かぞくのえ
女の子は幼稚園で、ある絵を描いてきてと言われた。
それは「家族の絵」というものだった。
お父さんでもお母さんでも、お兄ちゃんでも妹でもいいと保育士さんが言ったので、女の子は誰を描こうか迷ってしまった。
なので、女の子は家族のみんなを描くことにした。
家で一生懸命、女の子は絵を描いた。
次の日、女の子は保育士さんに絵を提出した。
その絵を見た保育士さんたちは顔を青ざめた。
なぜなら父親と母親らしき人物の間には、子供が1人いるものだった。
それだけなら微笑ましい絵なのだが、恐ろしいことに子供の首にはロープのような黒い線が絡まっていて、そのロープが天井の方に伸びている。
それは両親が子供を首つりさせているように見えたのだ。
もしかすると、女の子は虐待されているのかもしれない。
女の子の家族は、父親、母親、女の子の3人だと聞いているし、念のために現在の家族構成を調べてみても3人家族であることは間違いなかった。
これは何かの間違いという可能性もある。
保育士たちは女の子に「お父さんとかお母さんにイジメられてないか」を聞いてみる。
すると、そんなことはされてないと言う。
そこで保育士たちは女の子の絵を指差し、「でも、あの絵だとイジメてるように見えるよ?」と聞いた。
保育士の言葉を聞いて、女の子は笑う。
「イジメられてないよ。だって、あの絵には私はいないもん」
その言葉で女の子は虐待されていいないことがわかり、保育士たちはホッとしたのだった。
終わり。
■解説
女の子は「家族の絵を描いてきて」と言われている。
ということは、子供は女の子ではない場合は一体だれであるだろうか?
それは姉妹だと考えられる。
そして、保育士たちは女の子の「現在」の家族構成を調べ、3人だと確認できている。
つまり、女の子の父親と母親は、過去に女の子の姉妹の誰かを首を吊って殺している。
ジェットコースター
卒業旅行として、今日は友達と遊園地のテーマパークに来た。
全員7人という、なかなかの大人数だ。
高校最後の旅行。
つまりは、好きな人に告白する最後のチャンスだ。
ということで、男4人と女の子3人という状況で遊びに来た。
なんで、女の子が1人足りないかというと、1人はどうしても都合が付かなかったからだ。
こればっかりは仕方ない。
もちろん、ホテルの宿は男女別だ。
昨日は男たちで色々と作戦を練った。
好きな人が来ないという状況のSは、最初は文句を言っていたが、割り切ってみんなの手伝いをしてくれると約束してくれた。
なぜ、旅行で遊園地を選んだかというのはもちろん、理由がある。
それはつり橋効果を狙ったためだ。
だから、今日はできるだけジェットコースター系を中心に、お化け屋敷なんかも回る予定になっている。
女の子たちもジェットコースター系が好きだと言うことで、ホッと一安心だ。
さっそく、この遊園地で一番凄いと言われているジェットコースターの列に並ぶ。
一時間ほど並んだ後、ようやく俺たちの番になった。
俺はNちゃんに「一緒に乗ろうよ」と誘ったが、友達のUさんと乗ると言われてしまった。
いきなりの計画破綻。
俺たち男どもは顔を見合わせるが、まだ今日は始まったばかり。
これからなんとか軌道修正しようということになり、各々がジェットコースターに乗り込む。
せめて、隣は女の子がいいなーと思っていたが、隣は誰もいない。
俺たちは7人なので、あぶれるのはしょうがないことだ。
そして、いざ、ジェットコースターが動き出す。
結果だけをみると、正直、Nちゃんが隣でなくてよかった。
一番凄いと言われるだけのことはある。
それはもう、本当にヤバいくらい怖かった。
つり橋効果なんて生易しいものじゃない。
俺は情けないことに、悲鳴のような声を上げていた。
涙も浮かんでいた。
途中で「無理無理無理! もう降ろして」なんてことも言ってしまった。
これでは好かれるどころか、逆に嫌われてしまうところだ。
なんとか、ジェットコースターが終わり、ヨロヨロと降りる。
すると、係の人から写真を渡された。
どうやら、乗っているときの写真を自動的に撮ってくれるサービスらしい。
まったく余計なことを。
みんなは、その写真を見て、ワイワイと騒いでいる。
俺は、どうせ情けない顔をしてるだろうと思い、ポケットに写真を入れようとした。
だが、Sが「お前の写真も見せてくれよ」と言ってきたので、仕方なく見えた。
すると、写真を見たSが「いいなー、お前」と言ってくる。
「なんで?」と聞いてみたら、「隣の人に抱き着かれてるじゃん」と言って、写真を見せてくる。
「美味しい思いをしたのは、お前だけかよ」と、他の友達も口を取らがせて言ってくる。
確かに、隣の女の人が俺に抱き着いている。
しかも、結構、美人だ。
けど、全然覚えてない。
うーん。勿体ないことをしたなぁ。
終わり。
■解説
語り部の隣には誰も乗っていなかったはずである。
では、写真に写っている女の人は一体だれなのだろうか?
