本編
近所に結構裕福そうな家族が住んでいる。
夫婦はまだ若そうなのに二階建ての一軒家に住み、子供も3人いるようだ。
夏になれば庭先でバーベキューや大きなビニールプールで遊んでいるのを見かける。
さらには5月になれば鯉のぼりを飾り、クリスマスになれば大きなクリスマスツリーと装飾を取り付けている。
いつも風流があっていいなって思って、その家の前を通りかかるのだが、ある時期は少し憂鬱になる。
というのも、この家族はハロウィンでも飾りを用意するのだ。
それはお化けを模した人形で、最初はジャックオーランタンなどで、綺麗だと思っていたのだが、年々凝り出してきている。
去年は魔女の人形だった。
それが妙にリアルで遠くから見たら、本当に人が立っているように見える。
朝はまだいいのだが、帰宅するときには、結構、怖かったりする。
終電で帰るときなんか、最悪だ。
わかっていても、いつも驚いてしまう。
かといって、苦情を言うのも大人げがない。
なので、ハロウィンが終わるのをひたすら待つしかなかった。
そして、今年もハロウィンの季節がやってくる。
今年はピエロみたいな不気味な人形だった。
確か、ホラー映画で出てきたキャラクターだと思う。
一時期、結構話題になったやつで、映画を見ない俺も見たことがあるキャラクターだった。
もちろん、今回も無駄に力作で、かなりリアルだ。
リアルすぎてどうやって作っているのかが気になるほどだ。
でも、そんなことが気になったのも、最初だけだった。
今ではそんなことよりも、早く撤去してほしいという思いだけだ。
というのも、この人形は目までしっかりと作っているので、目が合ってしまう。
出勤時に、歩いていると前方にある人形とぴったりと目が合う。
たぶん、俺の身長がちょうどいいんだろう。
完全に目が合うのだ。
見ないようにしてるのだが、どうしても目が行ってしまう。
そして、目が合っては嫌な気分になるということの繰り返し。
さらに怖いのが、帰りだ。
深夜に、仕事が終わって精神的に疲労している中で、不気味な人形と目が合うなんてことがあれば最悪だ。
これがどれだけ苦痛を与えるのかわかって欲しい。
今日、ついに恐れていたことが起こってしまった。
残業で終電になってしまい、途中でコンビニに寄って弁当を買い、家路へと向かう。
見ないようにしていても、つい、前に視線が向いてしまった。
そして、ばっちりと人形と目が合う。
凄い怖い。
あー、もう。
早くハロウィンが終わって欲しい。
終わり。
■解説
語り部はいつも「出勤時」に人形と目が合うと言っている。
だとすると、帰りは歩いてくる「方向」が違うため、人形の顔の角度も違うように見えるはずである。
つまり、「帰りも目が合う」のはおかしい。
人形の首が勝手に動き、語り部と目を合わせているのかもしれない。

