本編
世間ではなんか、紐なしバンジージャンプというのが流行っているらしい。
ネタバレ厳禁ということで、どういうものなのかは出回っていない。
ただ、やってみた人の感想を見ると、かなり評価はいいみたいだ。
元々俺は高いところが苦手だし、バンジージャンプ自体、やってみたいとも思っていなかった。
でも、その紐なしバンジージャンプは、高所恐怖症の人こそ是非やってみてほしい、という触れ込みだった。
そんな煽り文句を見ると、俄然、やってみたくなるというのが人心だろう。
俺は次の休みの日に、さっそく紐なしバンジージャンプをやっている場所に行ってみた。
まだ流行り始めということで、その施設も随分と焦らしてくる。
そこは普通の紐ありのバンジージャンプもやっているとのことだ。
そして、その普通のバンジージャンプをするところに立ってから普通のバンジージャンプにするか、紐なしバンジージャンプにするかを決めるというルールらしい。
階段を登り、バンジージャンプをする場所に向かう。
そこは崖のような場所だった。
飛ぶ位置まで進み、下を見下ろす。
崖の下は深い森になっていて木がクッションになるとしても、紐なしで飛ぼうものならほぼ助からないだろう。
そのとき、係員がどっちにするかを聞いてきた。
当然、俺は紐なしを選択する。
すると係員の人に「その場から動かないでください」と言われ、頭を覆うくらい大きなメットを被らされた。
目の前が真っ暗になったかと思うと、すぐに視界が広がる。
そこで俺は納得した。
つまり紐なしバンジージャンプとはバーチャル世界でバンジージャンプをするということだったのだ。
確かにこれなら、高所恐怖症でも試したくなる。
だって、本当に飛ぶわけじゃないのだから。
そう考えると確かにこれは面白いと思った。
早く飛び込みたい。
俺は大きく一歩を踏み出した。
終わり。
■解説
語り部は開始位置でメットを被らされている。
つまり、一歩、踏み出せば本当に落ちてしまう状態である。
係員に動かないように言われていたのに、一歩踏み出した語り部は本当に紐なしバンジージャンプをすることになってしまう。