本編
私が小学校の頃、学校で呪いの怪談というのが流行った。
それはいわゆる怖い話なのだが、この話の変わっていたところは、この怪談を聞くと呪われてしまうというものだった。
怪談と呪いのビデオが合体したようなもので、今ではそんなに珍しいというわけではないが、当時はそれが斬新で、私の学校では大いに流行った。
呪われると言っても、異世界に連れていかれるとか死んでしまうとかそういうわけではなく、話を聞いた人のところに幽霊がやってくるというものらしい。
当時の私はそれでも怖くて、絶対にその怪談を聞かないようにしていた。
深夜に一人でトイレに行けない私にとって、それは当然といえば当然のことだった。
友達の中には興味本位でその怪談を聞いたという子が数人いた。
その子たちは全員、「幽霊が来た」と騒いでいた。
どうやって、やって来るのかを聞いてみると、どうやら洗面所とかお風呂とか、鏡がある場所で一人になると、急に背後に気配を感じ、鏡を見てみると女の幽霊が写るというものらしい。
その怪談を聞くとほぼ100パーセント、幽霊がやってくるということもあり、流行ったのだと思う。
ただ、周りは面白がって見てもいないのに見たと騒いでいただけかもしれないけど。
周りが騒いでいる中、私は無事にその怪談を聞かずに卒業することができた。
あれから10数年。
今ではすっかりとオカルト好きになった私は、今になって聞いておけばよかったと後悔した。
どんなお話だったのか気になり、ネットで調べてみたけど、どうやら私たちの学校内だけのローカルなお話だったらしく、結局、見つけることができなかった。
そんなあるとき、久しぶりに小学校の同窓会があり、参加してみた。
参加している人の中に、あのときの怪談を覚えている人がいないかを調べてみるためだ。
とりあえず6人くらいに聞いてみたけど、全部不発に終わった。
10年以上経っているのだから、しょうがないかもしれないけど。
次の人に聞いて覚えていないと言われたら諦めようと思っていたら、ちょうど、7人目の人は覚えているようだった。
なんでも、本当に幽霊を見たから、すごく印象に残っていたのだという。
さっそく、その怪談を聞いてみる。
内容は失恋した女の子が行方不明になるという、なんともありふれた内容の怪談だった。
こんなので本当に幽霊が出るんだろうか。
嘘臭いなと思いながら、家に帰り、洗面所の鏡の正面に立つ。
すると、急に寒くもないのに体が勝手に震え始める。
全身に鳥肌が立ち、後ろの方からなんだか、妙な気配を感じた。
ヤバい。
本当に来た。
凄いという気持ちと、やっぱり聞くんじゃなかったという気持ちが混じり、恐怖とどこか冷静な気持ちで頭が混乱していた。
「一緒に来る?」
後ろから女の声が、はっきりと聞こえる。
振り向きたいが、身体が金縛りになって動かない。
そこで私は、幽霊が鏡に写るという話を思い出し、視線を鏡に向けた。
鏡には誰も写っていない。
そう確認した瞬間、後ろの気配も消え、身体の金縛りも解けた。
振り向いてみても、誰もいない。
もしかしたら気のせいだったのかも?
そう思う反面、あれは絶対に気のせいなんかじゃないという気持ちもあった。
念のため、次の休みの日にお払いに行くことにしよう。
終わり。
■解説
語り部は鏡には「誰も」写っていないと言ってる。
だが、鏡の正面に立っているのなら、「語り部」が写っているはずである。
つまり、語り部も鏡に写っていないことになる。
語り部は幽霊の世界に連れて行かれたのかもしれない。
動画
簡易的な読み上げの動画になります。
音声でサッと聞きたい方はこちらをどうぞ。