本編
あれは3年前くらいだっけな。
俺は仕事柄、出張が多くて、全国に飛び回ってたんだ。
俺も旅行が好きだからさ、別に苦ではなかったよ。
というか、天職だなって思ったくらいだ。
旅行先で一番の楽しみは食べ物だね。
居酒屋に行って、変わったメニューがあれば注文するのが流れかな。
で、居酒屋だと、お酒が入るから隣にいる人と仲良くなったりすんだよね。
あれはどこだったかな?
思い出せないな。
まあいいか。
とにかく、そのときも一人で飲んでた時に隣に一人客が来たから、つい話しかけちゃったんだよね。
そしたら、妙に盛り上がっちゃってさ。
なにがきっかけだったかな。
たぶん、俺が日本中を飛び回っているって話したのがきっかけだったと思う。
そしたら、相手にこんなことを聞かれたんだよ。
「世界には自分と瓜二つの人間が2人いるんだって。君は自分に似た人間ってみたことある?」
確かに、その話は聞いたことある。
でも、いくら全国を旅行すると言っても、さすがに見たことは一人もなかった。
たぶん、そのときも、そう言ったと思う。
で、今度は俺がその人に聞いてみたんだよ。
「あなたは会ったことあるの?」
「いやあ、残念ながら僕に瓜二つの人間はいないんだ」
だってさ。
終わり。
■解説
会ったことがないというのはわかるが、いないというのは変である。
もしかすると、この人物は既に自分に似た人間を見つけて、既に死んでいることを知ってるのかもしれない。