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■本編
男は昔、ある罪を犯した。
幸い、それが公になることはなく、捕まって裁きを受けることはなかった。
しかし、男は罪悪感に苛まれて神父となる。
懺悔室で、罪を持った人を許すことで自分の罪も、いつか許されるのではと考えていた。
数十年が経ち、男の罪悪感が薄れはじめた頃、ある初老と男が懺悔室に入ってきた。
「私が悩んでいるのは殺人についてです」
いつもくる人間は小さな罪ばかりだったこともあり、男はその懺悔に対して真摯に耳を傾ける。
「子供は病弱でいつも家の中で過ごさせていました。ですが、なにかと外に出たいと我儘ばかりでした」
「だから、私はある日、外に遊びに出したのです。子供は久しぶりの外で、大はしゃぎをしていました。そして、いつの間にか目の届かないところに行ってしまったのです」
「私は慌てて探しました。ですが、ついに見つけることができませんでした」
「私が悔いているのは、このまま子供が見つからなければ私は楽になれるのではないかと思ってしまったことです」
それを聞いて、その程度なら罪にはならないから気にしなくても大丈夫と男は言った。
「いえ、私の罪は人殺しです。子供を浚った犯人を……」
そこで男は、あなたは子供を誘拐した男を殺して気が晴れたのか、と質問する。
「正直、わからないのです。それで子供が帰ってくるわけじゃありませんから。復讐なんてするべきではないのかと悩んでいます。ですが、子供のことを考えると、私は私自身を許せそうにありません」
それを聞いて男はある提案をした。
私は過去にある罪を犯した。そんな私をあなたが許す。そして、私はあなたを許す。
そうすることで、怒りを収めたらどうか、と。
「神父様はどんな罪を犯したのですか?」
男は今まで一度も話したことがないことを告白した。
私は昔、湖で6歳の女の子を溺れさせてしまったことがあります、と言った。
あれから私はずっと罪悪感に悩まされていた。赤い靴を見るだけで、その日の光景が今でも鮮明に蘇る。
もし、あなたに許してもらえたら、私の罪悪感もきっと消えてくれるはず、と。
「神父様、話していただいてありがとうございました」
初老の男は懐から銃を取り出して、こう言った。
「やっぱり、許すことはできません」
初老の男は神父の男を撃ち殺した。
終わり。
■解説
懺悔に来た初老の男は、一度も「殺した」とは言っていない。
復讐するかどうか悩んでいた。
だが、神父の話を聞いて許すことができず、神父を撃ち殺した。
初老の男の子供を殺したのは語り部の神父の男で、その男と話して許せるかどうかを判断していたということになる。