■本編
俺は昔からゲームオタクだった。
新作の発売日には学校をサボって買いに行き、クリアするまで1日の睡眠時間を2時間に削るくらいのことは平気でやってきた。
大学の受験に失敗し、今では家に引きこもり、1日中ゲーム三昧の日々を送っている。
ずっとゲームがやれるなんて最高の環境だ。
周りからは「そんなにゲームが好きならプロゲーマになれば?」なんてことを言われる。
わかってない。
別にゲームで食っていくなんてつもりは毛頭ない。
ゲームは楽しくやるからゲームなのであって、お金のために必死になる時点でゲームを楽しむことなんてできないだろう。
だから俺は今の環境が一番いいってわけだ。
そして、今、はまってるのがFPSのゲームだ。
いわゆる、一人称視点のシューティングゲームってやつ。
近代兵器とファンタジーが入り混じった世界観が、凄いツボにはまった。
かれこれ、1年以上、ずーっとこのゲームだけやっている。
もちろん、これだけの時間を費やしてる俺は、ゲーム内じゃかなり強い。
そして、結構、有名でもある。
確実にトッププレイヤーに入っているだろう。
もしかしたら1番かも。
初期装備のハンドガンでドラゴンを倒せるなんて、俺くらいのものだろう。
俺の中ではこのゲームが人生のベストゲームかもしれない。
いっそ、この世界に住みたいくらいだ。
そんなことを考えていたときだった。
俺の身に奇跡が起こった。
なんと、そのゲーム内に意識が入り込んだのだ。
つまり、ラノベなんかでよく聞く、ゲーム内に転生するってやつだな。
俺は歓喜した。
これで周りから「ゲームばっかり」だの「働け」だのと言われなくて済む。
この世界なら、俺は大金持ちにだってなれる。
どうやって、この世界で一から成り上がろうかと思っていると、町の中が随分と騒がしい。
逃げ惑う人に話を聞くと、どうやらデーモンが出たらしい。
デーモン。
大体、中級くらいのモンスターだ。
よし、さっそく、サッと倒して素材を剥ぎ取ろう。
ただ、そう思ったが装備がない。
さすがに俺のデータを引き継いだわけではないようだ。
辺りを見渡すと、ちょうどハンドガンが落ちている。
ハンドガンでドラゴンを倒せる俺だ。
デーモンなんて瞬殺できる。
俺は落ちているハンドガンを拾う。
ズシッとした重さは、ここが現実だという実感が沸く。
面白い。
俺はワクワクしながら、デーモンが出たという方向へ走り出した。
終わり。
■解説
語り部は、ドラゴンを『初期装備』のハンドガンで倒せると言っている。
つまり、『プレイヤー』は、最初にハンドガンを持っているはずである。
だが、語り部は『何も持っていない』状態である。
ということは、語り部はプレイヤーとしてではなく、NPSとして転生した可能性が高い。
また、ハンドガンが『重い』と感じる時点で、語り部がゲームと同じように体を動かせるとは思えない。
恐らく、この後、語り部はデーモンによって嬲り殺されてしまうのだろう。