■本編
最近、この町は物騒になってきた。
通り魔や行方不明者が増えている。
ニュースで、不景気のせいって言っているのを見た。
不景気になると、治安が悪くなるらしい。
俺は完全に他人事だったのだが、友人が夜に不審者に追いかけられた。
そのショックのせいで、会社を辞めて、部屋に引きこもってしまった。
なんとか気を紛らわして欲しいと思って、頻繁に友人の家に通った。
アニメとかゲームを持って、友人の家に行き、休みの日は泊りがけで友人と遊んだ。
その甲斐があってか、友人は少しずつ外に出られるようになった。
そんなある日、よく行く本屋に、友人と立ち寄った。
すると、友人はある女性店員をジッと見ていた。
最近入った、新人の店員らしい。
友人は俺に、どうやって声をかけたらいいかを相談された。
どうやら一目惚れらしい。
いきなり誘ったりすると警戒されるから、常連になって少しずつ話すところから始めたらしい。
数ヶ月もすると、世間話もするようになっていた。
傍から見てもかなり仲がいい。
時々、仕事中に話し過ぎて、店長に怒られているくらいだ。
それから少しして、なんと、友人は彼女の仕事が終わった後に、家に送るようになっていた。
今は治安が悪いからと言ったら、喜んでお願いしてきたらしい。
だから俺は、友人にそろそろ仕事を探したらどうかと提案した。
ゆくゆくは結婚するのかもしれないんだから、仕事についていた方がいいと説得する。
すると友人は、覚悟を決めた顔でこう言った。
「もし、俺が行方不明になっても探さないでくれ」
俺は、最初、友人が何を言っているのかがわからなかった。
だけど、数日後、その意味がわかった。
友人は行方不明になり、本屋の店員である彼女もいなくなってしまった。
どうやら、二人は駆け落ちしたみたいだ。
なるほど。そういうことか。
友人の恋が成就したことは純粋に嬉しかったが、駆け落ちするのなら、俺にも一言言って欲しかった。
まあ、言われても、俺はきっと、駆け落ちなんて反対しただろう。
それを見越して、俺にあんな風に言ったんだと思う。
それにしても、駆け落ちか……。
彼女の方に事情があったんだろうか。
そういえば、最近、事件の話を聞かなくなった。
友人が駆け落ち先も、治安がいいところだといいんだが。
終わり。
■解説
本屋の新人店員の女が、通り魔殺人の犯人。
友人は夜に、彼女に襲われている。
しかし、夜だったため、顔をはっきりと見ていない。
そんな彼女を本屋で見た友人は、それを確かめるために彼女に近づいた。
そして、友人は確信を持ち始めて、語り部に「行方不明になっても探さないでほしい」と言った。
それは、語り部の男を巻き込まないためだったと考えられる。
しかし、彼女にもそのことがバレ、友人は殺され、彼女自身も町から出て行ってしまった。
この町の治安がよくなったのは、彼女が町からいなくなったため。