本編
男はバスの運転手をしている。
最近は運転手の数が減っていて忙しいが、男はこの仕事が好きなので苦ではなかった。
乗車する客の顔は全員覚えるほどだし、乗車や降車する際の挨拶は欠かさない。
乗客の、男への評判もよかった。
ただ、そんな男にも最近悩みがある。
それは忘れ物が多いというものだ。
傘はもちろんのこと、カバンや買い物した商品、財布なんかも結構、バスの中に忘れる客が多い。
買い物袋やカバンなどは、乗る際に誰が持っていたかわかったりするので、取りに来ればすぐに返していた。
しかし、それはダメだと上司に注意される。
その理由を聞くと、有名なタクシーの話を聞かされた。
あるとき、タクシーの運転手が、車内に携帯電話の忘れ物を見つける。
すると、女性がやって来て、夫の電話を取りに来たと言ったので携帯電話を渡した。
その後、携帯電話を車内に忘れたと言って、男がやってきた。
運転手は奥さんに携帯を返したと言ったが、男は結婚なんてしていないのだと言う。
結局、携帯電話が無くなったことで、多額の取引が破談になり、タクシー会社がその損害を補填したらしい。
このことがきっかけで、タクシーから降りる際に、運転手が必ず「忘れ物がないか」と聞くようになったという都市伝説に似た話だ。
だが、この話は実際に起こりえることだとして、バスの運転手にも忘れ物に関しては注意することとして通達されているのだという。
男も、その話を聞いて気を付けようと、気を引き締めるのだった。
そんなある日、バスの中にスマホの忘れ物を見つけた。
それから1時間後、あるOLがスマホを車内忘れたと言って、取りに来た。
男はこのOLが、忘れたスマホを使っていたことは見ていて知っていたが、簡単に返すわけにはいかない。
そこで男はスマホのパスワードを聞く。
すると、OLは見事に言い当てる。
男は遺失物保管場所からスマホを取って来て、OLに返した。
終わり。
■解説
男はOLがスマホのパスワードを言い当てたと言っている。
だが、これは男がOLのパスワードを知っていないと無理である。
つまり、男はOLのスマホのパスワードを知っているということになる。
男はなぜ、OLのスマホのパスワードを知っていたのだろうか。

