本編
「自分の血と髪の毛を入れたチョコを食べた人とは、両想いになれるんだって」
親友のK子ちゃんから教えてもらったお呪い。
もう少しでバレンタインデーだから、試してみようと勧められた。
渋る私にK子ちゃんは今年が最後のチャンスだよと言ってくる。
中学最後のバレンタインデー。
3年間ずっと好きだったO君とは高校に行けば別々になってしまう。
だから、チョコレートを渡せるのは今年が最後になってしまうというわけだ。
しかも、もしダメだったとしても、気まずいのは2ヶ月くらいなんだから、やるだけやろうとグイグイと押してくる。
完全に楽しんでいるような感じだ。
K子ちゃんからは、好きな男子の話は聞かない。
おそらく、好きな男の子はいないのだろう。
でも、年頃の女の子だから恋愛には興味があるみたいで、それを、私を使って楽しんでるというわけだ。
K子ちゃんとは幼稚園からの付き合い。
いつも私の味方をしてくれるK子ちゃん。
面白がってはいるが、ちゃんと私のことを考えてくれているんだと思う。
K子ちゃんがこんなことを言わなかったら、きっと私はO君に対してなんのアクションも起こさないで終わっていたはず。
よし、中学最後の思い出としてやってみよう。
さっそく、私はチョコ作りを開始した。
K子ちゃんが作るのを手伝うと言ってくれたが、さすがにそれは恥ずかしかった。
ありがとうと言って断り、休みの日にチョコ作りに勤しむ。
チョコの完成間近、自分の血と髪を切り刻んで混ぜる。
心の中でO君にごめんと呟きながらも、もし、本当に両想いになれたらどこにデートに行こうかなんてことを考えていた。
ラッピングしてチョコは完成した。
そして、バレンタインデー当日。
O君の机にチョコを入れるため、早朝に登校した。
ビックリしたのはK子ちゃんも既に登校していたことだ。
K子ちゃんは「やっぱり、早い時間に来たのね」とお見通しだった。
さすがに面と向かってチョコを渡すことは無理だ。
O君の机にチョコを入れる。
そしたらK子ちゃんが、みんなが登校するまでどっかに隠れてた方がいいと言う。
なんでって聞いたら、いつも遅刻ギリギリの私が早くから来てれば、みんなにバレバレになるからって言われた。
なるほど。
確かにその通りだと思い、私はすぐに教室から出て、図書室に向おうとした。
すると教室の中からガタゴトと音がしたから、そっと教室の中を覗いてみた。
なんと、K子ちゃんがO君の机にチョコを入れていたのだ。
もしかしたら、K子ちゃんもO君のことが好きだったのだろうか、と複雑な気分になった。
でも、もし、O君がK子ちゃんを選んだとしたら、それはそれでいいと思った。
他の子に取られるくらいならK子ちゃんに取られる方がいい。
その日、O君はいつもより少し上機嫌だったような気がする。
チョコが入っていたから、喜んでくれたんだろうか。
次の日、私はどうしても気になって、O君に「チョコ貰えたの?」と聞いてみた。
すると「ああ、1個だけ貰ったよ。美味しかった!」と笑っていた。
どうやら、ちゃんと食べてくれたみたいだ。
これで両想いになれるかもしれない。
だけど、そのこととは裏腹に、私の気持ちはなんだか冷めてしまったような感じがする。
それよりも今は、K子ちゃんと何して遊ぶかを考える方が楽しかった。
終わり。
■解説
K子がOの机にチョコを入れたのなら、Oはチョコを『2個』以上貰ったはずである。
しかし、Oは「1個だけ貰った」と言っている。
そう考えると、K子が語り部のチョコを「取った」可能性が高い。
そして、ポイントとなるのは、「自分の血と髪の毛を入れたチョコを食べた人とは、両想いになれる」というお呪いである。
これは自分の血と髪の毛を入れたチョコを食べれば『相手が自分を好きになるのではなく』、『両想い』になるということである。
このお呪いを教えたのはK子であるということを考えると、K子が語り部のチョコを取って食べることで、K子は『語り部と両想い』になろうとしたのではないだろうか。
その証拠に語り部はOよりもK子と遊ぶことの方が楽しくなってきている。