もしかすると、それは幽霊だったのかもしれない。
海に浮かぶ靴
AとKが浜辺を散歩しながら、こんな会話をしている。
「なあ、知ってるか? アメリカの近くにあるセイリッシュって海の浜辺に靴が打ちあがるんだってよ」
「え? 靴なんて、どこの海岸にでもあるんじゃない? この辺だってよく靴とか靴下とか落ちてるの見るよ」
「それがさ、そのうちあげられた靴には『中身』が入ってるんだってさ」
「……中身ってもしかして」
「そう。人間の足だよ」
「ぎゃーー」
驚くKを見て、Aがゲラゲラと笑う。
「お前ビビりすぎだって」
「ううー。だって怖くない? 靴の中に足が入ってるんだよ? それって、もちろん、足がちぎれて入ってるってことだよね?」
「……確かに想像すると怖いな」
「でしょ?」
靴の話をAは、自分で想像して背筋が寒くなった。
そこで、この話題を切り上げようとしたが、Kが話を続ける。
「でもさ、なんで足だけ取れて打ち上げられるんだろ?」
「なんかさ、人間の足首って結構、柔らかいんだって。それで、その部分を魚が食べるって話だぞ」
「あー、それで足が取れるんだ」
「てかさ、もう、この話やめようぜ。振っておいてなんだけどさ」
「うん。そうだね」
2人はしばらく無言で浜辺を歩く。
すると、Kが海の方を指差していきなり叫ぶ。
「あっ! あれ! 靴だよ、靴!」
「ビビらせるなって。そういうイタズラはシャレにならんって」
「いや、ホントに!」
Aが海を見ると確かに靴が浮かんでいた。
「……あれ、Tの靴じゃね?」
「え? あ、ホントだ!」
「Tもこのへん、よく散歩するって言ってたぞ」
2人は顔を見合わせる。
「……まさか」
そして、慌てて海の方へと走る。
海に飛び込んで靴を拾い上げるAとK。
恐る恐る靴の中を覗き込んでみる。
だが、そこに足首は入っていなかった。
「よかった……」
「ビックリさせやがって」
2人はホッとして、海岸を後にした。
終わり。
■解説
Tの靴が海に浮かんでいたということは、Tは溺れているということになる。
この後、Tは溺死体として発見されるかもしれない。
鏡餅
年末。
AとBがこんな話をしている。
A「お前んち、鏡餅飾ってる?」
B「いや、うちはそういうの信じてないからさ」
A「でも、いつも初詣とか行ってるじゃん」
B「それはなんていうか、習慣で行ってるだけだよ。おみくじ引きたいしさ」
A「ふうん」
B「なんで、急に鏡餅の話が出てくるんだ?」
A「それがさ、俺んち、今年から飾り始めたんだよ。うちって、なんか運が悪いって言うか不運が続いたからさ。ものは試しってことで」
B「へー。それで?」
A「そしたらさ、今年は結構、運がいいって言うか運気が逆転したって感じなんだよね。うちもあんまりそういうの信じてなかったけど、飾ってみて正解だったんだ」
B「……そうなんだ」
A「お前んちも飾ってみたら? おじさん、なんか騙されたとかで借金、すげーできたんだろ? 鏡餅を飾って神様にお願いしたら、運気が逆転するかもしれないぞ」
B「鏡餅かぁ……。神様って餅が好きなのか?」
A「好物って言うかお供え物だから。鏡餅をお供えして神様と新年のお祝いをして、1年の良運を願うんだってさ」
B「詳しいんだな」
A「色々調べたからさ。鏡餅が丸いのは人の心臓を表してるんだって。あと鏡餅が二段なのは陰と陽を表してて、幸福と財産が重なっていて運気が上がるんだって」
B「そっかぁ。そう聞くとご利益ありそうだな」
A「でしょ? 飾った方がいいよ」
B「けどなあ。金がねーし。今からじゃ売り切れてて買えなさそうなんだよなぁ」
A「そっか。残念だな。来年飾ればいいんじゃないか?」
B「あ、そうだ。お前さ、これから家に来ないか? 弟連れてさ」
A「え? 別にいいけど」
B「じゃあ、俺、先に帰って用意してくるわ。お前は弟連れてきて」
A「わかった。じゃあな」
B「ああ」
この後、Aは弟を連れてBの家に行った。
