■本編
私はマンションの5階に、家族と一緒に住んでいる。
5年前、父が家を持ちたいということで、マンションの一室を購入したのだ。
その当時の私は小学生で、一軒家が良いと駄々をこねたものだが、高校生となった今ではここで良かったと思っている。
というのも、このマンションには、格好いいお兄さんが住んでいるのだ。
本当にモデルじゃないかってくらい、スラッとしてて超イケメン。
見かけた瞬間、私は一目惚れをしてしまったんだと思う。
でも、同じマンションの住人だからといって、仲良くなれるわけではない。
というか、基本、ほとんど会わない。
顔を見ることができるのは、唯一、エレベータの中だ。
下に降りるときにお兄さんが乗ってくるときがある。
お兄さんと一緒に乗り合わせたときは、思わずガッツボーズしてしまう。
ただ、乗り合わせたからと言っても「こんにちは」とか挨拶するのが関の山。
あとはひたすら、お兄さんをチラチラ見ることくらいしかできない。
もう少し、仲良くなりたいなと悶々としているときだった。
あるとき、20時くらいにマンションに着き、エレベータのボタンを押す。
そして、ドアが開いたとき、エレベータにお兄さんが乗っていた。
私は「ラッキー」と思いながら、5階のボタンを押した。
「今帰りなの?」
突然、お兄さんが話しかけてくれた。
「あ、はい。部活で遅くなっちゃって……」
「へー。こんな時間まで練習なんだ?」
「大会が近くて……」
「何の部活?」
「バスケ部です」
「ホント!? 偶然! 俺もバスケ部だったんだよ」
「ホントですか!?」
その後、少しだけバスケの話で盛り上がった。
だけど、すぐにエレベータは5階到着してしまう。
「またね」
降りるとき、お兄さんは笑って手を振ってくれた。
「やったーー!」
私は思わず叫んでジャンプしてしまった。
終わり。
■解説
語り部はマンションに帰ってきて、エレベータのボタンを押している。
つまり、1階から乗ったことになる。
そして、お兄さんは『既にエレベータ』に乗っていた。
その後、お兄さんは降りずに、語り部と一緒にエレベータ乗り続けている。
さらに、お兄さんは語り部よりも『下の階に住んでいる』はずなのに、語り部の方を見送っている。
1階でも降りず、5階以上に上るという謎の行動をしているお兄さんは、一体、何をしているのだろうか。