■本編
女はとても貧乏だった。
夫は借金を残し、家を出て行ったため、その女一人で子供を養っていかないといけなかった。
働いても働いても、一向に生活はよくならない。
そんな中、子供が誕生日を迎える。
子供に良い物を食べさせたい。
女はそう思った。
だが、手持ちは2000円しかない。
女は夫がまだ家にいた頃、3人で一緒に行ったお店のことを思い出す。
あのとき、子供はその料理がとても気に入ったらしく、1週間くらいはずっと「あのお料理美味しかった」と言っていた。
是非、そのお店にもう一度連れて行ってあげたい。
だが、そのお店は遠く、電車に乗らなければならないし、2000円では2人分は食べられない。
そこで女はあることを決意した。
子供に2000円を持たせ、降りる駅とお店の地図を渡す。
2人なら無理でも、1人なら食べられる。
そうして、2000円を渡して、子供を見送った。
子供は母親に言われた通り、730円の切符を買い、お店までたどり着き、料理を楽しむことができた。
終わり。
■解説
2000円では2人分は食べられないと言っていることから、このお店の料理は1000円以上するということになる。
そして、片道に730円を使ってしまうと、帰りの電車賃はないはずである。
つまり、母親は最後の晩餐として、子供にいいものを食べさせたかった。
女は手持ちが2000円しかない時点で、この先はどうやっても生活できないと悟り、子供を送り出し、自ら命を絶ったのかもしれない。