そして、Bの家では神様へのお供え物が間に合ったのだった。
終わり。
■解説
Bは餅が心臓の代わりだと勘違いしていた。
そのことから、心臓が餅の代わりになると考えた。
つまり、Aとその弟の心臓は鏡餅の代わりとして神様へのお供え物にされてしまった。
空港にて
Aはその日、空港にやってきた。
時間まで待っていると、空港のトイレからBが出てくるのが見えた。
Bとは学生の頃は凄く仲が良かったが、卒業してから5年以上も連絡を取っていない。
驚いたAはBに話しかける。
「やあ、B。偶然だね」
「よお、A。久しぶりだな」
「お腹でも押さえて、腹でも壊したのかい?」
「ああ。昨日、食べたカキがあたったのかも」
「うわー、それは大変だ」
「そのせいで、1時間くらい、ずっとトイレから出れなかったよ」
そんなことを話していると、空港のテレビにあるニュースが流れる。
それはパリ行きの飛行機が上空で爆発し、墜落したといういうものだった。
そのニュースを見て、Bが驚く。
「マジかよ……」
「怖いね」
空港内が慌ただしく騒めき始める。
「でも、よかったね、B。カキにあたってなかったら、乗り遅れることなかったわけでしょ?」
「ああ。最初は飛行機代もったいないなーって思ったけど、幸運だったよ」
「死んだら元もこうもないもんね」
「そうだな。あ、そうだ。Aはこの後、暇か? 久しぶりに飲みに行かないか?」
「いいね」
2人は昔を懐かしみ、空港を出て明け方まで飲み明かした。
終わり。
■解説
AとBは5年以上も連絡を取っていなかった。
それならAはなぜ、Bの行先と、飛行機の時間を知っていたのだろうか?
そして、Aは「空港にやってきた」とあるため、帰ってきたわけではない。
それなのに、なぜBと一緒に空港を出たのか?
もしかするとAは飛行機に乗るつもりではなく、あることを確認するために空港にやってきたのかもしれない。
それはBが乗った飛行機が墜落するのを見届けるため。
AとBは仲がよかったとあるが、AはBを恨んでいたのかもしれない。
タワーマンション
男は部長に昇進したことを機に、タワーマンションを購入した。
41階と、かなり上の階だ。
最初は家族も喜んでいたが、マンションの出入りにエレベーターを待たなくてはいけないことや、知り合いからは妬まれること、そして、高い所に住んだからといって別に得を感じないことなどで、今では家族は後悔しているという状況になっている。
男も正直、勢いで買ってしまったこともあり、売ろうかどうかを悩んでいる。
会社内や知り合いにも、タワーマンションを買ったことは内緒にすることにした。
かなりの高額で、ローンも組んでいるのでそのへんを聞かれるが鬱陶しかったのだ。
しかも、最近、男の妻が嫌がらせをされているらしい。
家の電話にイタズラ電話や玄関先にゴミやネズミの死体が置かれていたり、外に出ると誰かに見られているような感覚がするのだという。
そんなこともあり、妻は子供を連れて一時的に実家に戻り、今は一人で住んでいた。
今まで家族と一緒でにぎやかだったのに、男は一人になり、急に寂しく感じるようになる。
そんなある日。
男は自分を慕う、部下の女の子と飲みに行った。
そのときに、ふと、タワーマンションのことをしゃべってしまった。
すると部下の女の子は行ってみたいと言い出す。
男は誰にも言わないことを約束して、自宅のタワーマンションに向かった。
すると、マンションの前に消防車が数台停まっていた。
何だろうと思っていると、部下の女の子がマンションの40階を指差した。
その部屋から煙が出ている。
「先輩、火事です! 先輩の部屋の下!」
男は青ざめ、消防員に大丈夫なのかを迫った。
男は祈るように見ていたが、どうやら他の部屋に燃え移る前に消し止められたらしい。
男は安堵したと同時に、やっぱりタワーマンションの部屋を売りに出そうと決めた。
終わり。
■解説
男の部下の女の子は、なぜ男の部屋の場所を知っているのか?
