定期的に動物のタレントというか、人気の動物というものが出てくる。
パンダ、チンパンジー、レッサーパンダ、犬。
マヌルネコなんかも、一時期、話題にもなった。
そして――サル。
今までは見向きもされなかった動物園に、人が殺到する。
素通りしていたコーナーを見るために、わざわざ動物園に行き、混雑の中、我慢しながら順番待ちをする。
こうやって書いてみて、冷静になってみるとなんとも馬鹿らしいことだが、当時の俺もまさにその中の人間の一人だった。
まあ、彼女とのデートで利用したというのが本音なんだけど。
つまりはそのサルが好きで、その動物園に行ったわけではなくて、彼女をデートに連れ出すための口実に使っただけだ。
俺の作戦は成功し、彼女とのデートに漕ぎつけることができたのだが、当日は正直、後悔した。
というのも、想像していた10倍は混んでいた。
本当に揉みくちゃになって、1メートル進むのにも5分はかかった。
そして、3時間かけてようやくそのサルの前についたと思ったら、数十秒だけ見て終わり。
本当に酷い。
彼女と一緒にいられたのは確かに嬉しかったけど、それ以上に混雑のストレスの方が高かった。
これでお目当てのサルが寝てたりしていたら最悪だった。
だけど、その心配は杞憂で、俺たちが柵の前に辿り着いたときは、そのサルはちゃんと起きていた。
というより、なんとこっちを見て、手を振ったのだ。
それには周りの客たちも歓声を上げた。
もちろん、俺の隣にいた彼女もだ。
そのサルがそんなことをするなんて、今までなかったらしい。
本当にレアな場面だったようだった。
ただ、俺は正直、声を上げるどころか、目を逸らしたくなったくらいだ。
というのも、そのサルが手を振った際に、目が合ったのだ。
バッチリと。
こう言ったら単なる気のせいとか気にし過ぎかもしれないが、俺に向かって手を振ったように見えた。
ニヤリと笑って。
それが妙に不気味だった。
彼女は何枚も写メを撮っていたけど、俺はスマホを取り出す気にもなれなかったし、さっさとその場を立ち去りたかった。
帰り道、彼女は結構、興奮気味で、愛嬌のあるサルがかなり気に入ったようだった。
そして、また来ようと、彼女の方から誘ってくれた。
俺はもう、あんな不気味なサルは見たくなかったが、彼女の誘いを断るわけにはいかない。
そして、それからも10回以上は、その動物園に通った。
サルの人気は、一気に盛り上がった分、冷めるのも早かった。
5回目くらいには、見に来る人はかなり減っていた。
だから、混雑に辟易することはなくなったのだが、それ以上に不快を感じる。
というのも、毎回、そのサルが俺に向かってニコリと笑って手を振るのだ。
来てくれたことが嬉しいというように。
犬や猫とかならまだ好かれるのはいい。
だけど、サルとなると、話は変わって来る。
嬉しいというより、なんだか不気味という方が勝ってくる。
ただ、3ヶ月もすると、彼女の方の熱も冷め、あのサルを見にいこうということもなくなった。
俺はそのことに、心底ホッとした。
そして、そのサルのことを忘れた頃だった。
ふと、テレビの特集で、ある映像が流れた。
ブームが去った動物の今を特集するというような番組だった。
何となく流し見していた。
そしたら、あのサルが映った。
最初は興味なく、カメラの方を見ようとしていなかったサルが、チラリとカメラの方を見た。
すると、いきなりニコリと笑って、手を振ったのだ。
まるで動物園に行ったときのように。
あのサルと目が合ったのだ。
バッチリと。
もちろん、テレビ越しだったし、その映像もライブなんかじゃなく収録された映像だった。
それなのに、目が合ったという感覚が強く残った。
なんだか「また会えて嬉しい」と言われたような気がした。
俺は直ぐにテレビを消した。
あれは気のせいだし、もうあの動物園に行くこともないから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
その次の日のことだ。
「あのサルが動物園から脱走した」というニュースが流れた。
俺は早く捕まってくれと願ったが、10日経った今でも、捕まったというニュースは流れてこない。
そして、気になることがある。
昨日から、寝ていると窓を引っ掻くような音がするのだ。
気のせいだと思いたいが、窓にはしっかりと引っ掻き傷が残っている。

