本編
高いワイヤレスイヤホンを買った。
すごく耳に馴染むし、ビックリするほど軽い。
時々、イヤホンを外し忘れるくらいだ。
そして、俺はそのイヤホンで怪談を聞くのが趣味になった。
直接、耳に響いてくるような感じがして、臨場感が楽しめるのだ。
今日も帰りの電車で、怪談を聞きながらスマホでゲームをする。
すると、いきなり、肩を叩かれた。
なんだと思って振り返ると、中年の男が顔をしかめて、耳を指差している。
どうやら、音漏れがして煩かったようだ。
仕方なく、俺はイヤホンを外してカバンに入れる。
音量を下げればいいかと思ったけど、それでもまだうるさいとか言われたら面倒だ。
駅を降り、夜道を歩く。
なんだか、急にお腹が減ってきた。
家に帰れば、カップラーメンがあるが、なんだかドカ食いしたくなってきた。
俺は少々遠回りになるが、コンビニに寄って、色々と買い込む。
弁当にジュース、ホットスナックにお菓子。
そして、お酒。
勢いで買ってしまったが、今日はまだ木曜日だ。
明日も会社がある。
酒は明日にしておこう。
なんて考えていると、急に後ろから「殺してやる」という女の声が聞こえた。
慌てて後ろを振り返るが、誰もいない。
気のせいかと思い、歩いていると、また「無視するな」とか、「呪ってやる」とか聞こえてくる。
俺は怖くなって、走り出す。
やっぱり、コンビニなんかに行かないで、真っすぐ帰ればよかった。
走っている間、ずっと、耳元で囁くような女の声がする。
なんだよ。呪われるようなことなんてしてないぞ。
体力の限界が来たところで、ちょうど家に到着する。
恐怖で震える手で必死に鍵を開けて、すぐに家の中に入る。
するとまた、耳元でお帰りなさいと聞こえた。
ああ。完璧に呪われている。
さすがにこの時間から、除霊をしてくれるところなんてないだろうな、と思いながらスマホを取り出す。
すると、スマホの画面が再生の画面になっていた。
そう。ずっと、怪談を再生していたのだ。
なんだよ。怪談か。
俺はホッとして、停止ボタンを押した。
終わり。
■解説
語り部は途中でイヤホンを外している。
なので、耳元で声が聞こえるのはおかしい。
つまり、語り部の耳元で囁いていたのは、本当の幽霊なのかもしれない。
動画
簡易的な読み上げの動画になります。
音声でサッと聞きたい方はこちらをどうぞ。