男は誰にも話していないはずである。
もしかすると、その女の子は男のストーカーで、男の妻に嫌がらせもしていたのかもしれない。
シェア
一卵性双生児がいた。
顔がソックリなのはもちろん、体格も性格も2人はほとんど変わらなかった。
そのせいか、両親は何でも2つ買って、2人で共有させていた。
2人も生まれてからずっとそうやってきたので、2人で共有することが当然という感覚になる。
学校でも、2人はずっと違うクラスだったので学校で使う分の教科書の1組は学校に置きっぱなしにし、もう1組は宿題や勉強用として家に置きっぱなしにして2人で教科書を共有していた。
彼女が出来ても、その彼女を騙して、入れ替わることで共有していたし、同じように友達も共有していた。
そんな2人も大学を卒業し、就職することになった。
2人とも初任給があまり高くなかったことから、2人でシェアハウスに住むことにした。
そこでも、2人は何でも共有していた。
食べ物や光熱費も2人で折半して払っていた。
そんなある日のこと。
兄が趣味のギャンブルで多額の借金をする。
そのとき兄は「借金も共有するものだよな」と考え、弟の名前で借金をした。
すぐに帰すつもりだったが、ドンドンと借金が膨らんでいく。
すると、命を狙われるようになり、ついに弟は借金取りに殺されてしまった。
弟が死んだことで、金の心配はなくなった。
それを知った兄は借金を共有しておいてよかったと安堵する。
次の日。
家のチャイムが鳴り、ドアを出てみると、そこには借金取りが立っていた。
終わり。
■解説
この双子は、外見はもちろん、性格もソックリである。
そのため、弟の方も「ギャンブルで借金をして、その借金も兄と共有」していた。
つまり、弟も兄の名前で借金をしていた。
兄の方も、弟の借金の共有により、殺されてしまう。
ツーショット
その女の子はSNSに依存する傾向があった。
3分ほどの空き時間があればすぐにSNSをチェックするし、どこに行ってもまずは写真を撮って、それをSNSにアップしている。
自分を見て欲しいという承認欲求が強く、とにかく写真の映えにこだわっていた。
だが、その女の子は、自分を見て欲しいということで自分だけが写っている写真をアップしても、評価が上がらないため、いつも2人で写真を撮るようにしている。
仲のいい友達と一緒に撮れば変な嫉妬心を持つ人も少なくなるだとうと考えたからだ。
そして、その考えは当たったようで、女の子2人で撮った写真は好評だった。
どこに行くときでも、その仲のいい友達とツーショットの写真をアップする。
仕事でのちょっとした休憩中やランチ、休みの日に買い物に行っても、旅行に行っても、いつもその友達とツーショットを撮る。
そんな女の子のSNSを見た同僚が、「本当に仲がいいんだね」と言うと、女の子は「大親友なんです。私たちはいつも一緒なです」と笑顔で言う。
同僚は「今度、私にも会わせてよ」と言うと、女の子はキョトンとした顔をして、こう答えた。
「今もいますけど」
終わり。
■解説
仕事中の休憩の写真にも写っているのに、同僚が知らないというのは変な話である。
そして、「今もいる」という、女の子の言葉。
つまり、いつもツーショットを撮っている女の子の親友というのは幽霊なのかもしれない。
誕生日プレゼント
私たち夫婦はずっと子供が欲しいと思っていた。
だから、子供ができたときは本当に嬉しかった。
まさに幸せの絶頂という感じで、この子が生まれてくるのをずっと心待ちにしていた。
だけど、生まれてきた子は外見的にハンデを追うような子だった。
なんで生まれてきたときに気付かなかったのだろうか。
数日後に見た自分の子供の顔を見ながらそう思った。
夫も同じように落ち込んでいた。
でも、たとえどんな見た目をしていても、自分たちの子供には変わりがない。
愛情をもって育てよう。
夫とそう誓い合った。
この子には真っすぐと育って欲しいという思いもあり、私は家に閉じこもることなく、子供と一緒にお出かけをした。
