本編
俺は昔、友達と面白半分で株をやって、大儲けした。
本当なら貯金でもすればよかったんだけど、どうせギャンブルっぽい感じで手に入ったお金だったので、家を買うことにした。
とはいっても、マンションとか一軒家を買えるほどではない。
なので、田舎の町外れの別荘を買った。
避暑にでも使おうと思ったのだ。
最初の頃は1年に1回は行くようにしていたが、次第に、良く頻度は少なくなっていった。
いまでは3年に1回くらいだろうか。
しかも避暑というよりは、掃除しに行っているという感じだ。
正直、買わなければよかったと後悔している。
かといって、売るのも癪に障るし、なんか面倒くさい。
今回もお盆休みを使って、別荘に行く。
たまにはバーベキューでもしようと思って、肉やら酒やらを買い込んで、4日くらい滞在するつもりだった。
別荘についてみると、別荘の近くに誰かが倒れていた。
町の外れなので、周りには誰もいない。
近寄ってみると、倒れているのは男で、怪我をしたようで血を流していた。
俺は慌てて救急車を呼ぼうと思ったのだが、倒れていた男が身を起こし、俺の腕を掴んだ。
そして、救急車は呼ばないで欲しいと頼まれた。
とりあえず俺は男を別荘に連れて行き、手当てをした。
男は何度もお礼を言ってくれる。
だけど、俺はどうして救急車を呼んでほしくないかの理由を聞いた。
最初は教えてくれないだろうなとは思ったが、男は意外なことに話してくれた。
その内容は驚愕なものだった。
なんと、男は殺し屋だというのだ。
それを聞いたときは適当なことを言っているのかなと思ったのだが、男は詳しい方法まで語り出して道具まで見せてくれた。
それはとても嘘だとは思えない。
いや、例え嘘だったとしても、俺にとっては十分面白かった。
その中でも、他人になりすまして、ターゲットに近づくなんていう方法はなるほどな、と思った。
それから4日が経つと、男の傷はすっかりと癒え、普通に立って歩けるようになっていた。
俺もそろそろ別荘から家に帰ることを話すと、男は深々と頭を下げて、礼を言ってくれた。
殺し屋でも、礼儀正しい人がいるんだなと、俺は感心したのだった。
終わり。
■解説
殺し屋が他人に自分のことをしゃべるだろうか?
ましてや、語り部が誰かに話すことも考えられる。
語り部の言うように、話さない、もしくは嘘を言うこともできたはずである。
それでは、なぜ男は色々と話したのだろうか。
それは男が語り部を無事に帰すつもりがないからである。
つまり、男は、今度は語り部になりすますつもりである。
色々と話したのは、語り部に対しての、冥途の土産だったのかもしれない。