サイトアイコン 鍵谷端哉の怖い話

【洒落怖】誤認

<洒落にならない怖い話一覧>

〈前の話へ:不参加〉    〈次の話へ:秘密の埋葬〉

今のアパートに引っ越してきてから3ヶ月が経つ。
少し古いけど、駅とコンビニが近いし、家賃も安めなのでかなり満足だった。

だけど、1ヵ月前くらいからあることに悩まされている。
それは深夜2時になると、騒音が酷くて目が覚めることだ。
俺は3階に住んでるんだけど、1階から3階まで階段を物凄い勢いで駆け上がってくる。

1分くらいの短い時間だけど、あまりにも大きい音なので目が覚めてしまう。

今の部屋は気に入っているし、他の住人とはあまり揉めたくない。
だから、最初は気にしないようにして、耳栓をして耐えようとした。
でも、どうやっても音が聞こえてくる。

それはもう直接耳の中に響いてくるんじゃないかってくらいだ。

1週間くらいはなんとか我慢してたけど、さすがに限界だった。
なので、大家さんに相談した。

「本当に? 他の人からは何も来てないけど」

そう言われてしまった。

俺はその言葉を聞いて、愕然とした。
だって、あんな大きな音を、あんな時間に出されれば誰だって苦情の一つも入れたくなる。
それなのに、誰からも来てないなんておかしい。

とにかく、大家さんがアテにならないなら、直接注意するしかない。
寝不足のせいで、仕事にも影響が出てきている。
他の住人と揉めたくないなんて言ってられない。

そこで、俺はスマホを握って、ドアの前で待機する。

深夜の2時。
いつも通り、バタバタと階段を駆け上がっていく音がする。
そして、3階まで上がって来たところで、ドアを開く。
動画に撮れば、さすがに大家さんも信じてくれるだろうし、最悪、警察に相談することだってできる。

そう思って部屋の外に出たのに、そこには誰もいなかった。

さらに上に登って行ったか、降りて行ったのかと思って、階段の方に近づこうと思ったときだった。
今度は、こっちに走ってくる音がする。

通路には誰もいない。
それなのに足音だけが近づいてくる。

俺は慌てて部屋に入って、ドアを閉めた。
すると、今度はドアを外からバンバンと叩かれる。

ドアから、叩かれる振動が伝わってきた。
冷汗が噴出してくる。

ガタガタと震えていたら、すぐにピタリと音が止んだ。
どこかに行ったのだろうかと思ったけど、確認する勇気はない。

戸締りを入念に確認した後、布団に潜り込むが、その日は眠れなかった。

そして、次の日。
いつものように深夜2時になると階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。

もう、確認する気は起きない。
ひたすら、布団の中で耐えることにする。

今までは、階段を駆け上がっていく音がして終わりだった。
それなのに、今度はドアを叩かれるようになった。

時間はせいぜい2分くらいだけど、それでも耐えられるものじゃない。

俺は引っ越しを決意した。
かなり家賃は高くなったが、エレベーターがあるマンションにした。
完全に階段がトラウマになってしまった。

ただ、引っ越してからも、俺はあのアパートでのことが気になっていた。
どうして、俺にしか足音が聞こえなかったんだろうか。

俺はあの部屋は実は事故物件で、大家さんが黙っていたのではないかと考えた。
確か、事故物件は次に住む人には告知義務があるが、その次の人には知らせなくていいみたいな話を聞いたことがある。
たぶん、そういうことなんだろう。

そう思って、あのアパートのことを色々調べてみた。

そして、俺の予感は的中した。
5年ほど前、あのアパートの住人が、交通事故で亡くなっている。
トラックが突っ込んできて、家の外壁とトラックに挟まれて、上半身が潰れたらしい。

下半身だけが残った形だ。
だから、きっと階段を登る音だけが聞こえたんじゃないだろうか。

俺は引っ越したとはいえ、亡くなった人の事故現場に行って、花を添えて、お供え物も置いた。
手を合わせて成仏できるようにお祈りした。
これであの怪奇現象が解決するとは思えないけど、俺の中で一つの区切りにはなった。

ただ、一つだけ気になったことがある。
亡くなった人が住んでいたのは、俺の部屋じゃなく、隣の部屋だった。

なんで、隣の人じゃなく、俺にだけ音が聞こえたんだろう。
それが不思議だった。

でも、もう終わったことだ。

そう思っていた。

そして、その日の深夜2時。
突然、インターフォンが鳴った。

ビックリして、ドアスコープから外を見てみる。
だけど、誰もいない。

気のせいかと思っていたら、今度はドアをバンバンと叩かれた。
ドアから、叩かれる振動が伝わってくる。

なんで?

俺は混乱した。
とにかく、ドアを開けることもできず、息をひそめてじっと耐える。

すると10秒くらいで音が止んだ。

一体、何が起きたのかわからなかった。
亡くなった人の事故に、俺は全く関係ない。
それに、その人が住んでいたのは隣の部屋だ。

なんで、俺についてくるのかがわからない。

そして、もう一つ、不可解なことに気付いた。

あの日、階段を駆け上がってくる人を動画に撮った。
あのとき、目で見たときには誰もいなかった。
だけど、動画にははっきりと、こっちに迫ってくる人が映っていた。

髪が長くて、鬼のような形相で迫ってくる女の人の姿が。

ただ、あのアパートで亡くなった人は中年男性だ。

モバイルバージョンを終了