■本編
駅から家までは、ちょっと遠い。
自転車で大体20分もかかる。
それでも泣き言は言ってられない。
遠いからって引っ越しできるほど、お金も時間もないのだ。
だから、毎日、渋々、自転車で駅まで通っている。
そんな生活を続けている中、私はあることに気づいた。
誰かがついて来ている。
はっきりと見えた。
30代の男だ。
毎日いるわけじゃないけど、週に3回はいる。
そいつを見たときは全力で自転車を漕いで逃げるのだ。
そして、角にある部屋に入るときは必ず周りをチェックしてからにしている。
「ストーカーかもしれないから気を付けてね」
そのことを隣に住む静江さんに話したら、心配した顔をしてそう言われた。
静江さんは引っ越してきたときから何かとお世話になっていて、休みの日は一緒に買い物に行ったりするのだ。
静江さんに、そうは言われても、自分にストーカーなんかつくだろうか?とも思う。
「そんなことないわよ。もう少し自分の魅力に気づいた方がいいと思う」
静江さんはいつもそうやって私を褒めてくれる。
まるで、私のお姉さんだ。
私は静江さんに言われた通り、帰りは常に気を付けることにした。
男の気配を感じたら、遠回りして帰るようにしたのだ。
そんなある日。
また、あの男が私の後をつけてきている。
私は必死に自転車を漕いで、遠回りして帰る。
男を捲いて、アパートに帰る。
すると、アパートの前にあの男がいた。
私はドキッとした。
警察に電話しようと思ったときだった。
男は私の部屋の隣を覗き込んでいる。
それを見て、私はホッとしたというか恥ずかしい思いになった。
なんだ。やっぱり、私のストーカーじゃなかったんだ。
終わり。
■解説
語り部の部屋は角と言っている。
そして、ストーカーと思っていた男は隣の部屋を見ていた。
つまり、このストーカー男は静江を狙っていたということになる。
休みの日に、静江と一緒にいた語り部を見て、そこから家を探ろうとしていたのだろう。