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本編
休日出勤。
いつもと同じように終電に乗り込み、何とか空いてる席を見つけて座り込む。
そして、そこから1時間半。
ようやく次で終点の、家の最寄り駅だ。
周りは遅くまで出かけていた帰りのためか、少しテンション高めで話している人が多い。
明日は1ヶ月ぶりの休みだが、出かける気にはなれない。
きっと寝て終わるだろう。
とりあえず、レトルトとかカップ麺の配達だけは受け取らないと。
この前は爆睡して、インターフォンが鳴っても気づかなかった。
再配達をお願いしたときに、舌打ちされてたけど、俺が悪いから仕方ない。
それにしても、こんな生活がもう3年以上続いている。
最悪なのが転職したくても、転職活動する気力がなくなっていることだ。
これもあの会社の思惑通りなのかもしれないけど。
高校の時の友達はやれ結婚だの、子供が生まれただのと連絡を寄越してくる。
そんな友達ともやはり3年は会っていない。
趣味のゲームだって、3年以上起動さえしていない。
こんな生活があとどのくらい続くんだろう。
そう考えると、余計に体が重くなる。
いっそ、何もかも投げ捨てて逃げ出したくなってくる。
気分転換でもすれば少しは気がまぎれるんだろうか。
就職したときに、よく行っていたあの喫茶店はまだ潰れずにやっているかな。
あまりお客さんは入ってなかったけど、いい雰囲気で、おいしいカレーを出してくれた。
そんなことを思い出すと、手作りの料理が食べたくなってくる。
よし。
俺は意を決して立ち上がり、途中下車をした。
終わり。
■解説
語り部の話は終点の駅に向かっているときのものである。
最寄り駅の前には、もう駅がない。
つまり語り部は走っている電車から飛び降りたということになる。