本編
UFOを見たという人は結構いるかもしれない。
だけど、UFOに連れ去られたという人はほとんどいないだろう。
俺は5年前、学校帰りにUFOに遭遇して浚われた。
何をされたのかは覚えていないが、ものすごい恐怖心だけが残っている。
その時の俺は、よせばいいのにみんなにこのことをしゃべってしまった。
おかげで、高校時代はおろか大学時代も変人扱いされ、彼女はもちろん、友達さえもできなかった。
大学を卒業し就職する際に、俺は地元を離れた。
俺を知る人間のいない、遠くをわざと選んだのだ。
おかげで周りからも変人扱いされることもなくなり、ごく普通の生活を手に入れた。
仕事は結構キツかったが、同僚と一緒なら苦ではなかった。
友達と言うか話せる人がいるだけで、随分と生活が変わるものだ。
そして、同僚とは休みの日も一緒に遊ぶようになり、俺はまるで学校生活のときの孤独を晴らすように、色々と同僚と遊びまわった。
大学デビューならぬ、社会人デビューだろうか。
さすがに髪を染めたりはしなかったが。
そんなある日、同僚が合コンに誘ってくれた。
今まであまり異性と話すことがなかったので、俺はその合コンを受けようと思った。
だが、直前になり、俺は体調を崩し、合コンにはいけなくなってしまう。
同僚の方はせっかくだからと言って、合コンに参加していた。
それから数ヶ月が経っち、何回か合コンに誘われたが、まるで体が拒否反応を起こすように具合が悪くなってしまう。
そんな中、同僚が青ざめた顔をして、ある相談というか愚痴を言ってきた。
それは妊娠詐欺にあったというものだった。
酔っぱらって、気が付いたらホテルにいて、一緒にいた女が後日、妊娠したと言ってきて多額の慰謝料を要求されたのだという。
同僚は俺にも気を付けろと言ってきたが、そもそも合コンに行ったことないしと言ったら、苦笑いしていた。
そんなことを話していた数日後。
いきなり俺の家に、5歳くらいの子供が訪ねてきた。
見たことのない子供だった。
どうしたのかというと、その子は「お父さんに会いに来た」と言い出したのだ。
俺は笑ってしまった。
妊娠詐欺もここまでくれば、ギャグだ。
合コンにも行ったことのない俺に、子供をよこしてくるなんて。
俺はその子供に「お母さんの所へ連れてってくれるか?」と言った。
しかし、子供は首を横に振った。
仕方がない。
面倒くさいけど、警察に連れて行くか。
俺は見も知らない子供と手を繋いで、警察署へと向かった。
終わり。
■解説
一見すると、その子供の父親は語り部だということはあり得ないように思える。
だが、語り部はUFOに連れ去られている。
語り部が連れ去られたのは5年前で、子供は5歳くらい。
そして、語り部は何をされたかは覚えていないが恐怖心は残っているという。
合コンに誘われても、急に体調が悪くなるのは、異性と関わることに無意識にトラウマがあるからではないだろうか。
現れた子供は語り部と宇宙人の子供の可能性がある。
そして、語り部が言った「お母さんの所へ連れてってくれるか?」と言ったことに首を振ったのは、宇宙にいるから無理という意味なのかもしれない。