サイトアイコン 意味が分かると怖い話【解説付き】

アットホーム

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本編

2月。
もうすぐ大学も卒業になる。
だけど、まだ就職の内定をもらっていない。
 
今は人手が足りないと言われているから、すぐに決まるだろう。
そんなことを考えているうちに、就活が遅れて、1月から慌てて始めてみたがほとんどの会社がもう新卒の採用が決まっていて、そもそも募集自体がない。
 
このままニートになるのかな、なんて思っている中、親から連絡が来る。
 
「ニートは許さないから。就職が決まってないなら家には入れないからね」
 
完璧に退路を断たれた。
大学時代もずっと仕送りでなんとか生活してたから、バイトはやっていなかった。
だから、バイトを続けてなんとか生活を維持する、なんてこともできない。
 
とにかく、どこでもいいから就職しなくちゃならない。
友達からは「そんな考えで決めたら、ブラック企業を引くぞ」と言われた。
 
確かに友達の言うこともわかる。
だが、ホームレスになるよりは、まだブラック企業の方がマシだろう。
 
それに、とりあえずブラック企業に入って、裏で就職活動すればいい。
そして、決まれば、スパッと辞めればいいだけだ。
 
ということで、俺は今からでも入れそうな企業を片っ端から受けた。
それでも何社か落ちてしまう。
 
そんな中、ついに面接まで漕ぎつけた会社があった。
面接はその会社の社長が直接やっていて、その社長がこんなことを言った。
 
「うちはアットホームな職場だよ。というより、社員は家族そのものなんだ」
 
出たよ。ブラック企業の常套文句。
良いところがないから、苦肉の策でアットホームを推すしかない。
完璧にブラック企業だろう。
 
だけど、ここを断ったら、もう他の会社に決まる気がしない。
 
ここはやっぱり当初の予定通り、一旦、この会社に入って、裏で就職活動をしよう。
 
そう思っていたら、面接の場で採用が決まった。
本当に人手がいないんだろう。
 
いつでも逃げられるように準備をして出社する。
だが、心配してたのとは裏腹に、普通の会社だった。
社員自体が少ない。
なんと、家族経営をしている会社なんだそうだ。
 
新入社員なのに、定時で帰らせてくれる。
仕事も怒鳴られることもなく、みんな優しい。
これなら、ずっとこの会社でやっていけそうだ。
そう思いながら3ヶ月が経った。
 
会社に行くと、よくわからないが、ある書類に名前を書いてハンコを押して欲しいと言われた。
言われた通り、名前を書いてハンコを押した。
 
そして、その日に帰ろうとしていたら、社長がやって来て「うちに住むことになったから」と言われた。
どういうことかと聞くと、「一人暮らしだと家賃もかかるし、ご飯や洗濯、掃除なんかも大変だろう? うちなら、家政婦さんがいるから全部やってくれるんだよ」と言われた。
 
部屋もいっぱいあって、ちゃんと一部屋を貰えるらしい。
正直、家事全般が面倒だと思っていた。
家賃が浮くのと、ご飯が出てくるというのは魅力的だった。
 
家に帰っても社長がいるというのはちょっと気を使うかもしれないが、社長は気さくな人で、本当に父親のような感じがしていた。
だから、一緒に住んでいても、そこまで苦にはならないだろう。
 
そう思って、了承した。
 
その日のうちに業者がやってきて、社長の家に引っ越しが住んだ。
 
そして、その日から全てが一変した。
 
まず、驚いたのが社長の家に、社員全員が住んでいるということだった。
まあ、家族経営だからあり得ないことはないけど、まさか、全員が一つ屋根の下で生活をしているとは思ってもみなかった。
 
さらに、業務に対しても厳しくなった。
ちょっとしたミスでも怒鳴られ、帰るのはいつも深夜2時くらい。
さらに朝は8時出勤。
 
家賃が浮くだろうと言われて、その分、給料が減らされた。
もちろん、残業代も出ない。
御飯も出るには出るが、卵かけごはんと納豆という簡素な物ばかり。
肉なんてほとんど出ない。
 
騙された。
これはさっさと次の会社を見つけて出て行くしかない。
 
だが、いつも深夜2時まで働かせ、朝は8時には会社に行かないとならない。
休日も週に1回だけで、その日はずっと寝て過ごさないと次の週は生き残れない。
こんな状態で、次を見つけられるわけがない。
 
そんな状態で2年が経つ。
身体と精神はもう限界だった。
 
これならまだホームレスの方がいい。
というより、事情を話せば親だってわかってくれるはずだ。
仕事が決まるまでという条件で家において欲しいと言えば、受け入れてくれるはずだ。
 
ということで、会社から逃げ出すことにした。
部屋の物はそのまま残しておくことにする。
というより、そもそも大事な物なんて買う暇がなかった。
 
ただ逃げ出すのも癪なので、そのまま労働基準監督署に駆け込んだ。
絶対に労働基準法を逸脱していると報告した。
 
すぐに調査が行われる。
 
だが――。
 
会社は全くおとがめなしだった。
 
どういうことかと聞いたら、逆に怒られてしまった。
変なイタズラをするんじゃない、と。
 
話を聞いてみると、なんと、そもそも会社に勤めていないことになっていた。
入社して3ヶ月で辞めていたことになっている。
社員じゃないのに労働基準法は適用されないと言われたのだ。
 
混乱した。
一体、どうなっているのかと。
 
そして、労働基準監督署の人にこう言われた。
 
「家族なんですから、仲良くしてください。子供に訴えられるなんて、お父さんが悲しみますよ」
 
終わり。

■解説

この会社は面接時に「社員は家族そのものなんだ」と言っている。
さらに、この会社は「家族経営」である。
これは家族で経営しているのではなく、「社員を家族にしている」と考えられる。
つまり、語り部は養子にされ、「家事手伝い」をさせられていたため、労働基準法には引っかからなかったわけである。

 

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