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新品のような包丁

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■本編

その女は料理が好きだった。
料理の食材はもちろん、調理器具にもこだわりを持っている。
 
そんなあるとき、女の夫が包丁をプレゼントした。
その包丁は職人が手で作った特注品で、女は前から欲しいと思っていた包丁だった。
 
女は感激し、夫からもらった包丁をとても大切に使っていた。
使わない日も手入れを欠かせない。
それくらい、嬉しかった。
 
夫の方も妻の喜びようを見て、プレゼントをしてよかったと思う。
 
その包丁をプレゼントしてから、夫は妻の料理の腕も上がった気がする。
前の料理も美味しかったが、最近の料理は舌を巻くほどだった。
 
そのことを話すと女は恥ずかしそうに「包丁に見合った料理を出さないとと思って」と答えた。
 
夫は「あまり凝り過ぎて、大変にならないようにね」と言う。
最近は料理にかける時間が結構長くなってきていたのだ。
 
そんなある日、女の妹が家に遊びに来た。
妹も、女ほどではないが料理が好きだった。
 
なので、今晩は一緒に料理を作ろうということになった。
そして、料理をしていると妹が、思い出したように言う。
 
「そういえば、旦那さんから包丁プレゼントしてもらったんだっけ?」
「うん。これだよ」
「うわー。すごい良い包丁だね」
「でしょ?」
「ちょっと使ってみていい?」
「うん。いいよ」
「わっ! 凄い切れる!」
「でしょ?」
「でも、プレゼントされたのって、半年以上前でしょ? 新品みたいだね」
「うん。実は、もったいなくて料理に使ってないんだ……」
「ええー。ちゃんと使いなよ。せっかくプレゼントしてもらったんだから。眺めて、手入れしてるだけじゃ、逆にもったいないって」
「そうだよね。じゃあ、今度からはちゃんと使うよ」
「うん。それがいいと思うよ」
 
その日は姉妹で協力して料理を作ったので、美味しくて豪勢な夕食が完成したのだった。
 
 終わり

■解説

女は包丁を『とても大切に使っていた』はずである。
そして、注目すべきなのは「料理には使っていない」と言っていることである。
ということは料理以外のことに『使って』いることになる。
そして、女の夫は、包丁をプレゼントしてから『料理が格段に美味しくなった』と言っている。
もしかすると、女はこの包丁を「よからぬもの」を切ることに使っているのかもしれない。

 

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