本編
僕はずっと虐められていた。
保育所の時からずっと。
僕を虐めてくるのは、たんのくんっていう小さな男の子だ。
僕より1歳年下で、僕よりも体が小さい。
だから僕がたんのくんに虐められているなんて周りは知らないし、僕も恥ずかしくて誰にも言えなかった。
でも、それがダメだった。
恥ずかしくても、みじめでも誰かに相談するべきだったんだ。
たんのくんは僕が誰にも言わないことをいいことに、虐めがドンドン酷くなった。
毎日が地獄だった。
もう生きているのが嫌になるくらい。
だから僕は決心した。
たんのくんから逃げよう。
みんなに笑われたって構わない。
お父さんやお母さんが悲しむかもしれないけど、僕がつらいときに何もしてくれなかったんだからお互い様だ。
僕はたんのくんが追ってこれないところへ逃げた。
逃げたはずだったんだ。
でも、たんのくんは僕を見つけ出した。
そして、僕をまた虐めようとしている。
僕はまた逃げるしかなかった。
だけど、どんなにスピードを出してもたんのくんが追いかけてくる。
このままじゃ捕まっちゃう。
そう考えていると、高いフェンスが見えた。
僕はチャンスだと思った。
フェンスに向かい、素早くフェンスを通り抜けた。
振り向くと、やっぱりたんのくんは追って来ない。
フェンスの前で立ち止まっている。
助かった。
でも、またいつたんのくんがやってくるかわからない。
だから僕はもっと遠くへ逃げることにした。
終わり。
■解説
虐めている方のたんのは、語り部よりも体は小さいと言っている。
では、なぜ、たんのはフェンスを越えられなかったのか。
また、語り部はフェンスを通り抜けたと言っている。
語り部よりも体の小さいたんのが、通り抜けられなかったということは穴などは開いていないと考えられる。
では、どうやって語り部はフェンスを通り抜けたのか。
つまり、語り部は死んでいて幽霊になっている。
逃げたというのは自分で死を選んだことを意味する。
そして、さらに遠くへ逃げるというのは成仏してあの世に行くことである。