〈前の話へ:確かに殺したはずなのに〉 〈次の話へ:緊急病棟にて〉
これは、中学の教師をやっている友人から聞いた話。
その女の子はクラスの中でも特に目立つような生徒ではなかったらしい。
でも、孤立しているわけでも、ましてやイジメられているというわけでもない。
まさに、普通と言える生徒だったみたい。
ただ、その女の子は母子家庭で、他の生徒と比べると、やはり経済的には厳しいだろうなって感じだった。
別にそれを悲観しているわけでも、卑屈になっているわけでもない。
そういう点でいうと、他の生徒と比べると精神的には強かったのかもしれない。
なので、私の友人は、最初の頃は目をかけていたようだったが、次第に気にしなくなり、普通の生徒と変わらない扱いをしていたらしい。
そして1年が過ぎようとしたときだった。
いつの頃からか、その女の子がクラスの中心的な立ち位置になっていることに気付いた。
彼女の周りにはいつも何人かが集まっている。
心なしか、1年前よりも、笑顔が多いように思えた。
そのとき、友人は、きっと彼女の中で何か心境の変化があり、それがきっかけでポジティブな方向に変わったのだろうと思ったらしい。
人は前向きな人間に憧れるものだ。
自然と、人を引き付けているのだろう。
そう、結論付けた。
それはいいことだし、別に気にすることでもない。
そう思っていたのだが、クラスの、ある女の子から相談を受けた。
『あの子の背中に無数の傷がある』
いつも体育の着替えの際、壁際に行くのでおかしいと思い、何気なく背中を見たのだという。
すると、背中にはたくさんの生傷があったらしい。
その話を聞いたときに、真っ先に思いついたのが、親による虐待だった。
そこで友人は、その子に何気なく、聞いてみたのだという。
でも、その子は「何もない。逆に母親とは仲がいいくらいだ」と返したらしい。
それでも納得できなかった友人は、その子の家の近所の人たちに話を聞いて回った。
すると、思った通り、その子の家から頻繁に罵声が聞こえるのだそうだ。
そして、友人は家庭訪問をし、その子の母親に会いに行った。
母親は疲れきった様子で、精神的にも不安定な状態に見えた。
追い詰められた表情をしている。
友人は母親に虐待していないかと尋ねたところ、ヒステリックに怒鳴られたらしい。
虐待の可能性が高いと思った友人は、児童相談所に連絡した。
そして、すぐに相談員が来て、話を聞くことになった。
結果は虐待ということで、その子と母親は離れて暮らすことになった。
ただ、女の子の方は最後まで納得できなかったようで、必死に母親と暮らしたいと言ったそうだ。
だが、母親の方が限界で、「助けてほしい」と相談員に懇願したのだという。
実は、女の子が母親に対して、「自分を虐待するように強要」していたらしい。
女の子はカウンセリングを受けることになった。
女の子の話を聞いたところ、どうやら女の子は、虐待される自分を悲劇のヒロインのように捉えるようになり、「可哀そうな自分が頑張る」ことで高揚感を得ていたのだという。
だけど、それに母親の方が耐えられなくなった。
それはそうだろう。
我が子を痛めつけたい親なんてそうそういない。
でも、やらなければ娘から暴力を受ける。
つまりDVをされていたのは母親だったということだった。
友人は今も教師を続けているが、その子よりもインパクトのある生徒は未だにいないのだそうだ。

