本編
俺の家の、ある部屋には人物画が飾られている。
親父が、その絵を見て一目惚れしたらしく、安くもないのに即買いしたようだ。
母さんにはメチャメチャ怒られてたけど。
けど、親父は満足気に、よくその人物画を眺めている。
俺と母さんは、あの人物画はあまり好きじゃない。
というより、苦手だ。
椅子に座った少女。
背景は暗く、ジッとこちらを見ているような絵だ。
なんていうか、不気味な感じがする。
友達にも見てもらったけど、二度と見たくないと言っていた。
だから、俺も母さんもあの人物画を見たくないので、飾ってある部屋には行かないようにしている。
でも、ベランダに行くためには、この部屋を通らなければならない。
今日は天気がいいから、布団を干したい。
そうなるとベランダに行かなきゃならない。
ベランダに行くと言うことは、あの部屋を通らないといけなくなる。
とはいえ、絵が怖いから布団を干さないのもなんだか、ビビりな感じがして腹が立つ。
要は、絵を見なければいいだけだ。
俺は布団を持ってあの部屋に向かう。
だけど、見ないように意識すると、逆に絵が気になってしまった。
チラリと絵の方を見ると、人物画の少女と目が合った。
くそ、やっちまった。
げんなりしながら、ベランダへ向かい、布団を干す。
凄い天気がいい。
さっきの暗い気持ちも吹っ飛んでしまった。
布団を干し終わり、ベランダから出る。
すると、また人物画の少女と目が合う。
あー、もう。またかよ。
ホント、不気味な絵だ。
終わり。
■解説
語り部は部屋に入ったときと、ベランダから戻ったときの2回、人物画の少女と目が合っている。
その2回は、人物画を見る方向は真逆である。
それなのに、目が合うのは変である。
つまり、人物画の少女の目が動いている可能性が高い。