高さや距離感は頭に入っている。

で、指示だけを聞いて、見ないで指示通りに動かすっていうのをやっているのだ。

最初は難しくて、なかなか上手くいかなかったが、これも次第に慣れてきた。

 

うーん。やっぱり、ゲームに比べると難易度はどうしても低くなるなぁ。

 

当たり前の話だけど、フォークリフトを操作すること自体に飽きてきた。

それで、その分、休日にゲームにハマるって流れだね。

 

今月はいわゆる繁忙期で、物凄く忙しかった。

休日出勤もあって、ほとんどゲームが出来ない日が続いた。

だから、その分、久々の休みにゲームに夢中になろうと思っていたのだ。

 

そして、ついにやってきた休日。

今回は、あまりやってきていなかったシリーズのゲームをやろうと思う。

あの有名なゾンビが出てくるゲームだ。

 

さっそく、ゲームを始めたんだけど、これにはビックリした。

操作が普通と違って、ラジコン操作ってやつだった。

 

慣れるのに、かなり時間がかかった。

もしかすると、何かを操作している人には、逆に慣れるのが大変かもしれない。

長時間の練習の末、ようやく操作に慣れてきた。

 

だけど、そこに時間がかかってしまって、クリアをする頃には外が明るくなってたんだよね。

つまり、徹夜でやってたってこと。

 

あーあ。今日は寝不足で仕事に行かなきゃならない。

辛いけど、自業自得だ。

ゲームはほどほどにってことだね。

 

その日ももちろん、指示する人に合わせて、フォークリフトを操縦した。

 

「下、下、下」

 

指示する人が叫ぶように指示を飛ばす。

 

うーん。今日はなんか、調子が悪いな。

集中しよう。

 

すると、指示する人の声が止んだ。

 

よかった。上手くできたみたいだ。

 

終わり。

解説

前の日にラジコン操作で操縦の感覚が狂っていた語り部の男。

しかも寝不足により、判断力も鈍っていた。

そんな中、フォークリフトに乗った人が、ずっと「下」と言ってということは、フォークリフトは「上」に操作していたということになる。

そして、指示する人の声が途絶えたということは……。

 

肝試し

私は中学校の教師をしている。

毎年、思うのだけど、大体、クラスに1人や2人は問題児がいるものだ。

だけど、今年はクラスに問題児が4人もいる。

私は毎月、この問題児のために、頭を悩ませられる。

 

うちの学校には旧校舎があり、そこには幽霊が出ると昔から噂がある。

ある夜、その問題児の親から連絡がきた。

なんでも、友達と旧校舎に肝試しに行ったらしい。

だから、連れ戻して欲しいと言われた。

 

正直、自分の子供なんだから、自分で行きなさいよと思ったが、そんなこと言えるわけがない。

渋々、旧校舎へと向かった。

 

中から丸い光が4つ見える。

やっぱり、あの4人組で肝試しに来ているらしい。

 

中に入って、怒鳴りつけると4人は散り散りに逃げていく。

面倒くさいと思いながら、後を追いかける。

 

廊下の隅、教壇の下、トイレの中で見つけた。

あと1人と、思っていた時だった。

 

突然、悲鳴が聞こえた。

慌てて、声がした方に向かうと、そこには驚愕の光景があった。

 

なんと、最後の1人が職員室で首を吊っていたのだ。

 

次の日、学校に警察が来て大騒ぎになった。

問題児3人だけじゃなく、私も事情聴取された。

 

3人も私も、その子が首を吊るほど悩んでいたようには見えないと証言した。

それはクラスのみんなや家族も同様で、やっぱり、何か悩みがあったようには思えない。

 

警察はきっと、誰にも言えないことで悩んでたのだろうと、捜査を打ち切った。

学校では、旧校舎の幽霊の呪いだという噂が流れたが、すぐに忘れられた。

 

終わり。

解説

首吊りを見つける前、3人はその場にいたのに悲鳴が聞こえた。

一体、悲鳴をあげたのは誰だったのか。

 

悪魔への願い

男は潔癖だった。

異常に浮気を嫌い、浮気をする人間は全て滅べばいいとさえ思っていた。

そんなとき、男は父親が浮気をしていたことを知る。

 

男は絶望した。

 

まさか自分の父親が嫌悪している浮気をしているだなんて。

そして、男はそんな父親の血が流れている自分自身に対しても、汚れているように感じるようになった。

 

さらに、4人の兄弟に対しても同じような感覚を抱くようになり、全員、消えて欲しいと願った。

 

