■本編
うちの近所に、弱小なのに妙に所属人数が多い男子サッカーのクラブがある。
大会に出ても、よくて2回戦まで。
そして、コーチも別段有名というわけでもなく、そのへんにいるサッカー好きのおっさんだ。
そのくせ、妙に練習がキツイという、誰から見てもそのクラブに所属するメリットは少ない。
なのに、なぜ所属人数が多いのか。
その理由はマネージャーにある。
そのクラブの唯一のマネージャーがとても美人なのだ。
そのマネージャーのプライベートは謎に包まれていて、町で見かけたという情報もない。
つまり、そのマネージャーに会うにはこのサッカークラブに入るしかないのだ。
なので、このサッカークラブに入っている奴は全員、マネージャー狙いというわけだ。
もちろん、俺もマネージャー狙いでこのクラブに入った。
だけど、俺は正直言って運動神経が悪く、サッカーで活躍できるどころか、レギュラーにすらなれない。
これでは、完全に『その他大勢』に含まれてしまう。
そこで俺はあることを考えた。
この高い競争率の中、確実にマネージャーと仲良くなる方法。
それは同じマネージャーになることだ。
もちろん、男子がマネージャーとして入ることはできない。
それができれば、すでにやってるやつが大勢いるだろう。
では、どうするか?
簡単だ。
女装すればいい。
俺は童顔で、中学の時まで女に間違われることもあったくらいだ。
なので、ばっちりとメイクしていけばバレない。
そして、思った通り、バレることなく、俺はマネージャーとしてクラブに入ることができた。
それから3ヶ月が経つ頃には、マネージャーとかなり仲良くなれた。
あとは、どうやって俺が男であることを話しながらも、プライベートで会えるようにするか、だ。
やり方を間違えば、完全に嫌われてしまう上に、周りからも白い目で見られるだろう。
ここは慎重にいかないとならない。
なんてことを考えていると、大会の時期がやってきた。
作業をしている俺のところにコーチがやってくる。
「ベンチにはお前に入ってもらうぞ」
「え? 私の方がですか?」
「そうだ」
そう言いながらコーチは俺をエロい目で見てくる。
正直、この目つきには慣れない。
本当に吐きそうになる。
だが、マネージャーといるためには我慢しなければならない。
そんな俺の思いとは裏腹に、コーチはこう言った。
「なんせ、お前はうちの紅一点だからな」
終わり。
■解説
語り部が男だということはコーチにはバレていない。
なのに、語り部に「紅一点」と言ったのはどういうことなのだろうか。
それは、マネージャーは、語り部と同様に女装している男だということになる。