本編
私は遊園地のアトラクションクルーをやっている。
主にメリーゴーランドを担当している。
難しいことは何もなく、お客さんの身長検査やちょっとした清掃、そして何かトラブルがあったら対応するくらいだ。
昔から子供が好きだった私は、子供と関わるような仕事をしたいと思っていた。
最初は保母さんを目指したが、希望の大学受験に失敗し、かといって専門学校や通信制の学校に行くほどお金がなかったので、諦めた。
そこで、子供が多く集まる場所として、遊園地を選んだというわけだ。
働き始めたころは子供たちの笑顔を見ることに喜びを覚えたものだったが、そんなものは半年もすれば消え失せてしまった。
今、思い返してみれば、大学に落ちた段階で、私にそこまでのモチベーションはなかったというわけだ。
毎日が同じことの繰り返し。
私じゃなくてもできる仕事であり、やりがいがあるわけでもない。
正直、私はここに就職したことを後悔し始めていた。
しかも、このご時世か、遊園地に来園する客数は年々減り続け、日曜日であっても、結構、ガラガラだ。
人気のないアトラクションは電源を切ったり、メンテナンスという札を立てて止めている始末。
少し早いがお昼休憩に入ろうかと思っていると女の子が「乗せてください!」とやってきた。
身なりはちょっとアレだったけど、とても可愛らしい女の子だ。
私はその子から券を受け取って、ほぼ貸し切り状態のメリーゴーランドに女の子を乗せる。
そして、メリーゴーランドは回り始めた。
女の子は終始笑顔で、本当に楽しそうだった。
その子の笑顔を見ていると、この仕事についた当時の気持ちを思い出した。
周り終わり、女の子が降りてくる。
その際に「とっても楽しかったです!」とペコリと頭を下げたのは、本当に可愛かった。
だが、女の子はメリーゴーランドを降りてからも、ずっと近くに立ち続けていた。
どうしたのかと思い、声を掛けてみる。
すると女の子はこう言った。
「お母さんがね、迷子になったらメリーゴーランドのところにいなさいって言ってたの」
なるほど。
どうやら待ち合わせ場所として、メリーゴーランドの前を使ったのだろう。
しかし、15分が過ぎても母親らしき人物が来ない。
女の子は立ち疲れたのか、その場にしゃがみこんでしまった。
私は女の子に「お母さんが来るまで乗ってていいよ」と言って、メリーゴーランドに乗せた。
お客さんもほとんどいないし、これくらいはやってもいいだろう。
女の子は何度乗っても飽きないのか、メリーゴーランドに乗っている間はずっと笑顔だった。
その笑顔だけで、私の心は癒されていく。
夕日の赤く優しい光が、女の子の笑顔を照らし続けていた。
終わり。
■解説
女の子は昼辺りからやってきて、夕方までメリーゴーランドに乗っているということは、母親が迎えに来ていないということになる。
また、女の子は「迷子」になって、メリーゴーランドのところに来ている。
それなのに、迎えに来ないというのは異常である。
また、語り部は女の子の服装が「アレ」と言っていることから、みそぼらしいことがわかる。
もしかすると、女の子は迷子ではなく「捨てられた」のかもしれない。