そんな男の強い思いが届いたのか、男の目の前に悪魔が現れる。

そして悪魔が言った。

お前の強い思いに免じて、願いを叶えやろうと。

 

男はこう願った。

 

父親と、父親の血を引いている人間を全て消して欲しい、と。

 

その願いで自分も消えることになるが構わなかった。

逆に、自分も汚れていて、消えたいと思っていたので好都合だった。

男は願いを叶えてくれる悪魔に感謝し、満足感に包まれる。

 

そして、すぐに父親と浮気相手との子供、そして、兄弟達の命が消えていく。

そんな中、兄弟の1人だけ、生き残った。

 

自分の命が消えていく中、男は激しく後悔した。

 

終わり。

解説

男が後悔したのは、母親も浮気をしていたことに気づいたから。
母親の方の血も絶やしたかった。

 

ヴァンパイア

コールとカインは親友同士。

どこに遊びに行くのも一緒で、周りからは家族以上に仲がいいと言われ、本人たちもそう思っていた。

 

その日も、いつも通り森へと一緒に遊びに行った。

ただ、いつもと違ったのは、いつもよりも森の奥へ入ったことにより、古びた館を見つけたことだった。

 

当然、2人は興味に駆られ、館へと入って行ってしまう。

 

だが、その古びた館には女のヴァンパイアが住んでいた。

2人は抵抗も虚しく捕まってしまう。

 

コールが目覚めると、暗い部屋の中で椅子に座らされ、ロープで縛られていた。

怯えて命乞いをするコールを見て、ヴァンパイアはあることを思いついて、コールに提案する。

その提案とはこういうものだった。

 

「あんたの友人は別の部屋にいるんだけど、これから2人に同じ質問をするわ」

「選べる返答は2択よ」

「1つは『沈黙』。もう1つは『自分の血を捧げる』というもの」

「もし、2人とも『沈黙』を選んだ場合、2人の血を全部吸う」

「もし、2人とも『自分の血を捧げる』と答えたら、その友情に免じて、2人から致死量ギリギリの血を吸ってから2人とも逃がしてあげる」

「もし、1人が『沈黙』で、もう1人が『自分の血を捧げる』と選んだ場合は、『自分の血を捧げる』を選んだ方の血を全部吸って、『沈黙』を選んだ方は無傷で逃がしてあげる」

 

そう説明した後、ヴァンパイアは「さあ、どうする?」と質問してきた。

 

コールは頭の中で整理する。

 

「もし、僕が『血を捧げる』と言って、カインが『沈黙』だった場合、僕の血が吸われてしまう。でも、それはカインが僕を裏切るってことだ。大丈夫。カインは絶対に僕を裏切らない。もし、血を吸われることになっても2人とも助けてもらえる方を選ぶはずだ」

 

コールは自信満々で『自分の血を捧げる』と答えた。

 

するとヴァンパイアは「ふふっ、残念」と言って、コールの首筋に噛みついた。

物凄い勢いで血を吸っていくヴァンパイア。

明らかに致死量以上の血を吸い続けていく。

 

コールは薄れゆく意識の中で、ヴァンパイアの「ごめんなさいねぇ。どっちを選んでも同じなのよ」と言う言葉を聞いた。

 

終わり。

解説

ヴァンパイアは「2人に同じ質問をする」と言っていたのに、カインに質問の答えを聞きに行かなかった。

また、この提案はコールと話している中で思いついたことなので、あらかじめカインに答えを聞いておくということもできなかったはず。

それなのに、ヴァンパイアが聞きにいかなかったのはカインの回答を「知っていた」ことになる。

また、最後にヴァンパイアは「どっちを選んでも同じ」と言っていることから、コールが「沈黙」でも「自分の血を捧げる」を選んでも「同じ」ということを意味する。

そうなると、考えられることは1つ。

それはカインが「沈黙」と答えること。

つまり、ヴァンパイはカインが「沈黙」と答えることを「知っている」ということ。

では、なぜ、知っていたか。

それはカインが「沈黙」しか選べなかったと考えられる。

カインは既に全部の血を吸われていた可能性が高い。

 

キノコ名人

その老人はキノコが好きだった。

自分で山を買って、そこでキノコ栽培をするくらいだ。

 

そんな老人は地域で誰よりもキノコに詳しく、キノコ名人などと呼ばれるようになった。

 

だが、最近、その老人はあることに悩まされている。

それは、勝手に山に入って、キノコを採っていく人がいることだった。

 

