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■本編
息子が事故を起こした。
単独事故で、他に被害者が出なかったのは不幸中の幸いだった。
息子は一命を取り留めたが、脳に損傷を受けたとのことで植物人間になってしまった。
打ち所が悪かっただけ。
何も言われないと、ただただ寝ているだけのように見える。
それくらい、息子の体には怪我一つなかった。
息子はまだ20歳になったばかり。
人生はまだまだこれからだったのに。
高校のときはバスケ部で、県大会で3位にも入ったくらいだ。
あんなに元気で、優しい子がこんなことになるなんて。
私は毎日のように病院に通って、息子に語り掛けた。
色々調べてみたところ、根気よく話しかければ目覚める可能性があるらしい。
それは本当に低い確率らしいけど、私はどうしても諦めることができなかった。
毎日毎日、朝一番で病院に行き、面会時間が終わるまで息子に語り掛ける。
だけど、1ヶ月ほどがたった頃だった。
いつものように、病院に行くと、息子が病室にいない。
すぐに医師にどういうことかと問い詰める。
すると、息子は昨日の深夜に急に容体が悪くなり、死んだのだという。
どうして連絡してくれなかったのかと言うと、緊急でそれどころではなかったらしい。
なぜ、急に容体が変わってしまったのか。
今は、司法解剖に回して原因を調べているのだという。
息子の体を勝手に解剖するなんておかしいと抗議したが、司法解剖は遺族の承諾を得られなくても行えるらしく、また、断ることもできないらしい。
息子の死因の原因がわかるのならと、無理やり自分を納得させる。
それから1週間後、息子の遺体が返ってきた。
大きな手術の痕があり、身体も随分と軽い。
そんな息子の体を見ると自然と涙が流れてくる。
しかも、結局は死因の原因はわからなかったらしい。
私は絶望のまま、息子の葬儀を行い、火葬して骨を拾った。
終わり。
■解説
司法解剖の必要性の有無は捜査を担当する検察や警察が判断するものである。
医師が判断するものではない。
また、返ってきた息子の体は軽くなっていた。
つまり、この病院の医師はまだ健康な語り部の息子の内臓を取って売り飛ばしていたと考えられる。
さらに、容体が悪化して死んだというのも嘘で、医師が『殺した』可能性も高い。