〈前の話へ:帰ったら、家族がいなくなってた〉 〈次の話へ:いつも見ている飛び降り自殺の風景〉
最近、ずっと残業が続いてるせいか全然疲れが取れない。
終電で帰って、朝の7時の電車に乗る。
こんな生活で疲れない方がおかしいだろう。
今日も終電で家へと帰る。
唯一救いなのが、終電は座れるところだ。
電車に乗る時間は1時間ほど。
これで1時間立ちっぱなしなんて、下手したら倒れてしまう。
椅子に座っているとすぐにウトウトしてくる。
少しでも睡眠を取りたいというのもあるが、疲れすぎて起きてられないと言うのが本音だ。
とはいえ、乗っているのは終電なので乗り過ごしたら致命的になる。
一度、爆睡して終点まで行ってしまって、ひどい目にあった。
だからいつも席に座ったら携帯でタイマーをセットしている。
大体、タイマーをセットしてから1分もしないうちに寝落ちする。
今日も、いつものようにタイマーをセットした後、すぐに寝てしまった。
いつもだと、タイマーが鳴って、慌てて起きるのだけど、今日は自然と目が覚めた。
電光掲示板を見ると、次は降りる1つ前の駅だった。
1駅なら寝ない方がいいと思い、タイマーを消す。
それにしても今日は熟睡できたのか、完全に眠気が取れた。
家で寝たときよりもすっきりしている。
なんか得した気分だ。
そうしているうちに駅に着き、ドアが開く。
何人か降りて、何人か乗り込む。
ドアが閉まり、電車が出発する。
次か。
数分もすれば到着する。
今日の晩御飯をどうするか考えていると、電車が停まった。
俺は立ち上がってドアの前に立つ。
ドアが開く。
降りようとしたとき、いつもの風景が違うことに気付いた。
慌てて下がって、電光掲示板を見る。
すると俺が降りる前の駅名が表示されていた。
あれ? 勘違いか?
俺はまた椅子に座る。
ドアが閉まり、電車が出発する。
そして数分後、電車が停まって、ドアが開く。
降りようとすると、さっきと同じ光景だった。
慌ててまた電光掲示板を見る。
するとまた降りる前の駅名が表示されていた。
今度は絶対に見間違いなんかじゃない。
急に背筋が寒くなった。
今度は座らずに立ったまま待つことにする。
すると車内放送で、次の駅名が放送された。
ちゃんと自分が降りる駅名だった。
疲れてるせいだな。
そう思って待っていると、電車が停まってドアが開く。
また、さっきと同じ風景だ。
電光掲示板を見ると、やはり降りる1つ前の駅名が表示されている。
……ずっと同じ駅に停まってる。
あり得ない事態に混乱する。
有名なきさらぎ駅みたいに、見たことのない駅に停まるなんて話は聞いたことあるが、同じ駅に停まるなんて話は聞いたことがない。
それから5回くらい、ずっと同じ駅に停まる。
見ていると、この駅で数人が降りて、数人が乗り込んで来る。
しかも、毎回違う人だ。
誰も降りなかったり、誰も乗り込んでこなかったりということもあった。
そして、周りの人たちは騒いでる人はいない。
つまり、この状況が異常だと思っているのはどうやら俺だけらしい。
みんな普通の顔をして乗っている。
携帯を見ると、時間が進んでいない。
たぶん、このまま乗り続けても状況は変わらないだろう。
となると降りてみるしかない。
だけど、どうしても決心がつかない。
降りたら変な世界だったらどうする。
そんな思考が降りるのを躊躇わせる。
降りるべきか乗り続けるべきか。
俺は結局、今回も降りることができず、頭を抱えた。

