本編
死神は気まぐれ。
亡くなった祖母がそう言っていた。
それを聞いたときは、まだ幼かったので、よくわからなかった。
だが、今はその意味がわかる。
俺も祖母もいわゆる『視える』人で、死期が近い人の近くには、黒いモヤのようなものが憑りつく。
おそらく、それが死神なんだろう。
その死神が憑りついた人は近いうちに亡くなってしまう。
たとえ、元気だったとしても、事故だったり他人によって殺されたり、とにかく、どうやっても死からは逃れられないのだ。
だけど、死神を払いのける方法が一つだけある。
それは『もっと死期が近い人間』を近くに連れてくることだ。
死神はより死期が近い方に憑りつくものらしい。
祖母はその条件に気づかなかったらしく、気まぐれで移ると思っていたようだ。
まあ、そうそう、死期が近い人なんていないから、気づかなかったとしてもしょうがないだろう。
かといって、その条件に気づいたところでどうしようもない。
と、思っていたが、病気がちの息子に死神が憑りついてしまった。
急いで死神を誰かに移さないといけない。
俺は必死になって、家に色々な人を呼んだ。
たとえ元気だったとしても、事故で亡くなるかもしれない。
そう思って、10人以上を家に招いたが、死神は息子から移ろうとしなかった。
もう時間がない。
俺は最後の手段を使うことにした。
それは家で俺が誰かを殺すことだ。
そうすれば、きっと息子からそいつに死神が移るに違いない。
俺は学生の頃、ずっと嫌いだったやつを家に呼んだ。
そいつが家にやってきて、息子を見舞ってくれた。
すると息子の近くにいた死神がふっと消えた。
よし、移った。
俺はそう思い、そいつの後ろを見た。
だが、そいつの背後には死神が憑いていない。
一体、どこに行ってしまったのだろう。
もしかしたら、本当に死神は気まぐれなのかもしれない。
とにかく、息子から死神がいなくなってよかった。
終わり。
■解説
死神は息子よりも死期が近い人間に移る。
そして、殺そうとした相手には死神は移っていない。
では、死神はどこに行ったのだろうか。
それは『語り部』に移ったのである。
このあと、語り部は家に呼んだ、殺そうとした相手に、逆に殺されてしまうのかもしれない。