中には子供を見て、顔をしかめる人もいたが、そんな人たちは気にしないことにした。
しょせん、見た目でしか判断できないような人たちだ。
そんな人たちにどう思われようと構わない。
私たちが負い目を感じる必要なんて、一切ない。
それは子供が大きくなってからも言い聞かせようと思う。
内面を磨きなさい。その内面を見てくれる人と付き合っていきなさい、と。
そう考えるようになってから、私はなんだか心が大きくなった感じがした。
この子のおかげで、私は成長できたのかもしれない。
そして、今日はこの子の誕生日だ。
まだ、離乳食だけど、盛大にお祝いしよう。
そう思って、スーパーに買い物に来た。
ご馳走の材料を買い込み、停留所でバスを待つ。
すると、そのとき、私の子供と同じくらいの年の子供を連れた女性が横に座ってきた。
その子供がとても愛らしかったので、私は思わず声をかけてしまった。
「可愛いお子さんですね」
「ありがとう。よく言われるんですよ」
笑顔で答える母親。
私の子もあんなに可愛らしかったら、なんて思ってしまう。
でも、それは自分の子供に失礼だ。
私はすぐに頭を振って、その考えをかき消した。
「ここにはよく来るんですか?」
「近所に大きなスーパーが無くて。だから、少し遠くてもここに来るしかないのよね」
話を聞くと、その母親は同じ地域に住んでいることがわかった。
「もしかして、出産は〇▲病院ですか?」
「はい。そうですけど……」
「私もなんですよ。偶然ですね」
「そうなんですか」
思わぬ共通点を見つけ、私はテンションが上がったのだが、その母親の方は逆にテンションが下がってしまったようだった。
なんだろう? 変なことを言ってしまったのだろうか?
そう思っていると、バスがやってきた。
バスに乗り込もうと立ち上がると、母親がカバンからオモチャを出してきて、私に渡してきた。
私が首を傾げていると、母親はニコリと笑う。
「誕生日プレゼント。私の子供も、今日が誕生日なの」
「え? そうなんですか? 偶然ですね」
思わぬところで、さらに共通点が見つかった。
私はバスの中で、この話題でもっと話そうと思ったが、母親の方は立とうとしない。
「バスに乗らないんですか?」
「もう一つ後のに乗ります」
そう言われてしまった。
とても残念だ。
もっと、子供の顔を見たかったんだけど。
そう思って、私は子供を抱きかかえてバスに乗り込んだ。
終わり。
■解説
隣に座った母親は、なぜ、語り部の子供の誕生日を知っていたのか。
同じ病院で、同じ日に生まれた子供ということになる。
もしかすると、母親は子供を入れ替えたのかもしれない。
本当は自分の子供だったため、母親の子供に強い興味を引かれたのではないだろうか。
バスケットボール
5人の少年たちはスラム街に住んでいた。
親もいない少年たちは、日々、学校にも行けず、犯罪に手を染めて生きてきた。
盗みはもちろん、殺人も平気でおこなっている。
誰も信用せず、人を裏切るのも当たり前だった。
少年たちはそうしなければ生きていけないので、仕方ないと考えていた。
そんな少年たちには、唯一の趣味があった。
それはバスケットボールで、5人の連携は誰にも止められないほどだった。
そんなあるとき、バスケットボールの大会があるのを聞きつけた少年たち。
ただ、その大会は非合法で、いわゆる勝敗を賭けるものだ。
もちろん、優勝チームには賞金が出る。
少年たちは優勝のために必死に練習に明け暮れた。
絶対に優勝して、賞金を手に入れる。
そう考えるだけで、きつい練習も耐えた。
そして、大会当日。
バスケットボールは参加者が用意するルールだった。
しかし、少年の中の1人がボールを持ってくるのを忘れてしまう。
このままでは時間切れで失格になってしまう。
そこで少年たちはボールを忘れた少年に責任を取らせた。
少年たちが用意したボールは全く跳ねない上に、少年たちのメンバーは4人になってしまったので、結局、失格になってしまった。
終わり。
■解説
ボールを忘れた少年の頭をボールにしようとした。