サイトアイコン 意味が分かると怖い話【解説付き】

鉢合わせ

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本編

あいつは親にキラキラネームを付けられた男だった。
普通なら親を恨みそうなものだが、あいつの苗字も変わっていたこともあり、あいつは「俺と同姓同名のやつはいない。つまり、世界一で唯一の存在だ」なんて、意味の分からないことを自慢していた。
 
あまり頭のいい奴じゃなかったが、いや、だからこそ俺はずっとそいつとつるんでいた。
何かあったときに利用してやろうと思ってたからだ。
 
ホントはあいつの親が金持ちだったらいうことなかったが、世の中そうそうあまくはない。
どちらかというと、あいつは貧乏と言ってもいいくらいだ。
まあ、それは俺も同じで、人のことはいえないのだが。
 
そんなあるとき、俺は投資の失敗で多額の借金を負ってしまった。
最初は闇金から借りてやり繰りをしていたが、正直、それもきつくなってくる。
取り立ても厳しくなり、このままでは命も取られかねない状況になった。
 
そこで俺は最後のカードを切ることにした。
あいつが持っていた、父親の形見を盗んで売った。
状況からして、盗んだのは俺だってわかっただろうが、もうあいつと会うことはない。
 
あいつの父親の形見は、そこそこの値段で売れたがそれでも足りなかった。
売れるものは全て売ったがダメだった。
八方塞がりだ。
 
戸籍も売ろうかと考えた。
だが、このまま海外に逃げてしまえばいいのではと気づく。
 
飛行機に乗るためにはパスポートが必要で、それを作るには戸籍が必要だ。
なので、戸籍は売らずにパスポートを作る。
 
空港で飛行機の出発を待っているときだった。
搭乗案内のときに、聞き覚えのある名前が耳に入って来た。
 
そう。
あいつの名前だ。
 
俺は冷や汗をかいた。
同じ飛行機に乗るみたいだ。
 
一瞬、飛行機には乗らずに逃げようかと考えたが、俺の方は既に搭乗案内を済ませ、ゲートを通過している。
ここで逃げる方が目立つし、怪しまれる。
金も勿体ない。
 
俺は見つからないように祈りながら、飛行機の席に座った。
だが、最悪なことに席が隣だった。
 
隣の奴は俺に話しかけてきた。
 
「俺の名前は変わってるんですよ。世界に一人だけで、同姓同名はいないんですよ。つまり、俺は世界で唯一の存在なんですよね」
 
俺は大げさに驚いて見せ、目的地に着くまで会話を楽しんだ。
 
終わり。

■解説

語り部があいつと呼ぶ人間の名前は珍しく、世界で唯一と言っていることから、同姓同名とは考えられない。
そして、あいつが語り部のことを許しているとは思えない。
さらに、会話を見る限り、まるで初対面のように見える。
つまり、あいつは戸籍を売り、語り部の隣に座った人間はその戸籍を買った人間だと考えられる。

 

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