本編
家族で海に潮干狩りをしにきた。
ここは私が見つけた秘密のポイントで、私たち以外、誰もいない。
なので人目を気にせずに、ゆっくりと貝を取ることができる。
とはいっても、貝取りは夫に任せて、私は浜辺でゴロゴロしてるだけだけど。
最初、息子は浜辺で砂のお城を作っていたけど、しばらくして飽きたようで遊ぼうとせがんできた。
ただ、私は面倒なので「お父さんのお手伝いしてきて」と伝える。
すると息子はわかったと頷いて、夫を探しに砂浜を歩いて行った。
私は再び、寝転ぶ。
いつもは忙しいので、たまのこういう日はゆっくりしても罰は当たらないだろう。
なんてことを考えていたら、風が強くなって、雨も少し降り始めてきた。
波も高くなって来たし、帰った方がいいかも。
私は夫と息子に帰ろうと声をかけようと思い、立ち上がる。
そして、砂浜についている息子の足跡を辿って歩く。
だが、少しするとピタリと足跡が無くなっている。
周りを見ても誰もいない。
どういうことだろう?
あ、そっか。
夫も帰ろうと思って、海から上がるときに息子を抱き上げて歩いて行ったんだ。
私は元いたところへと戻ることにした。
終わり。
■解説
語り部は「足跡が無くなっている」と言っている。
もし、夫が息子を抱き上げたのであれば、「夫の方の足跡」がついているはずである。
そして、夫が海から出て、語り部がいたところに戻って行ったとしたなら、語り部とすれ違うはず。
つまり、息子は夫が抱き抱えたわけではないことになる。
もしかすると、息子は高くなった波にさらわれてしまったのかもしれない。