ある日、老人が山に入ると、3人の子供がキノコを採っているのを見つけた。

 

老人は優しく子供たちに語り掛ける。

 

「この山はワシのものなんじゃが、勝手に山に入る人がいて困っているんじゃ。なぜなら、毒キノコを持って帰ってしまったら大変じゃろ?」

 

毒キノコと聞いて、キョトンとする子供たち。

 

「いいかい。キノコの中には毒がある物があって、それを食べてしまうと死んでしまうこともあるんじゃ」

 

子供たちは今まで採ったキノコを老人に見せた。

 

「あー、やっぱり。これも、これも、これも、全部、毒キノコじゃよ」

 

ガッカリする子供たちを見て、老人はついて来るように言う。

歩きながら、老人はキノコを見つけると解説していく。

 

「このキノコは一見すると毒があるように見えるが、食べられるんじゃよ」

 

そう言うと、子供たちはそのキノコを採っていく。

そんな様子を優しく見守る老人。

 

やがて、子供たちが持ってきたカバンがキノコでいっぱいになる。

子供たちは老人にお礼を言う。

 

「黙ってキノコを採られると、こうやって注意もできないからな。それで死んでしまったら、ワシは悲しいんじゃ。今度は、ちゃんとワシに言ってから、キノコを採るんじゃぞ」

 

返事をして、もう一度お礼を言ってから子供たちは帰っていく。

そんな子供たちを笑顔で見送る老人。

 

次の日。

老人がテレビを見ると、死亡のニュースが流れていた。

老人は手を叩いて、喜んだ。

 

終わり。

解説

死亡したのはキノコを採っていった子供たちの家族。

老人は勝手に山に入ってキノコを採っている人間たちを、恨んでいた。

なので、子供たちに毒キノコを持って帰らせた。

そのキノコで死亡事故が起こったニュースを見て、老人は喜んだ。

さらに、老人は台詞の中でしか嘘を言っていない。

 

ウェイター

男はレストランのウェイターをやっている。

誇りを持ち、客に対して最高のサービスをすることにプライドを持って仕事に励んでいた。

そして、男が務めるレストランのオーナーの理念は、「どんなお客様にも平等にもてなす」ことだった。

相手が金持ちだろうと、有名人だろうと、一般の客とは絶対に差別しない。

それがオーナーの望む、唯一と言っていいほどの絶対的なルールだった。

男はそんな理念に共感し、このレストランで働けることに誇りを持っている。

ある日、給仕をしていると、店の入り口でオロオロとしている老人を見つけた。

その老人の身なりは汚く、髭も伸び放題で、いわゆるホームレスのような姿だった。

男は老人に嫌な顔をすることなく、笑顔で「どうなさいました?」と声をかけた。

すると老人は、ようやく貯めたお金で食事をしたいと言ってきた。

なんでも、老人はいつもここの店の料理を外から見ていて、一度でいいから料理食べてみたいと思っていた、それが残された人生の唯一の夢だったのだという。

老人が持っているお金ではコース料理どころか、ギリギリ一品頼むのがやっとだった。

男は老人をレストラン内へと案内する。

老人は戸惑いながら、「いいんですか?」と問いかけてくる。

男は「お客様を案内するのが私の仕事です」と笑顔で応えた。

そして、男が案内されたのはビップが使う個室だった。

さらに戸惑う老人に、「お客様には、ゆっくり食事を楽しむ権利があります」と男が言う。

みすぼらしい格好の老人がレストラン内にいれば、他の客から嫌な顔をされたり、好奇な目で見られたりするであろうことへの配慮だった。

しばらく待つと、老人の前にはコース料理が並べられる。

そんなに金はないという老人に、「ここで食事をするのが夢だったのですよね? その大切な夢を、本当の意味で叶えるためにも、私にお手伝いさせてください」と男は言った。

老人は泣きながら料理を完食する。

何度も何度も老人は男に礼を言い、最高のひと時だったと話した。

老人が店を去る際に、男は「またのお越しをお待ちしています」というと、老人は深々と頭を下げて、「必ずまた来ます」と言った。

男はその日の自分の行動は、誇りのあるものだと信じて疑わなかった。

次の日。

あの老人はオーナーが変装していた姿だったことが告げられた。

そして、男はレストランをクビになった。

終わり。

■解説

このレストランの理念は「平等に」客を扱うこと。

その男の老人に対する行動は明らかに「過度なサービス」だったため、レストランの理念を破ったことで、クビになった。

 

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